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第九章

154:完全に素面の状態で身体を見せるのって、小鳥が二人目だな

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「お前さ、尻とか他の部分を触るのは、めちゃくちゃ上手いのに、口付けは、下手すぎないか?」
 すると、小鳥が唇を手で抑え、うずくまってしまった。まるで小山のようだ。
「おい。おいって」
 突くと、小鳥はおずおずと顔を上げる。
『許したこと無いもの。色んな人と僕、閨を共にしてきたけれど、唇は好きな人以外に許すなって初めての人が。……怒る?』
「唯一、そいつのこと、褒めたい」
 再度、唇を重ねようとすると逃げられる。
 何かまだ言いたいことがあるらしい。
『僕、好きだった』
「父上のことをか?」
『うん。その気持ちに嘘は無いはずなのに、胸の内がどす黒くなることがあるんだ。もちろん、始めて恋したのはラシード様だよ?こんな話、怒る?なんかね、そのどす黒い気持ちが上がってきて。喉に小骨が引っかかって、もうすぐ、取れそう。そんな気分なんだ』
「怒んねえし、すねねえから言いたいこと言えよ。聞きたい」
 すると、小鳥がアドリーの手を握ってくる。
『お召の後、いつも慰めてくれてありがとう。でも、僕、本当に、スルタンのこと好きで、抱きしめられると安心して、ローマにいるお父さんみたいだってずっと思っていた。だから、本当はそれだけをして欲しいのに、どうして、お父さんは僕の身体を開いて変なことまでしてくるのって。好きなのに嫌いで……』
 ふいに小鳥の顔から表情が無くなった。
 時が止まったようになっている。
「どした、小鳥?」
 息をするのも忘れているのか?
「小鳥?」
 再度、名を呼ぶと、
『憎かった』
という言葉が紡がれた。
 そして、肩を激しく震わせ始める。
『スルタンのこと本当に好きで、本当に憎かったっ!』
 顔を両手で覆って泣き始めてしまったので、もう唇を読むことが出来ない。
 アドリーは小鳥を抱き締める。
「ごめんな。あのとき、救いに行けなくて」
 すると、小鳥が顔を上げる。
『いつも、助けに来てくれたじゃないか。僕、ラシード様との思い出があったからなんとか息してこれた。だから、ヴァヤジットの奴隷商館で再会したとき、僕、頭がおかしくなったのかと思ったんだ』
「やって来たのは、アドリーっていう性格の悪い男だったけどな」
『アドリー様はラシード様で、ラシード様はアドリー様だよ』
 小鳥がそう言ってくれたので、再度唇を合わせる。
「どうする?続きするか?」
『僕が決めるの?!』
「オレが決めていいなら、しちゃうけど。エミルの気遣いもあることだし」
『僕、明日の朝、あの子の顔、見られないっ』
 アドリーが服を脱ぎ始めると、小鳥が動揺し始める。
「完全に素面の状態で身体を見せるのって、小鳥が二人目だな」
『待って!僕も脱ぐから、そんなにポンポン脱がないで』
「別にお前、無理しなくていいんだぞ?」
『脱ぐってば!!』
 気弱そうに見えて、一度決めたら小鳥は頑固だ。
 寝台の上で膝立ちで下着を先に脱ぐと、震えながら長衣を脱ぎ始める。
「こういうのっていいな」
とアドリーは自然と笑みを浮かべていた。
『え?何が?』
「お互い服を脱ぐのも一大事でさ。初めてって感じがして。きっと、それって、今夜しか体験できない貴重なもんだな」
 すると、小鳥がうつむく。
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