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第四章

80:こいつはオレのだ

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 顔つきがそれぞれ違うし、くだけた雰囲気を出していない。
「あいつらに話しかけたかったのか?」
 だが、肌が白いからと言ってローマ人とは限らない。
 バットゥータのように、コーカサス方面から来ている場合もある。それだと言葉は全然通じない。 
 猛然と小鳥が宿の入り口から飛び出してきた。
 手には、力任せに丸められた紙の束。
「おい、小鳥?」
と言うアドリーの声は全く耳に届いておらず、脇を風のようにすり抜け年配の白人男に有無も言わさず殴りかかっていった。そして、何が起こったのか分からず棒立ちになった男を、
 バンッ。
と大きな音を立てて、小鳥は白人男を塀に押し付ける。
 そして、大声に喚く---には至らなかった。
 木枯らしみたいな空気音がその口から出るだけだ。
 呆然と見ていた連れの二人の白人少年が、慌てて小鳥を白人男から引き離しにかかる。
 彼らの声が甲高い。
 少年というより男児だ。
 小鳥は簡単に地面に転がされ、自由になった白人男につま先で顔に蹴りを入れられた。
「止めろ!」
とアドリーは叫ぶ。
「こいつはオレのだ」
「だったら、いきなり殴りかかってこないよう教育しとけ」
 白人男はこの国の言葉が流暢だった。
 アドリーの隣では小鳥が立ち上がりかけていた。
 そして、持っていた紙の束を塀に押し当て、素早く文字を書いていく。
 アドリーの知らない文字だ。
 その速さに圧倒される。
 書き終わると、小鳥は白人男にそれを突き出した。
 バンバンッと紙面を叩いて訴える。
 その文面を読み取った男は、「お前……」と一言。
 小鳥が誰であるのか気が付いたようだ。
 多少バツの悪そうな顔をしながらも、「今更」と言って、また小鳥を突き飛ばした。
 受け身も取れず真後ろに倒れたせいで当たりどころが悪かったらしく、地面に赤い液体が広がっていく。
「小鳥!?」
 しゃがんで怪我の具合を確かめたいが、それをすると立ち上がるまで時間がかかる。
 忌々しい身体だ。
 困っている知り合いにすら、すぐに手を差し伸べられない。
「こんな変なのほっといて行こう」
 若い二人の少年を引き連れて去ろうとしている白人男に拳の一発でも入れてやりたい。
 そうこうしているうちに野次馬が集まってきた。
 宿の前の騒ぎなので、エミルも様子を見に来ている。
「エミルッ!!宿の主はいるか?そこから叫んべ」
と指示を出し、それが終わると今度は側に呼び寄せ、身体を強張らせているエミルに耳打ちする。
「お前を怒鳴ったわけじゃねえからな。緊急事態だからお前に頼りてえんだ。グランバザール方向へ向かうあの三人を追ってくれ。目立つ見てくれだから深追いはしなくていい。どこに帰るのかだけ見届けたら帰ってこい」
「分かった」
 素早く駆けていくエミルを見送るのもそこそこ、小鳥に声をかける。
「お前、大丈夫か?」
 返事はない。
 気絶してしまったようだ。
 通りすがりのおせっかいたちが、小鳥の頭に布を巻き、どこからか外して持ってきた戸板で彼を運ぶ準備を始めた。
 こういうとき、自分は邪魔にならないよう見守る以外何も出来ない。
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