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第一章 バロン
12:……機密データを盗んだ件ですよね
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「私は、王族であり、同時に軍務にもついている。様々な活動を行ってきたが、娼館で働くオールドドメインを助けたのはこれが初めてだ。彼の名前はバロン。まだ名前しか語ってくれないが、これを機に彼と接してみようと思う」
まるで、あらかじめ用意されていたセリフを読み上げるかのように、よどみなく言ったエドワードは、記者たちをかき分けバロンを連れ歩いて行く。
バロンは、茫然とした。
何を言っているんだ、この人?
三年前に鹿の園を放火したバロンだと、そこまで分かっているじゃないか。
なのに、名前しか語ってないと何故、嘘を?
目の前には、黒塗りの車が止まっていた。
さっとラリーが先頭に立ち、車のドアを開ける。
「乘れ」
記者には分からないよう、バロンの背中をグッと押し車に押し込むと、後からエドワードが乗り込んでくる。そして、窓を細く明けた。
「ラリー。ニューイヤーデイから任務ご苦労だった。特別手当の他に、私からも報奨金を出すと他の者にも伝えておいてくれ」
ラリーは、薄笑いで答える。
「皆、喜びます」
「お前は、連日勤務が続いているんだから、よく休め。それでなくとも、最近、副隊長に昇格して大変だろう」
「いえ、この時期は、家に一人いても……暇ですから」
「そうか」
エドワードが窓を閉めると、ラリーが傍を離れて敬礼する。
車が静かに動き出した。自動運転なので、運転手はいない。
目的地はどこだ?
沈黙が痛い。
ようやく、エドワードが喋り始めた。
「お前は、どんな罪で私に拘束されたか、自覚しているか?まさか、違法娼館での労働や、鹿の園への放火とは思っていまい?」
「……機密データを盗んだ件ですよね」
「それを、どこにやった?」
きつい口調で聞かれ、バロンは軍コートの下で右手を握りしめる。
「誰に売った?」
―――ここにあります。
そう言おうとしたが、先にエドワードが口を開いた。
「客に、そそのかされデータを盗み出した末路が、違法娼館で働く最低ランクの男娼だなんて、哀れだな、バロン」
言葉が鋭角に心に刺さってくる。
「あのデータがどんなものか知っているか?」
「……王族とそれに次ぐ地位の方々の核細胞データ……だったと思います」
「ほう、そこまで知っているのか。で、どこにやった?幸い、世に機密データが出回っている様子はないのだが?」
エドワードの手が伸びて来て、バロンの首元を掴んだ。
顔には、ラリーのような薄ら笑いが浮かんでいる。
「もしかして、廃棄を恐れているのか?安心しろ。それはない」
「え?」
「これを機に彼と接してみようと思うと、マスコミに私が答えたことを言質としろ」
エドワードが、力任せにバロンを突き放す。車のシートにバロンの後頭部がドンと当たる。
困った。この人は、俺が廃棄になるのを恐れていると思っている。逆なのに。
まるで、あらかじめ用意されていたセリフを読み上げるかのように、よどみなく言ったエドワードは、記者たちをかき分けバロンを連れ歩いて行く。
バロンは、茫然とした。
何を言っているんだ、この人?
三年前に鹿の園を放火したバロンだと、そこまで分かっているじゃないか。
なのに、名前しか語ってないと何故、嘘を?
目の前には、黒塗りの車が止まっていた。
さっとラリーが先頭に立ち、車のドアを開ける。
「乘れ」
記者には分からないよう、バロンの背中をグッと押し車に押し込むと、後からエドワードが乗り込んでくる。そして、窓を細く明けた。
「ラリー。ニューイヤーデイから任務ご苦労だった。特別手当の他に、私からも報奨金を出すと他の者にも伝えておいてくれ」
ラリーは、薄笑いで答える。
「皆、喜びます」
「お前は、連日勤務が続いているんだから、よく休め。それでなくとも、最近、副隊長に昇格して大変だろう」
「いえ、この時期は、家に一人いても……暇ですから」
「そうか」
エドワードが窓を閉めると、ラリーが傍を離れて敬礼する。
車が静かに動き出した。自動運転なので、運転手はいない。
目的地はどこだ?
沈黙が痛い。
ようやく、エドワードが喋り始めた。
「お前は、どんな罪で私に拘束されたか、自覚しているか?まさか、違法娼館での労働や、鹿の園への放火とは思っていまい?」
「……機密データを盗んだ件ですよね」
「それを、どこにやった?」
きつい口調で聞かれ、バロンは軍コートの下で右手を握りしめる。
「誰に売った?」
―――ここにあります。
そう言おうとしたが、先にエドワードが口を開いた。
「客に、そそのかされデータを盗み出した末路が、違法娼館で働く最低ランクの男娼だなんて、哀れだな、バロン」
言葉が鋭角に心に刺さってくる。
「あのデータがどんなものか知っているか?」
「……王族とそれに次ぐ地位の方々の核細胞データ……だったと思います」
「ほう、そこまで知っているのか。で、どこにやった?幸い、世に機密データが出回っている様子はないのだが?」
エドワードの手が伸びて来て、バロンの首元を掴んだ。
顔には、ラリーのような薄ら笑いが浮かんでいる。
「もしかして、廃棄を恐れているのか?安心しろ。それはない」
「え?」
「これを機に彼と接してみようと思うと、マスコミに私が答えたことを言質としろ」
エドワードが、力任せにバロンを突き放す。車のシートにバロンの後頭部がドンと当たる。
困った。この人は、俺が廃棄になるのを恐れていると思っている。逆なのに。
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