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第四章

77:驚くぞ?オレは、お前が引くほど、実は性欲が有り余ってるんだからなっ!

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「聞いてください、アドリー様。俺は十一年にも渡って『母上、どうして』ってうなされるあなたに『大丈夫。俺がいます』って言い続けてきました。でも、恐怖がたっぷり染み込んでいるこの身体は緩むことがありませんでした。けれど、たった二回しか会ったことのないあいつには、あなたは身を委ねることができるみたいですよ。クッソ悔しいことにね」
「お前、だから、小鳥を強引にでも得ようとしたのか?小鳥をオレの側に置いたら、お前、不利になるとか考えないのか?」
 すると、バットゥータは優しくアドリーの耳を喰んできた。
「アドリー様って、十一歳でそっち方面の思考は止まってるんですね。本当に愛してるなら、自分が負け戦になろうとも、相手が幸せになれる場所に導いてあげたいもんでしょう?」
 最後らへんは、バットゥータの声は切れ切れだった。
 後頭部に手をそえられ、擦られる。
 そして、寝台にゆっくり押し倒された。
 アドリーは顔をそむけながら言う。
「お前、言っていることおかしい。子を孕ませた小鳥の成れの果て男のどこを好きになれって言うんだよ」
 すると、バットゥータが、分かってないなあというようにクスリと笑う。
「俺ね。ほとんど、あいつには勝ててると思うんです。あ、身長は負けているか。それ以外に絶対に勝てないのが一つあります。あなたと出会った時期です。王子としてキラキラしている人生を歩んでいた時期に……痛い、痛い、痛い」
「当然だ。お前の頬をこうやってギリギリギリギリィッてつねってんだから。王子としてのキラキラ人生?兄弟殺しっていう慣習がある中、一番年下っていうハンデを背負わされて生まれてきて、そんな能天気でいられるか!常に明日の命は無いってオレはっ」
「でも、今より良かったですよね?」
「何が言わせたいんだ、お前はっ!」
「今のアドリー様も素敵だけど、昔もさぞや素敵だったろうな、俺にも見せやがれって話です。どうやったって過去には戻れないんだから」
 アドリーを押しつぶすようにして抱いていたバットゥータがそこからどこうとする。だから、長衣の襟首を掴んで引き寄せ、唇を求めた。
 素面で自分から求めたのは初めてだ。
「うはっ。これは予想外だ。好きだの愛してるだのは、今回は予行演習で、次回が本番です。おやすみなさいって去って行くはずだったのに」
 バットゥータがアドリーの夜着とつまみ上げた。
 じんと熱を持つ左足の付け根を見せつける。
「し、したきゃ、していいぞ」
「ここで?」
「今夜だけは許してやるっ」
 バットゥータの顔を直視できなくて、枕の上でどこまでも首を傾け言い捨てる。
「素面じゃないですか」
「オレはなあ、今までずっと遠慮しててっ」
「あらあ。本音ごちそうさまです」
 唇を重ねながらバットゥータが言ってくる。
「驚くぞ?オレは、お前が引くほど、実は性欲が有り余ってるんだからなっ!」
「そんなのとうの昔に知ってます。いつまで我慢するんだろうなあ、この人って思ってました」
「この馬鹿使用人!首にしてやる!放りだしてやる!」
「誰かが買ってくれたら、その代金持ってこの館に来ますね。お代の二十万アクチェですって」
「誰が手放すかよっ……て何で、しれっと十一万アクチェからさらに値上がりしてんだ、お前」
「宣戦布告です。俺、価値ありますよっていう。だから」
 バットゥータは身体を折ってアドリーの右耳に、
「こうやって、好きです」
と囁き、左耳に、
「愛してますって伝えさせてください」
と囁いた。
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