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第三章
57:嫌だ!俺もアドリー様と行く。絶対に一緒に行く!
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「一回限りの仕事だけどな」
アドリーが、濡れた上衣を脱ぎ始めたので、それを手伝う。膝下まで丈があるので、水分を吸って重い。
それを床に放って下も脱がそうとすると、「いい。部屋で脱ぐ」と断られてしまった。
バットゥータは、アドリーの足をこれまで見たことがない。
痛むというからには大きな傷があるのかもしれない。
「売り物はお前な」
「え??」
「聞こえなかったか?一回限りの仕事。売り物はお前」
アドリーは、杖を手に取ると、それ以上バットゥータの顔を見ること無く自室に向かう。
「アドリー様、ここで一人で暮らすんですか?」
「いや、オレはイスタンブールに戻る。少し前、地味なのに気取った格好の客人が来たろ?あいつは、ガジアンテプの役人。ここいらじゃ一番偉い奴だ。そいつが、オレにイスタンブールに戻れと伝えてきた。だから、お前は、春の嵐が終わったら、売られる。オレも、旅立つ。ってことで、あと数週間はよろし……」
「うあーーーーーん」
雨に濡れたアドリーの上衣を片付けようとしていたバットゥータは、それを引きずりながら大声で彼に駆け寄った。
「何だ、ガキみてえだな」
とアドリーは真剣に取り合ってくれない。
「俺も行く!」
「って、ガキか。お前、今、七歳?八歳になったんだっけ?」
「俺も行く!!」
「聞け、バットゥータ。お前の行く先はガジアンテプでは一番でかい商家だ。使用人が死んだり行方不明なったりしていないか調べたが、悪い噂はない。主もその奥方も穏やかな性格のようだ」
「嫌だ!俺もアドリー様と行く。絶対に一緒に行く!」
何度も繰り返すと、さすがにアドリーが声を荒げた。
「いい加減にしろっ。こっちだって散々、お前の行く末を考えてやっての決断なんだぞ。タチの悪い奴隷商に売るって言ってんじゃない。ちゃんとした商家だ。そこで立派に働けば、お前は七、八年で解放される。使用人でも、もちろん奴隷でも無くなる。何がそこまで気に入らないんだ!」
「嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!」
「バットゥータッ!!」
久しぶりのアドリーの本気の怒鳴り声だった。
そして、彼は自室の扉に手をかけながら言った。
「当日、伝えるよりいいかなと思って伝えたけど、失敗だったな。てんでガキだ」
絶対に入ってくるなというように扉が音を立てて閉められた。
日中だというのに、外は夜のように暗くなる。
雨の音以上に、雷が連続して炸裂し、バットゥータはますます泣き声を上げた。
ララがいなくなり、アドリーからも離れなければいけない。
次の主がいい人だとしても、アドリーの側に置いてもらえないのは嫌だ。
悲しい。
自分はイスタンブールに帰るから、青空市場で買った奴隷なんて、荷物みたいにして現地に置いてくだなんて。
もっと、愛想を見せればよかった。
もっと、尽くせばよかった。
もっと、もっと、もっと。
また、雷が炸裂して、バットゥータは「ギャーッ」と叫ぶ。
かなり近い。
どこかに落ちたのかもしれない。
バットゥータの故郷では、雷とは神様の槍だ。悪さをすると、脳天に落とされるという。
主のアドリーの命令を聞かず、一緒にいたいとダダをこねるから、神様が怒ったのだろうか。
「アドリー様!部屋に入れて!」
「入れて!」
「怖い」
「怖い、怖い、怖いーーーーっ!!」
アドリーが、濡れた上衣を脱ぎ始めたので、それを手伝う。膝下まで丈があるので、水分を吸って重い。
それを床に放って下も脱がそうとすると、「いい。部屋で脱ぐ」と断られてしまった。
バットゥータは、アドリーの足をこれまで見たことがない。
痛むというからには大きな傷があるのかもしれない。
「売り物はお前な」
「え??」
「聞こえなかったか?一回限りの仕事。売り物はお前」
アドリーは、杖を手に取ると、それ以上バットゥータの顔を見ること無く自室に向かう。
「アドリー様、ここで一人で暮らすんですか?」
「いや、オレはイスタンブールに戻る。少し前、地味なのに気取った格好の客人が来たろ?あいつは、ガジアンテプの役人。ここいらじゃ一番偉い奴だ。そいつが、オレにイスタンブールに戻れと伝えてきた。だから、お前は、春の嵐が終わったら、売られる。オレも、旅立つ。ってことで、あと数週間はよろし……」
「うあーーーーーん」
雨に濡れたアドリーの上衣を片付けようとしていたバットゥータは、それを引きずりながら大声で彼に駆け寄った。
「何だ、ガキみてえだな」
とアドリーは真剣に取り合ってくれない。
「俺も行く!」
「って、ガキか。お前、今、七歳?八歳になったんだっけ?」
「俺も行く!!」
「聞け、バットゥータ。お前の行く先はガジアンテプでは一番でかい商家だ。使用人が死んだり行方不明なったりしていないか調べたが、悪い噂はない。主もその奥方も穏やかな性格のようだ」
「嫌だ!俺もアドリー様と行く。絶対に一緒に行く!」
何度も繰り返すと、さすがにアドリーが声を荒げた。
「いい加減にしろっ。こっちだって散々、お前の行く末を考えてやっての決断なんだぞ。タチの悪い奴隷商に売るって言ってんじゃない。ちゃんとした商家だ。そこで立派に働けば、お前は七、八年で解放される。使用人でも、もちろん奴隷でも無くなる。何がそこまで気に入らないんだ!」
「嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!」
「バットゥータッ!!」
久しぶりのアドリーの本気の怒鳴り声だった。
そして、彼は自室の扉に手をかけながら言った。
「当日、伝えるよりいいかなと思って伝えたけど、失敗だったな。てんでガキだ」
絶対に入ってくるなというように扉が音を立てて閉められた。
日中だというのに、外は夜のように暗くなる。
雨の音以上に、雷が連続して炸裂し、バットゥータはますます泣き声を上げた。
ララがいなくなり、アドリーからも離れなければいけない。
次の主がいい人だとしても、アドリーの側に置いてもらえないのは嫌だ。
悲しい。
自分はイスタンブールに帰るから、青空市場で買った奴隷なんて、荷物みたいにして現地に置いてくだなんて。
もっと、愛想を見せればよかった。
もっと、尽くせばよかった。
もっと、もっと、もっと。
また、雷が炸裂して、バットゥータは「ギャーッ」と叫ぶ。
かなり近い。
どこかに落ちたのかもしれない。
バットゥータの故郷では、雷とは神様の槍だ。悪さをすると、脳天に落とされるという。
主のアドリーの命令を聞かず、一緒にいたいとダダをこねるから、神様が怒ったのだろうか。
「アドリー様!部屋に入れて!」
「入れて!」
「怖い」
「怖い、怖い、怖いーーーーっ!!」
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