上 下
172 / 183
おまけのバットゥータ

171:ボクのことを好きに使ってくれていいよ

しおりを挟む
「帰れって言ってんだろ!」
 しつこさに思わず、バットゥータは声を荒げる。
 だから、スレイヤーはまた沈黙した。
 でも、少し時間を置いて、小声で聞いてくる。
「まだ、アドリー父様のこと、好き?」
「あなたには関係ないでしょうがっ!」
 たまらず、毛布を跳ね上げた。
 スレイヤーは身体を小さくして、絨毯の上に座っている。
 怒鳴られるのは覚悟の上のようだ。
「いつから思っているの?まさか小さい頃からって言わないよね?アドリー父様はローマのララといい仲なんだよ?隠しててもボク分かる。入り込む隙間なんかないよ。だから、ボクじゃダメ?アドリー父様の代わりにしていいから」
「話にならない」
 ずっと、スレイヤーはここに居続けるだろう。
 そのしつこさが嫌になって、バットゥータは長衣を羽織って、外に出た。
「ねえ。どこ行くの?」
とスレイヤーが追って来るので、路地に入って彼を巻く。
 家には帰れないので、エミルがいる宿に向かった。
 一晩借りると使いの者にアドリーの館へと言付けて貰って、部屋に入る。
 だが、予想通りというか、なんというか、しばらくして、スレイヤーが部屋に来てしまった。
 このしつこさを、なぜ、仕事に活かせないのか?
 生まれは悲惨だが、育った環境は一級だ。本当にもったいない。
 いや、今、そんなことはどうでもいい。
 なんだろう、この気持ち。
 小鳥の地位どころか、その息子の地位さえ自分は羨ましく思っているようだ。
 バットゥータはスレイヤーを枕を投げつけ追い払おうとする。
「……何で?」
 そこまでされると思っていなかったのか、スレイヤーは扉を背にして棒立ちになる。
「何でじゃねえよ。いいから、帰れっ!!」
 バットゥータの元々の性格は、アドリーと同じで短気だ。
 生きていく上で怒らない術を身に着けただけで、余裕が無くなれば、本性が顔を出す。
 スレイヤーが消え入りそうな声で言った。
「……バットゥータ。さっきも言ったけれど、ボクのことを好きに使ってくれていいよ」
 怒りがこみ上げてきて、バットゥータは扉の前に佇むスレイヤーの前に立った。
「今、何つった?」
とゆっくり聞き返す。
 すると、スレイヤーは言ってはいけない言葉だと分かっているかのように、苦しげに答えた。
「この前、バットゥータは苦しそうだった。ずっと、アドリー様、アドリー様って。最後には泣いてた。だから……」
 バットゥータはスレイヤーの頭を力任せに叩いた。
 大事に育ててきたので、それは初めての暴力と言ってよかった。
「誰が、こんなクソ手間のかかるガキなんか。何も出来ねえくせに」
「出来るよっ」
「じゃあ、お望みどおりやってやろうか」
 バットゥータは、スレイヤーの長衣の首元に手をかけた。
 ボタンを引きちぎるようにして服を脱がす。
 スレイヤーは恐れおののき、壁越しにしゃがみ込む。
 バットゥータも同じ姿勢になり、スレイヤーの顎を掴んで言った。
「その貧相な身体。誰かみたいだ」
 背丈はアドリーよりスレイヤーの方がもう大きい。
 でも、肉付きの悪い身体は当時のアドリーそっくりだ。
 だから、薬で前後不覚になったとき、昔の思いが溢れ出てしまったのだろう。
 全裸にしてスレイヤーを壁際に立たせる。
 力任せに押しつぶして、吐息混じりの悲鳴をあげさせた。
「そこまでして、やりたいか。この色狂い」
「それは、ボクの母親でしょう??」
「なーんだ、知ってた?アドリー様とローマのララが気にしてましたよ。あなたへ、出自ことをどう傷つけないように話そうって」
 バットゥータは少し冷静になり、スレイヤーから一歩離れると、彼は裸で抱きついてくる。だから、また壁に突き飛ばす。
「ローマのララが、ボクの実の父親だってこともだいぶ前から知っている。あの人、実は犯罪歴があるかもしれなくて、その犯罪で大金を手にして今の地位を築いたって噂があることも。あと、ボクのこと苦手に思っていることも。アドリー父様だって子供は得意じゃなさそう。だから、ボクには小さな頃から泣きついていいのはバットゥータだけって分かっていた。守ってくれる大きな手や身体が大好きだった。そのバットゥータが昔の恋で苦しんでるなら、ボク」
 バットゥータはスレイヤーに平手を張った。
 これ以上過去のことに口を出してくるなら、喋らなくなるまで殴る気でいた。
「痛っ……」と叫んだスレイヤーは殴られる恐怖を抱えながら、また、話しかけてくる。
「ねえ。ボクの身体、使って。身体重ねている最中、声を出さないから。なんなら、枕で顔を隠しているから。ねえってば」
 返事を求められ、また平手で返す。
 今のは力の下限がまるで出来なかった。
 スレイヤーは衝撃で壁にぶつかって、鼻から鮮血が垂れ始めた。
 そして、裸のままバットゥータに掴みかかってくる。
 とうとう頭に来たらしい。
「アドリー父様は、バットゥータのなんて見てないんだって。ローマのララのことばっかりなんだって!いつまで思っている気だよ、アドリー父様のこと!気持ちが悪いよ!!」
 今まで怒りでいっぱいだったのに、ずしんとスレイヤーの声が耳に響く。
 妙に冷静な気分になれて、スイヤーの鼻血を指で拭いながら口付けた。
 お望みの口付けだ。
 窒息しそうなぐらい激しいのを食らわせてやる。
 子供の口は小さく、そして熱い。 
 肉厚のバットゥータの舌に、薄い舌が絡めとられもがいている。
 唾液が溢れ出し、ゴフッと苦しげな咳をスレイヤーがした。
 バットゥータは、
「犯されたって親に泣けつけ。クソガキが」と言い捨てて、彼の服を一式廊下に放って、そのまま蹴り出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

黄昏時に染まる、立夏の中で

麻田
BL
***偶数日更新中***  それは、満足すぎる人生なのだと思う。  家族にも、友達にも恵まれた。  けれど、常に募る寂寥感と漠然とした虚無感に、心は何かを求めているようだった。  導かれるように出会ったのは、僕たちだけの秘密の植物園。 ◇◇◇  自分のないオメガが、純真無垢なアルファと出会い、自分を見つけていく。  高校卒業までの自由な時間。  その時間を通して、本当の好きな人を見つけて、様々な困難を乗り越えて実らせようと頑張ります。  幼い頃からずっと一緒の友達以上な彰と、運命のように出会った植物園の世話をする透。  二人のアルファに挟まれながら、自分の本当の気持ちを探す。  王道学園でひっそりと育まれる逆身分差物語。 *出だしのんびりなので、ゆる~くお楽しみいただければ幸いです。 *固定攻め以外との絡みがあるかもしれません。 ◇◇◇ 名戸ヶ谷 依織(などがや・いおり) 楠原 透(くすはる・とおる) 大田川 彰(おおたがわ・あきら) 五十嵐 怜雅(いがらし・れいが) 愛原 香耶(あいはら・かや) 大田川 史博(おおたがわ・ふみひろ) ◇◇◇

悩ましき騎士団長のひとりごと

きりか
BL
アシュリー王国、最強と云われる騎士団長イザーク・ケリーが、文官リュカを伴侶として得て、幸せな日々を過ごしていた。ある日、仕事の為に、騎士団に詰めることとなったリュカ。最愛の傍に居たいがため、団長の仮眠室で、副団長アルマン・マルーンを相手に飲み比べを始め…。 ヤマもタニもない、単に、イザークがやたらとアルマンに絡んで、最後は、リュカに怒られるだけの話しです。 『悩める文官のひとりごと』の攻視点です。 ムーンライト様にも掲載しております。 よろしくお願いします。

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈ 学園イチの嫌われ者が総愛される話。 嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった

angel
BL
つまらないことで死んでしまったボクを不憫に思った神様が1つのゲームを持ちかけてきた。 『転生先で王様になれたら元の体に戻してあげる』と。 生まれ変わったボクは美貌の第一王子で兄弟もなく、将来王様になることが約束されていた。 「イージーゲームすぎね?」とは思ったが、この好条件をありがたく受け止め 現世に戻れるまでノラリクラリと王子様生活を楽しむはずだった…。 完結しました。

迅英の後悔ルート

いちみやりょう
BL
こちらの小説は「僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた」の迅英の後悔ルートです。 この話だけでは多分よく分からないと思います。

僕の幸せ

朝比奈和花
BL
僕はすでに幸せだ。 幸せな、はずだ。 これ以上幸せになることはできるの? 以前別サイトで書いていた作品を加筆・修正したものです。 ※この話はフィクションです ※この作品にでてくる地名、企業名、人名、 商品名、団体名、名称などは 実際のものとは関係ありません ※この作品には暴力などが含まれます ※暴力、強姦、虐待など  すべて法律で禁止されています  助長させる意図は一切ありません ※タグ参照の上お進みください

尽くすことに疲れた結果

ぽんちゃん
BL
 恋人であるエドワードの夢を応援するために、田舎を捨てて共に都会へ向かったノエル。  煌びやかな生活が待っていると思っていたのに、現実は厳しいものだった。  それでも稽古に励む恋人のために、ノエルは家事を受け持ち、仕事をどんどん増やしていき、四年間必死に支え続けていた。    大物の後援者を獲得したエドワード。  すれ違いの日々を送ることになり、ノエルは二人の関係が本当に恋人なのかと不安になっていた。  そこへ、劇団の看板俳優のユージーンがノエルに療養を勧めるが──。      ノエル視点は少し切ないです(><)  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。  本人は気付いていませんが、愛され主人公です。    不憫な意地悪王子様 × 頑張り屋の魔法使い  感想欄の使い方をイマイチ把握しておらず、ネタバレしてしまっているので、ご注意ください(><)  大変申し訳ありませんm(_ _)m  その後に、※ R-18。  飛ばしても大丈夫です(>人<;)

処理中です...