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第二章
28:ってことは、相手は完全な白人男ってわけか
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「はあ。分かりました」
やっぱり、昨晩は呼ばれなくたって、自分が押しかければよかった。
許されるならこの場で地団駄を踏みたい気分だ。
乱れた上に、泣き言や甘ったれたこと?
最高じゃないか。
くっそ、損した。
この人と距離なんて取れないくせに、取ろうと頑張るんじゃなかった。
もんもんとしていると、アドリーがバットゥータの側から離れ、コツンコツンと杖の音を響かせながら、歩き始める。
扉を開ければ外廊下があり、回廊型の宿は小さな中庭が見渡せた。
真ん中には井戸が有り、周囲に色とりどりの花が咲き乱れていて、美しい。
先ほどの小鳥が、別れの挨拶をするように「チチチッ」と鳴いていた。
階段を降りながらアドリーが言った。
「判断はお前に任せるけど、そいつが、いい奴そうだったら、また、歌を聞かせてくれって頼んどいて」
この申し出には、バットゥータは返事を忘れた。
宿を出て館へと戻るアドリーと正反対の方向に向かう。
口止めするなら、早いに越したことはない。
宿の小さな使用人であるエミルが案内役だ。
この子は、アドリーが宿泊した際の御用聞きで、昨晩もアドリーから薬商の老人を呼びに行ってくるよう言いつかっていたはずだ。
海沿いの道を北へ真っすぐ進んでいけば、百五十年ほど前に建てられた新宮殿がある。広さは約七十万平方メートル。呆れるほど巨大だ。
その手前は、あらゆる大陸から取り寄せた大理石で作られたアヤソフィアという名のこれまた巨大なモスク。その側では、現スルタンであるアフメト一世の墓となる予定のモスク建設も進んでいる。絶え間なく工夫らが行き交い、帝国の景気の良さを肌で感じる。
西方向へ進めば、旧宮殿とグランドバザールと呼ばれる巨大な市がある。薬商の老人はそちらに店を構えている。
グランドバザールの手前は、屋根のかからない青空市場。
バットゥータは、そこを進んでいく。
鶏や羊が売られ、なかなかやかましい
歩幅が大きく早歩きなバットゥータを追いかけて、エミルが小走りでついてくる。
済ませたい仕事が山ほどあるので、ゆっくり歩くのはアドリーと一緒にいるときだけだ。
「どうしたの?バットゥータ。元気ない」
小さいとはいえ、常に人が出入りする宿で働くエミルは、表情をよく見ている。
「どこがだ?めちゃくちゃ元気だっつうの。で、アドリー様、昨晩はどうだった?」
「夜中は静かだったよ」
「静か??」
乱れたの何だのって言ってたのは、夢現からくる勘違いか?
バットゥータは市場が並ぶ小道を歩きながら、首を傾げる。
「いつもの薬商のじいさんを呼んだのか?」
エミルが「居なかった」と言って首を振る。
「居たのはアドリー様ぐらいの年齢の人。物凄くでかいんだ」
「でかい?ってことは、男か。歌、歌って言うから、女とばかり」
「でも、話は通じなかった。肌の色が違うからな。もしかしたら、この国に来たばかりなのかも。バットゥータよりも白い」
「ってことは、相手は完全な白人男ってわけか」
帝国には、様々な肌の色の人間が入り乱れている。戦争捕虜や略奪民を多数奴隷として連れてきているからだ。なぜなら、イスラム教徒は奴隷にしてはならないという戒律がある。
元々、バットゥータも、オスマン帝国の都イスタンブールを臨む黒海の真反対、コーカサス(ロシアと国境を接するアゼルバイジャン・ジョージア・アルメニア地域)の人間で、五歳の頃、略奪民としてこの国に強制的に連れてこられた。
生粋の帝国人は肌が浅黒く、数が圧倒的に多い。真っ黒な肌や真っ白な肌の人間はそこまでではない。
「ほお。分かった。そんな目立つ見てくれなら、じいさんの店に行っても間違えそうにねえや。エミル。もう、帰っていいぞ」
やっぱり、昨晩は呼ばれなくたって、自分が押しかければよかった。
許されるならこの場で地団駄を踏みたい気分だ。
乱れた上に、泣き言や甘ったれたこと?
最高じゃないか。
くっそ、損した。
この人と距離なんて取れないくせに、取ろうと頑張るんじゃなかった。
もんもんとしていると、アドリーがバットゥータの側から離れ、コツンコツンと杖の音を響かせながら、歩き始める。
扉を開ければ外廊下があり、回廊型の宿は小さな中庭が見渡せた。
真ん中には井戸が有り、周囲に色とりどりの花が咲き乱れていて、美しい。
先ほどの小鳥が、別れの挨拶をするように「チチチッ」と鳴いていた。
階段を降りながらアドリーが言った。
「判断はお前に任せるけど、そいつが、いい奴そうだったら、また、歌を聞かせてくれって頼んどいて」
この申し出には、バットゥータは返事を忘れた。
宿を出て館へと戻るアドリーと正反対の方向に向かう。
口止めするなら、早いに越したことはない。
宿の小さな使用人であるエミルが案内役だ。
この子は、アドリーが宿泊した際の御用聞きで、昨晩もアドリーから薬商の老人を呼びに行ってくるよう言いつかっていたはずだ。
海沿いの道を北へ真っすぐ進んでいけば、百五十年ほど前に建てられた新宮殿がある。広さは約七十万平方メートル。呆れるほど巨大だ。
その手前は、あらゆる大陸から取り寄せた大理石で作られたアヤソフィアという名のこれまた巨大なモスク。その側では、現スルタンであるアフメト一世の墓となる予定のモスク建設も進んでいる。絶え間なく工夫らが行き交い、帝国の景気の良さを肌で感じる。
西方向へ進めば、旧宮殿とグランドバザールと呼ばれる巨大な市がある。薬商の老人はそちらに店を構えている。
グランドバザールの手前は、屋根のかからない青空市場。
バットゥータは、そこを進んでいく。
鶏や羊が売られ、なかなかやかましい
歩幅が大きく早歩きなバットゥータを追いかけて、エミルが小走りでついてくる。
済ませたい仕事が山ほどあるので、ゆっくり歩くのはアドリーと一緒にいるときだけだ。
「どうしたの?バットゥータ。元気ない」
小さいとはいえ、常に人が出入りする宿で働くエミルは、表情をよく見ている。
「どこがだ?めちゃくちゃ元気だっつうの。で、アドリー様、昨晩はどうだった?」
「夜中は静かだったよ」
「静か??」
乱れたの何だのって言ってたのは、夢現からくる勘違いか?
バットゥータは市場が並ぶ小道を歩きながら、首を傾げる。
「いつもの薬商のじいさんを呼んだのか?」
エミルが「居なかった」と言って首を振る。
「居たのはアドリー様ぐらいの年齢の人。物凄くでかいんだ」
「でかい?ってことは、男か。歌、歌って言うから、女とばかり」
「でも、話は通じなかった。肌の色が違うからな。もしかしたら、この国に来たばかりなのかも。バットゥータよりも白い」
「ってことは、相手は完全な白人男ってわけか」
帝国には、様々な肌の色の人間が入り乱れている。戦争捕虜や略奪民を多数奴隷として連れてきているからだ。なぜなら、イスラム教徒は奴隷にしてはならないという戒律がある。
元々、バットゥータも、オスマン帝国の都イスタンブールを臨む黒海の真反対、コーカサス(ロシアと国境を接するアゼルバイジャン・ジョージア・アルメニア地域)の人間で、五歳の頃、略奪民としてこの国に強制的に連れてこられた。
生粋の帝国人は肌が浅黒く、数が圧倒的に多い。真っ黒な肌や真っ白な肌の人間はそこまでではない。
「ほお。分かった。そんな目立つ見てくれなら、じいさんの店に行っても間違えそうにねえや。エミル。もう、帰っていいぞ」
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