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第一章

10:なんか、あんたってゼリーみたいだな

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 零は腹を抱える。そこまで面白くないのに、笑いが止まらなかった。
「はあ、久しぶりに声を出して笑った。あ、これ、スウェットね。一回も袖を通していない新しいのだから。歯ブラシもね」
 いつ入院となるか分からない身体なので、旅行バックに入院セットはいつも常備していた。
「ドライヤーは洗面台」
「髪なら黙ってても乾く」
「風邪を引かれると困るんだ、僕が。免疫が人より低いから」
「おお。解った」
 納得したように頷いたエイトが洗面台に戻りドライヤーを使う音がする。それが止むと
 コートと同じくピチッとしたスウェット姿でエイトが戻ってきた。
「小さすぎて、ケツとかこことか形が丸わかりじゃね?」
 エイトは尻を触った後、股間に蓋をするような仕草を見せる。
 彼が冗談でやったのは分かっていた。零には少し性的に見えても、だ。
「これ」
 消毒液と軟膏を差し出すと、「ん」とエイトが髪をめくった。
 零は救急箱から脱脂綿を取り出し、消毒液を吹きかけた。それをエイトの傷口に押し当てる。
「っ痛」
「僕のせいでごめん。でも、止血剤は自分で塗って。手当してあげたいけれど、免疫がね。手って細かい傷があるから」
「なんか、あんたってゼリーみたいだな」
「ゼリー??」
「これは俺のドクトクの感覚かもしんないけれど、人ってさあ、硬い殻みたいなもんがあんだよ。特に普通に生きてきたのと、そうじゃないのが話している時、それを感じる。あんたにはそれが無いってこと」
 死のカウントダウンが始まって、エイトが言う殻のような物が剥がれてしまったのかもしれない。
「なあ。この菓子も食っていい?コンビニ代全部返すわ」
「いいよ。そんなの。あ、残り物でよければ、冷蔵庫からいろいろ出すけど。冷凍のおにぎりやチャーハンもある」
「食いてえ」
 リクエストに応えて、廊下の横に設置された長細いキッチンに立つ。
 こたつから出て、部屋と廊下の境目に佇んだエイトが、
「うわっ。さぶっ」
「うん。冷えるね。ここまで冷えるのは物心ついて初めてかも」
 その最中、チンッとけたたましく電子レンジの音が鳴る。
 そこから皿を取り出すと、
「マジ助かったわ」
 出来上がったチャーハンの匂いをかぎながら、エイトが自然にそれを受け取る。
「あんたとあのまま別れていたら絶対に風邪を引いていた。ネカフェも寒ぃからさ。そこでこじらせりゃあ、あっという間にあの世行きだ」
「エイトは何でこの街に?何か用があったの?」
と言いながら零は、今度はおにぎりをセットする。
「話す前に携帯を充電させてもらってもいいか?充電器も貸して欲しい」
と聞かれて、零は「どうぞ」と答えた。
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