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おまけのバットゥータ おかわり

179:スレイヤー様を抱きますよって伝えてきました。

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 ボクは、心臓が爆発しそうだったので、バットゥータの腕を逃れ自分の寝台へ戻ろうとした。
 すると、襟首を捕まれ、胸元に引き寄せられた。
 あれ?無理やり迫るのとは全然違う結果になったよ。
 甘い気持ちにどうにかなりそう。
 心臓の音が聞こえてくる。
 普段、こんなに早くないよね?
 そう聞くのは野暮ってことも、ボクは分かっている。
 その晩はバットゥータの懐で眠らされた。 
 僕は彼の胸の中で、思った。
 お父さんの言う通りだった。
 だから、朝になったら、手紙を書こう。
 届くのは随分先のことだけど、ボクは恋の先駆者たちに思いを伝えたかった。

 その後もボクとバットゥータは、イスタンブールと西洋を行き来し続けた。
 関係は変わりなく。
 口付けも、同衾もあの夜の船室一回きり。
 バットゥータは商売人の先輩。ボクは後輩。 
 そこをわきまえて、ずっと一緒にいる。
 苦しいけれど、泣き言を言わずに耐えようと思っている。
 この恋は叶わなければ悲しいけれど、ちゃんと思い出にしようと覚悟も決めている。
 たぶん、ずっと好きではいるだろうけれど。
 だから、バットゥータの初恋を否定したことに、今更ながら恥じてしまう。
 約束の十六歳の年になった。
 秋が深まりボクの誕生日月がやってきた。
 おおよそなので、本当は一ヶ月先かもしれないし、一ヶ月後かもしれない。お父さんが手を尽くして調べてくれたけれど、ここまでしか解らなかった。
 でも、ボクが十六年前の秋に産まれたのは、事実らしい。
 イスタンブールに戻ってきたボクは、お父さんとアドリー父様が行く珈琲屋に一人いた。
「十六歳になったのを祝いたいからって呼ばれたから来たのに、誰もいない」
 一人寂しく珈琲を飲んでいると、息せき切ってバットゥータがやって来た。
「どうしたの?秋なのに汗までかいているよ」
「館から全力で走ってきたんで」
「え?お父さんやアドリー父様に何かあった?」
 慌てるボクをバットゥータが腕を引いて店を出ていく。
 でも、館とは違う方向だ。
「お二人に宣言してきました」
「宣言?何の?」
 すると、バットゥータが耳に顔を近づけてくる。
 もう身長はほとんど変わらない。
 このところボクはメキメキ伸びているから、来年には越してしまうかもしれない。
 だったら、今より魅力を感じてくれるのかなと悠長なことを思っていると、バットゥータがとんでもないことを言った。動転しすぎてボクの脳は意味を処理しきれないでいた。
「え……?今、なんて?」
 バットゥータがおやおやという表情をする。
 そして、同じことをもう一度言った。
「だから、スレイヤー様を抱きますよって伝えてきました。もう誕生月が来たから十六歳でしょ?」
 ボクは慌てふためいた。
「そ、そうだけど。どうしてあの二人に言っちゃうのさ。恥ずかしいじゃないか」
 怒ると、バットゥータが宿にボクを連れ込みながら言った。
 そう。昔、ボクがバットゥータを怒らせ、裸で蹴り出された宿だ。
 彼が、階段を登りながら、エフンと咳払いをした。
「本気だからです」
「え?」
「遊び相手じゃない。ずっと大切にする相手だってお二人に知ってもらいたいから。あと自分へのケジメ」
「……バットゥータ」
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