上 下
63 / 183
第四章

62:いくら主が命令したって、香と痛みで前後不覚なんだから、適当に流しておけばいいんだ

しおりを挟む
「顔も見たことが無い名無しに助けられてから、立て続けに昔の夢を見る。今回は旅の夢。前回は」
 ---歌。
 ふと、蘇ってくるのは、空気の震わすような歌い方。
 それに、甘い声。
 スピスピと耳元で音がし、アドリーは現実に戻る。
 鼻を鳴らして寝ているバットゥータの頭を「スピスピじゃねえよ」と言って軽く小突き、自分の毛布をはいで、バットゥータの身体にかけた。
 すると、「う、うう~~~ん」と言いながら豪快に伸びをし寝返りを打つ。
 まだ細いが、綺麗な筋肉で覆われていて、もう充分に大人な身体だ。
 使用人にした当初は、アドリーの肩ぐらいまでしかなかった背は、軽く頭二つとまではいかなくてもそれに近いぐらい高くなっていて、見上げなければならないのが少し悔しい。
 アドリーは自分の唇に触れる。
 大雨の翌朝なはずなのに、唇の周りがカサついていた。
 昨晩、バットゥータが何度も口づけた、いや痛みと香のせいで見境をなくした自分が命令したのだ、きっと。
 胸や背中も、バットゥータの唇が押し付けられた感覚がある。
 数え切れないほどこういうことを彼にさせてきた。
 言い訳するなら、最初はあっちから。
 年齢が二桁になると背がぐんぐん伸び始め、どこで仕入れてきた知識なのか、ませはじめた。
 旅をしているときは片時も離れたかったくせに、イスタンブールに来て少し経つと、乳離したかのように色んな場所に出入りし始め友人も大勢できたから、情報源はきっとそこだ。
 足の付根どころか性器まで掴んでくるようになってきて、そこまでしなくていい、止めろと言ったのだが、翌年にはそれを咥え、その翌年には口づけを許して欲しいと言うまでに。
 当人にとって、口付けはよっぽどのことなのか震えながら申し出てきて、足の痛みからくる発熱で朦朧としていても、あのときのことはよく覚えている。
 仕方なく許すと、顔を近づけそっと唇を重ねてきた。
 その行為は、こいつはもう子供でなく、ちゃんとした男なのだなあとアドリーに思わせた。
 一過性の興味で終わるとかと思ったら、バットゥータの過剰な献身はあれからずっと続いて、なぜそこまで尽くしてくれるのか正直分からない。
 自分は、バットゥータの主。
 しかも、片足が悪い。
 できることは限られているし、情交の最中も気を使わなければならないので、手頃な性の発散相手とはいえない。
 そして、自分は自分でずるい。
 年頃の青年と違って思いっきり身体を動かせないから、性欲は溜まる一方。
 でも、醜い足を晒していいと思えるのはバットゥータだけだから、口付けも触ってもらうことも押し切られたという形を取ってしまう。
 香で前後不覚になっていても、「しろよ」と誘導したのは、なんとなく覚えているからだ。
 背丈が完全にアドリーを越し、身体もデカくなりはじめると、情交まで求めてくるようになって、初めての晩はそりゃあ、驚いた。
 しかも事後だった。
 さすがに叱ると、「アドリー様がしてもいいぞって言ったんじゃないですか」と憤慨し、
「いくら主が命令したって、香と痛みで前後不覚なんだから、適当に流しておけばいいんだ。それが、使用人の処世術!分かる?!」
と諭すと、
「そんなの、無理ですよ。だって、俺もしてみたかったですし」
と奴は真顔で答えた。
 あの顔は今でも忘れられない。
「お前は本当に変わり者だ」
 折檻や暴力に耐えられず、使用人が主を殺してしまう事件も珍しくないこのご時世に、こういうことをしたいだなんて。
 そして、身体のことだけではなく、仕事から生活全般まで抜かり無く尽くしてくれる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

私の彼氏は義兄に犯され、奪われました。

天災
BL
 私の彼氏は、義兄に奪われました。いや、犯されもしました。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

僕が玩具になった理由

Me-ya
BL
🈲R指定🈯 「俺のペットにしてやるよ」 眞司は僕を見下ろしながらそう言った。 🈲R指定🔞 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨 ので、ここで新しく書き直します…。 (他の場所でも、1カ所書いていますが…)

処理中です...