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第八章

142:で、お前、部屋に帰って一人で抜くの?

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「俺は、おばあのとこにこれから通いますから、今後、痛むときは小鳥を頼ってくださいね。あと、おばあが数年後に、貸し付けた西洋の王国へ取り立て行脚をするそうですからそれにもついていきます」
「行かせねえって言ってんだろ。ここまでやっておいて、オレを置いて行くっていうのか」
 すると、バットゥータがアドリーの手を取った。
 その指先に唇を押し付けてくる。
「俺が離れていったら、自分だけ十一歳の闇に沈んだままって思ってるんでしょ?」
「何、言ったんだ?オレは二十六歳だ」
「いいえ。アドリー様の心に住んでいるのは、十一歳の少年です。そして、小鳥も九歳のまま闇に沈んでいる。だから、スレイヤー様のこと可愛がる余裕がないですよ。あなたも、小鳥も、自分自身が子供だから。でも、あなたは小鳥より二歳年上。この手は、俺が差し伸べた手を掴むんじゃなく、小鳥に向かって差し伸べるべき手なんじゃないですか?」
「小鳥を助ける?オレが?……助けてきただろうが、今まで散々」
「ええ。でも、過去までは救えていない」
「過去って。昔には戻れないだろ?」
「戻れないけれど、過去は救えます。事実、俺はそうしてもらったから」
 その瞬間、アドリーは雷を落とされたような気分になった。
 息することすら暫く忘れた。
 記憶が断片的にだが蘇ってきて、夏の宮殿の芝生の上で星を見たこととか、小鳥の歌声を聞いたことが脳裏に蘇った。
 それは懐かしい思い出だ。
 今まで、あの頃の記憶は、苦しいものだけだったのに。
 もっと、思い出したい。
 宝物のような記憶を。
 今まで靄のかかっていた風景も人の顔も蘇ってきて、金の髪をした少年がアドリーをじっと見つめていた。
 あいつ、まだ、九歳のままで夏の宮殿の隅で待っているのか、オレのことを?
「ってことで、俺は十五歳のあなたをちゃんと救いましたからね」
「だから、俺、二十六歳だって」
「十五歳のあなたは、素面じゃ絶対に俺に全身を見せることができなかった。でも、出来たじゃないですか」
「だったら、オレはお前を救いにいかなくていいのか?」
「ふふ」とアドリーを抱き締めたまま、バットゥータが笑う。
「さっき、言ったでしょう?ガジアンテプでとっくの昔に救って貰ってますよ。ちゃんと言葉で」
「はあ?崇高な魂がどうとやらってあれか?未だに、さっぱり分かんねんだけど」
「さよなら。アドリー様」
 軽く口付けした後、バットゥータが離れていこうするので、アドリーは動く片足を彼の臀部に回し押さえつけた。
「おい、説明」
「言った側が覚えて無くても、聞いた側の心に響いていれば充分でしょ。じゃ、そういうことで離してください。---離してくださいって!!」
 蠢くバットゥータを、アドリーはさらに抑えにかかる。
「出さないのか?破裂しそうなほど、お前の、元気だけど?」
「ちゃんと、俺の話、聞いてました?あなたの初恋も実ってこれで万々歳。邪魔者はもうここで消えるってとこまで来てるんですけど、話が」
「俺の初恋?小鳥がか?そんな気もするけど、どうして、バットゥータはそんなに確信持てるんだ?」
「だーかーらー、意識のない状態で宿で小鳥と出会ったっていうのに、ずっと気にしてたからでしょうが!去る者追わずのあなたが!どこまでも鈍いんだから」
「あ、なるほど。で、お前、部屋に帰って一人で抜くの?」
「聞かないで貰えます?そういうことっ!!」
「もう一回出しちゃってんだから、二回目も同じだろ、出してけよ」
「この人、ありえない!」
「ほら、早く、腰を振れよ。さっき、みたいにさあ」
「……」
「お前、迷っている?」
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