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第三章
48:モテそうなのに。じゃあ、未経験?
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エイトがナッツを口に放り込みながら顔をしかめる。
「いいよ。それで」
「よかねえわ。さっきも言ったけど、あんたを動かすのってかなり面倒くさい。けど、気持ちが乗ってくると早い。汚部屋作業のときもそうだった」
「悪かったね。面倒くさい性格で」
零も注文したカシスソーダを煽り、数枚添えられていたチップスを口に運ぶ。
「一人でいるやつに声をかけてくる」
「は?いいって」
零は慌てて止めたが、エイトはカウンターを離れ、丸テーブルで飲んでいる男に声をかけにいく。
「連れと飲んでいるだど、あんたも飲まない?え?待ち合わせ。そりゃ失礼」
気安い感じで声をかけ、断られてもめげない。そして、あっという間に男を一人連れてきてしまった。
なんて肝の据わり具合だ。
しかも、ゲイじゃないくせに、
「ほい。伊藤だか、佐藤だか」
エイトに連れられてきた男は、「内藤だし」と言って笑う。
新橋で働くサラリーマンだと彼は言った。こういう場は噓がまかり通る場だから、名字だって肩書だって信じない。呼び名は記号と一緒。ネットで調べるだけ調べたから、そういうことは分かる。
同じセクシャリティーの相手と話すのは、零は初めてだった。
最初は緊張したが、少し話をするうちに打ち解けた。
数分してエイトが席を黙って移動した。
気を使ってくれたらしい。
彼はすぐ側にいた男と仲良くなり、話し込み始める。手を握られモーションをかけられると、「何だ、指相撲か?」とボケて相手の腕をひねる勢いで掴んで「イテテテて」と悲鳴を上げさせていた。
零は、何であんなに簡単に触るんだよ、とエイトの相手に、それと同時に、エイトもどうしてあんなに簡単に触らせるんだと心の中で憤ったた。
「ねえ、聞いている?」
内藤に声を大きくされ、「はい?!」と返事。
「ちょっと店の外に出ない?」
「な、何でですか?」
「あっちで保護者が聞き耳立てているから、内緒話ができない」
「保護者?エイトのこと?」
参ったな、そういう風に見られているとは。
「オレが君の側から去ったら、他のがきっとすぐ寄ってくる。だから、予約を入れておこうと思って」
エイトに店の外を手で示し、「すぐ戻る」と声に出さずに唇を動かす。
店の外に並ぶ自動販売機のところまで連れてきた内藤は、
「頭モコモコの子は、本当に彼氏じゃないんだよね?」
「彼氏ぃ?」
慌てすぎて声が裏返る。
「と、友達。それに僕、彼氏なんていたことがないし」
「モテそうなのに。じゃあ、未経験?」
「いいよ。それで」
「よかねえわ。さっきも言ったけど、あんたを動かすのってかなり面倒くさい。けど、気持ちが乗ってくると早い。汚部屋作業のときもそうだった」
「悪かったね。面倒くさい性格で」
零も注文したカシスソーダを煽り、数枚添えられていたチップスを口に運ぶ。
「一人でいるやつに声をかけてくる」
「は?いいって」
零は慌てて止めたが、エイトはカウンターを離れ、丸テーブルで飲んでいる男に声をかけにいく。
「連れと飲んでいるだど、あんたも飲まない?え?待ち合わせ。そりゃ失礼」
気安い感じで声をかけ、断られてもめげない。そして、あっという間に男を一人連れてきてしまった。
なんて肝の据わり具合だ。
しかも、ゲイじゃないくせに、
「ほい。伊藤だか、佐藤だか」
エイトに連れられてきた男は、「内藤だし」と言って笑う。
新橋で働くサラリーマンだと彼は言った。こういう場は噓がまかり通る場だから、名字だって肩書だって信じない。呼び名は記号と一緒。ネットで調べるだけ調べたから、そういうことは分かる。
同じセクシャリティーの相手と話すのは、零は初めてだった。
最初は緊張したが、少し話をするうちに打ち解けた。
数分してエイトが席を黙って移動した。
気を使ってくれたらしい。
彼はすぐ側にいた男と仲良くなり、話し込み始める。手を握られモーションをかけられると、「何だ、指相撲か?」とボケて相手の腕をひねる勢いで掴んで「イテテテて」と悲鳴を上げさせていた。
零は、何であんなに簡単に触るんだよ、とエイトの相手に、それと同時に、エイトもどうしてあんなに簡単に触らせるんだと心の中で憤ったた。
「ねえ、聞いている?」
内藤に声を大きくされ、「はい?!」と返事。
「ちょっと店の外に出ない?」
「な、何でですか?」
「あっちで保護者が聞き耳立てているから、内緒話ができない」
「保護者?エイトのこと?」
参ったな、そういう風に見られているとは。
「オレが君の側から去ったら、他のがきっとすぐ寄ってくる。だから、予約を入れておこうと思って」
エイトに店の外を手で示し、「すぐ戻る」と声に出さずに唇を動かす。
店の外に並ぶ自動販売機のところまで連れてきた内藤は、
「頭モコモコの子は、本当に彼氏じゃないんだよね?」
「彼氏ぃ?」
慌てすぎて声が裏返る。
「と、友達。それに僕、彼氏なんていたことがないし」
「モテそうなのに。じゃあ、未経験?」
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