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第一章
16:お前、今夜はいい匂いがするな
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宿舎を出て小走りに廊下を走る。
寝ずの番や見回りの兵を避けて、なんとかラシードの部屋の前に立つことができた。
「迷惑かな?」
悲しさに耐えられないときは来ていいとは言われたけれど。
でも、このままじゃ宿舎に戻って声を押し殺した泣くだけだと思うと、やけくそな勇気が出てきた。
部屋を覗き込むと、ラシードはソファーの端に腰掛けて本を読んでいた。
指で文字を置いながらブツブツ言っている。
「こ、こんばんは」
僕が声をかけると、顔を上げて、「おう。来たか」と言って僕の顔を見たのち、寝室の方向を指さした。
使いたいなら勝手に使え、ということらしい。
今夜、僕がどんな気持ちなのか、バレているようだ。
初めて出会った晩みたいに彼の寝台に潜り込んで、大声を出して泣いた。
今日の悲しさの真意は何だろう?
自分でも分からない。
泣いても泣いても悲しさはしつこく尾を引き、僕は諦めて寝台から出た。
ラシードは相変わらずソファーで本を読んでいた。
銅の盆ソフレは、水差しとコップ、更にはライチがこんもり乗っている。
「今夜は随分長かったな。ちょっとぬるくなっちまったぞ」
前回と同じ位置に腰掛けると、鈍痛が走る。
本を傍らに置き、ザクロ茶を飲みながら僕を見ていたラシードが、手元に転がっていた横長のクッションをソファーでの反対側にポンポンと投げ、「そっちに座れよ」と勧めてくれた。
大人しくそれに従う。
ラシードが身体を起こし、ソファーに深く座り直した。
「お前、今夜はいい匂いがするな」
僕の頭に鼻を寄せてきて、すんと鳴らす。
僕はビクッとしてしまった。
「お、終わった後、お風呂を使わせてもらったから」
どうしてだろう?
今日はラシードが距離を詰めてきている気がする。
「冷たい小川で尻を洗わなくてよかったな」
笑いがなら言うラシードに「うん」と頷くと涙がこぼれた。
「おい。さっき、さんざん泣いたろ?引きずるなよ。今夜の相手に辛いことをされたのか?」
「前回と同じ方。僕がよくなるような香油を選んでくれた。そのせいで、……ね、ねだってしまって。何で、あんなこと言っちゃったんだろう」
「お前、真面目だよなあ。そんなのおかしな香油を使えわれたせいだから、自分は悪くないって開き直ればいいじゃないか」
「……」
「できるならやってるし、オレの部屋には来ないって?あーあー。せっかく風呂に入ってきたのに、初日よりひどい顔になってるぜ」
「涙、ヒックッ、止まらなくて」
「また、あっちで泣いてくるか?それともこうしてやろうか?」
引き寄せられた。
背中を撫でられる。
僕とラシードの背丈は同じぐらい。彼は二歳年上だが、同い年ぐらいの少年に慰められた気分になる。
でも、彼は違うらしい。
「腹違いでもオレより年下の王子はいないからさ。お前って弟みたいで。泣いていると慰めてやりたくなるんだよなあ。肌も目も髪の色も違うのに」
「あり……がと」
「あのさあ、お前の心に響くかどうかはわかんないんだけど、身体を重ねるって三種類あるんだってよ。まだ何もわからない小姓がやられて混乱しているときに、上官はこう言い聞かすらしんだけどさ。聞く?」
僕は頷く。
寝ずの番や見回りの兵を避けて、なんとかラシードの部屋の前に立つことができた。
「迷惑かな?」
悲しさに耐えられないときは来ていいとは言われたけれど。
でも、このままじゃ宿舎に戻って声を押し殺した泣くだけだと思うと、やけくそな勇気が出てきた。
部屋を覗き込むと、ラシードはソファーの端に腰掛けて本を読んでいた。
指で文字を置いながらブツブツ言っている。
「こ、こんばんは」
僕が声をかけると、顔を上げて、「おう。来たか」と言って僕の顔を見たのち、寝室の方向を指さした。
使いたいなら勝手に使え、ということらしい。
今夜、僕がどんな気持ちなのか、バレているようだ。
初めて出会った晩みたいに彼の寝台に潜り込んで、大声を出して泣いた。
今日の悲しさの真意は何だろう?
自分でも分からない。
泣いても泣いても悲しさはしつこく尾を引き、僕は諦めて寝台から出た。
ラシードは相変わらずソファーで本を読んでいた。
銅の盆ソフレは、水差しとコップ、更にはライチがこんもり乗っている。
「今夜は随分長かったな。ちょっとぬるくなっちまったぞ」
前回と同じ位置に腰掛けると、鈍痛が走る。
本を傍らに置き、ザクロ茶を飲みながら僕を見ていたラシードが、手元に転がっていた横長のクッションをソファーでの反対側にポンポンと投げ、「そっちに座れよ」と勧めてくれた。
大人しくそれに従う。
ラシードが身体を起こし、ソファーに深く座り直した。
「お前、今夜はいい匂いがするな」
僕の頭に鼻を寄せてきて、すんと鳴らす。
僕はビクッとしてしまった。
「お、終わった後、お風呂を使わせてもらったから」
どうしてだろう?
今日はラシードが距離を詰めてきている気がする。
「冷たい小川で尻を洗わなくてよかったな」
笑いがなら言うラシードに「うん」と頷くと涙がこぼれた。
「おい。さっき、さんざん泣いたろ?引きずるなよ。今夜の相手に辛いことをされたのか?」
「前回と同じ方。僕がよくなるような香油を選んでくれた。そのせいで、……ね、ねだってしまって。何で、あんなこと言っちゃったんだろう」
「お前、真面目だよなあ。そんなのおかしな香油を使えわれたせいだから、自分は悪くないって開き直ればいいじゃないか」
「……」
「できるならやってるし、オレの部屋には来ないって?あーあー。せっかく風呂に入ってきたのに、初日よりひどい顔になってるぜ」
「涙、ヒックッ、止まらなくて」
「また、あっちで泣いてくるか?それともこうしてやろうか?」
引き寄せられた。
背中を撫でられる。
僕とラシードの背丈は同じぐらい。彼は二歳年上だが、同い年ぐらいの少年に慰められた気分になる。
でも、彼は違うらしい。
「腹違いでもオレより年下の王子はいないからさ。お前って弟みたいで。泣いていると慰めてやりたくなるんだよなあ。肌も目も髪の色も違うのに」
「あり……がと」
「あのさあ、お前の心に響くかどうかはわかんないんだけど、身体を重ねるって三種類あるんだってよ。まだ何もわからない小姓がやられて混乱しているときに、上官はこう言い聞かすらしんだけどさ。聞く?」
僕は頷く。
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