上 下
16 / 183
第一章

16:お前、今夜はいい匂いがするな

しおりを挟む
 宿舎を出て小走りに廊下を走る。
 寝ずの番や見回りの兵を避けて、なんとかラシードの部屋の前に立つことができた。
「迷惑かな?」
 悲しさに耐えられないときは来ていいとは言われたけれど。
 でも、このままじゃ宿舎に戻って声を押し殺した泣くだけだと思うと、やけくそな勇気が出てきた。
 部屋を覗き込むと、ラシードはソファーの端に腰掛けて本を読んでいた。
 指で文字を置いながらブツブツ言っている。
「こ、こんばんは」
 僕が声をかけると、顔を上げて、「おう。来たか」と言って僕の顔を見たのち、寝室の方向を指さした。
 使いたいなら勝手に使え、ということらしい。
 今夜、僕がどんな気持ちなのか、バレているようだ。
 初めて出会った晩みたいに彼の寝台に潜り込んで、大声を出して泣いた。
 今日の悲しさの真意は何だろう?
 自分でも分からない。
 泣いても泣いても悲しさはしつこく尾を引き、僕は諦めて寝台から出た。
 ラシードは相変わらずソファーで本を読んでいた。
 銅の盆ソフレは、水差しとコップ、更にはライチがこんもり乗っている。
「今夜は随分長かったな。ちょっとぬるくなっちまったぞ」
 前回と同じ位置に腰掛けると、鈍痛が走る。
 本を傍らに置き、ザクロ茶を飲みながら僕を見ていたラシードが、手元に転がっていた横長のクッションをソファーでの反対側にポンポンと投げ、「そっちに座れよ」と勧めてくれた。
 大人しくそれに従う。
 ラシードが身体を起こし、ソファーに深く座り直した。
「お前、今夜はいい匂いがするな」
 僕の頭に鼻を寄せてきて、すんと鳴らす。
 僕はビクッとしてしまった。
「お、終わった後、お風呂を使わせてもらったから」
 どうしてだろう?
 今日はラシードが距離を詰めてきている気がする。
「冷たい小川で尻を洗わなくてよかったな」
 笑いがなら言うラシードに「うん」と頷くと涙がこぼれた。
「おい。さっき、さんざん泣いたろ?引きずるなよ。今夜の相手に辛いことをされたのか?」
「前回と同じ方。僕がよくなるような香油を選んでくれた。そのせいで、……ね、ねだってしまって。何で、あんなこと言っちゃったんだろう」
「お前、真面目だよなあ。そんなのおかしな香油を使えわれたせいだから、自分は悪くないって開き直ればいいじゃないか」
「……」
「できるならやってるし、オレの部屋には来ないって?あーあー。せっかく風呂に入ってきたのに、初日よりひどい顔になってるぜ」
「涙、ヒックッ、止まらなくて」
「また、あっちで泣いてくるか?それともこうしてやろうか?」
 引き寄せられた。
 背中を撫でられる。
 僕とラシードの背丈は同じぐらい。彼は二歳年上だが、同い年ぐらいの少年に慰められた気分になる。
 でも、彼は違うらしい。
「腹違いでもオレより年下の王子はいないからさ。お前って弟みたいで。泣いていると慰めてやりたくなるんだよなあ。肌も目も髪の色も違うのに」
「あり……がと」
「あのさあ、お前の心に響くかどうかはわかんないんだけど、身体を重ねるって三種類あるんだってよ。まだ何もわからない小姓がやられて混乱しているときに、上官はこう言い聞かすらしんだけどさ。聞く?」
 僕は頷く。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

私の彼氏は義兄に犯され、奪われました。

天災
BL
 私の彼氏は、義兄に奪われました。いや、犯されもしました。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

処理中です...