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第四章

56:儲け話には噛ませてよ

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「下っ端の使い捨てはいつものことだろ。で、今日は何か用?二人だけでなんかやっちゃう?別組織のオレオレ詐欺のアジトから金庫を盗み出したときは滾ったよなあ」
「何年前の話してんだ。それに、現場から長い期間、離れていた俺なんてじいさん同然」
「ハジメンならすぐ勘も戻るし、今流行りのお仕事にも付いていけるっしょ」
「嫌だよ、タタキのための手配師なんて。下っ端に、捕まれ、強盗殺人で死刑になれって言ってるようなもんだろ」
「相変わらずお優しい」
「パン。お前、保険に詳しかったりするか?生保の方」
 彼の目が怪しく細められる。
 やっぱりこいつも普通ではないのだなと、改めて思わされた。
「でかいとこ行くね」 
「俺がやろうとしているんじゃない。なんかこう、変な感じのする奴がいるんだ」
 エイトは大学病院と医師のフルネームを伝えた。
「こいつの資産状況を調べて欲しい。消費者金融、闇金、FXサイト。あとは闇スロ。闇カジノ。キャバや風俗嬢に入れあげてないかも」
「大学病院の医者かあ。年収一千万円から一千五百万円ってとこでしょ。税金で持ってかれるから、奴らそこまで金持ちじゃないんだよなあ」
 パンがめんどくさそうな顔をしたので、エイトはポケットから百円玉出して額に押し付けてやった。
「誰にも話すな。これ、謝礼だ」
 パンが身体をのけぞらせ、額から落ちかける百円玉をキャッチした
「いいけど、儲け話には噛ませてよ」
「知り合いが巻き込まれているかもしんねえんだよ。そいつさ、その医者の患者なんだけれど死亡保険金が前払いされるっていう特約を早く使えって催促されているらしい。俺が知る限り毎日連絡が入っている」
 パンがパソコンを叩いた。
「そんな高額な保険にその人、入っているわけ?あ、でも限度額があるな。請求できても三千万円までだ」
「額としてはまあまあか」
 でも、医者が危険を犯してまで欲しがる額とは思えない。
「三千万円の終身保険に入っていたとして保険料もかなりのもんだよ。月九万円ぐらい。三十歳男性で。その患者は独身?親とかは?」
「いないし、もっと若い。親は死んだって言っていたから、未成年の頃の契約なはず」
「とすると」
 パンがまたキーボードを叩く。
「子供には最高一千万円までしか死亡保険金がかけられないみたいだ。じゃあ、高額な親の死亡保険金?保険料の安い定期保険なら払えるだろうし」
「特約の金はおまけってことか?つまり、資産の乗っ取り??」
「かもね。ええっと、一億の保険金でも保険料は一万円ほど。四十歳男性でね。つまり、こうか。借金で首が回らなくなった生保レディが保険金支払情報を情報屋に売る。情報屋はヤクザに。ヤクザは同じく借金で首が回らなくなった医者に指示する。身寄りなくて余命幾ばくも無い患者を養子縁組に持ち込めって。ははあ、これって、手が後ろに回らないクリーンな犯罪ってヤツか。で、その患者、総額どれぐらい金を持っていそうなの?」
「知らねえ」
 エイトはギロリとパンを睨んだ。
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