129 / 183
第七章
128:今夜だけだからな
しおりを挟む
『ムラト三世の死因。原因不明の急死ってなっているけれど、本当は心臓に負担がかかる薬を母后の勧めでずっと飲まなければならなかったからだろうって。つまり、夜の方が活発になる薬。でも、そんな薬を飲んでいたってラシード様が生まれて以降、寵姫たちは誰も子供を産んでいないから、きっとムラト三世も、自分が亡くなった後に起こる兄弟殺しのことには、心を痛めていたんだろうって。それをアフメト一世は折を見て伝えてくれって』
「折りを見て、ねえ」
『……怒った?』
「正直、伝えてくれてありがとうとは思わねえな」
話す時期を間違えたかと僕は後悔したが、
「だって、どういう理由があっても、年端の行かないお前を寝所に招いていいわけはないだろ」
とアドリーは僕の想像の斜め上のことを言う。
『もしかして、僕のために怒ってくれてる?』
「もしかしなくても、そうだ」
『褒美もたくさん貰ったし、何も出来ない僕にムラト三世はものすごく優しかったよ?』
アドリーの父親を必死で援護しながら、僕は胸の内が苦しくなってきた。
嘘なんかついていない。
僕は、ムラト三世が父親みたいで好きだった。
それは真実なはずなのに。
「褒美が出ようが、優しくされようが、褒められた行為じゃねえだろ?」
『そう……だね。ごめん』
「お前が謝ることでもねえし。でも---辛いことさせたな。謝らせたい相手はもうこの世にはいねえし、オレが謝っとくわ」
不意の謝罪に僕は、口元を押さえる。
急に夜の小鳥になれと言われて、最初は訳がわからなかったこと。
スルタンの寝所に押し込まれて、ただただ怖かったこと。
そして、抱かれて精を放たれて、頭が真っ白になったこと。
ムラト三世本人に泣きつきたかったのに、それが出来なかったこと。
未消化の長年の感情が湧いてきて、悲しいとは違う熱い涙が流れ出した。
「戻ってこい」
そう言って、彼は寝台に上がって、本を読み始める。
そして、こっちと敷布の上を叩いた。
だから、僕は寝台に駆け寄っていって、絨毯にひざまずき、上半身だけ敷布の上に身をもたせた。
だって、寝台の上はバットゥータのものだから。
「犬みてえ」
アドリーが目を細めて笑う。
そして、
「今夜だけだからな」
と言って、随分長い間、僕の頭を撫でてくれた。
「折りを見て、ねえ」
『……怒った?』
「正直、伝えてくれてありがとうとは思わねえな」
話す時期を間違えたかと僕は後悔したが、
「だって、どういう理由があっても、年端の行かないお前を寝所に招いていいわけはないだろ」
とアドリーは僕の想像の斜め上のことを言う。
『もしかして、僕のために怒ってくれてる?』
「もしかしなくても、そうだ」
『褒美もたくさん貰ったし、何も出来ない僕にムラト三世はものすごく優しかったよ?』
アドリーの父親を必死で援護しながら、僕は胸の内が苦しくなってきた。
嘘なんかついていない。
僕は、ムラト三世が父親みたいで好きだった。
それは真実なはずなのに。
「褒美が出ようが、優しくされようが、褒められた行為じゃねえだろ?」
『そう……だね。ごめん』
「お前が謝ることでもねえし。でも---辛いことさせたな。謝らせたい相手はもうこの世にはいねえし、オレが謝っとくわ」
不意の謝罪に僕は、口元を押さえる。
急に夜の小鳥になれと言われて、最初は訳がわからなかったこと。
スルタンの寝所に押し込まれて、ただただ怖かったこと。
そして、抱かれて精を放たれて、頭が真っ白になったこと。
ムラト三世本人に泣きつきたかったのに、それが出来なかったこと。
未消化の長年の感情が湧いてきて、悲しいとは違う熱い涙が流れ出した。
「戻ってこい」
そう言って、彼は寝台に上がって、本を読み始める。
そして、こっちと敷布の上を叩いた。
だから、僕は寝台に駆け寄っていって、絨毯にひざまずき、上半身だけ敷布の上に身をもたせた。
だって、寝台の上はバットゥータのものだから。
「犬みてえ」
アドリーが目を細めて笑う。
そして、
「今夜だけだからな」
と言って、随分長い間、僕の頭を撫でてくれた。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
首輪 〜性奴隷 律の調教〜
M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。
R18です。
ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。
孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。
幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。
それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。
新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。
【R18】奴隷に堕ちた騎士
蒼い月
BL
気持ちはR25くらい。妖精族の騎士の美青年が①野盗に捕らえられて調教され②闇オークションにかけられて輪姦され③落札したご主人様に毎日めちゃくちゃに犯され④奴隷品評会で他の奴隷たちの特殊プレイを尻目に乱交し⑤縁あって一緒に自由の身になった両性具有の奴隷少年とよしよし百合セックスをしながらそっと暮らす話。9割は愛のないスケベですが、1割は救済用ラブ。サブヒロインは主人公とくっ付くまで大分可哀想な感じなので、地雷の気配を感じた方は読み飛ばしてください。
※主人公は9割突っ込まれてアンアン言わされる側ですが、終盤1割は突っ込む側なので、攻守逆転が苦手な方はご注意ください。
誤字報告は近況ボードにお願いします。無理やり何となくハピエンですが、不幸な方が抜けたり萌えたりする方は3章くらいまでをおススメします。
※無事に完結しました!
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
俺☆彼 [♡♡俺の彼氏が突然エロ玩具のレビューの仕事持ってきて、散々実験台にされまくる件♡♡]
ピンクくらげ
BL
ドエッチな短編エロストーリーが約200話!
ヘタレイケメンマサト(隠れドS)と押弱真面目青年ユウヤ(隠れドM)がおりなすラブイチャドエロコメディ♡
売れないwebライターのマサトがある日、エロ玩具レビューの仕事を受けおってきて、、。押しに弱い敏感ボディのユウヤ君が実験台にされて、どんどんエッチな体験をしちゃいます☆
その他にも、、妄想、凌辱、コスプレ、玩具、媚薬など、全ての性癖を網羅したストーリーが盛り沢山!
****
攻め、天然へたれイケメン
受け、しっかりものだが、押しに弱いかわいこちゃん
な成人済みカップル♡
ストーリー無いんで、頭すっからかんにしてお読み下さい♡
性癖全開でエロをどんどん量産していきます♡
手軽に何度も読みたくなる、愛あるドエロを目指してます☆
pixivランクイン小説が盛り沢山♡
よろしくお願いします。
ぼくに毛が生えた
理科準備室
BL
昭和の小学生の男の子の「ぼく」はクラスで一番背が高くて5年生になったとたんに第二次性徴としてちんちんに毛が生えたり声変わりしたりと身体にいろいろな変化がおきます。それでクラスの子たちにからかわれてがっかりした「ぼく」は学校で偶然一年生の男の子がうんこしているのを目撃し、ちょっとアブノーマルな世界の性に目覚めます。
僕は肉便器 ~皮をめくってなかをさわって~ 【童貞新入社員はこうして開発されました】
ヤミイ
BL
新入社員として、とある企業に就職した僕。希望に胸を膨らませる僕だったが、あろうことか、教育係として目の前に現れたのは、1年前、野外で僕を襲い、官能の淵に引きずり込んだあの男だった。そして始まる、毎日のように夜のオフィスで淫獣に弄ばれる、僕の爛れた日々…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる