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第六章

106:僕がいい男になれば、ジンはどこまでもついてくるって

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「僕は猟師のジンが好きだ。好きなことをしててよ。堀ノ堂なんて人じゃない。ジンは獣に向かって威嚇射撃しただけ」
「そんなこと言うなら、次は本当にあいつを倒しちゃうぜ?」
 彼方は首を振った。
「それは、許さない」
「彼方?何て?」
「許さないって言ったんだ。あれは、僕の敵。僕の獲物。だから、僕が倒す」
「無理だ」
「無理じゃない」
「無理---」
「無理じゃないっ!堀ノ堂の対決は、僕対堀ノ堂だ。ジンじゃない。ジンは猟に出て、ジンの人生を歩んで」
「まるで別れるみたいな事を言う」
「別れないよ。ちょっとした別離はあるかもしれないけれど」
「あ?別離?なんだそりゃ」
「和歌山から電話来るでしょう?ジンが猟に出なくなっても、しつこく電話くれるおじいさん。ちゃんと修行に行ってきて。もう教えられるのは今年限りかもしれないって言ってる。澤乃井さんに僕はもっと早く出会えたらなあって後悔している。だから、行って」
「彼方は俺がこの家から居なくなって寂しくないのか?」
「寂しいに決まってるだろ!想像しただけで、辛い」
「俺が留守の間に、堀ノ堂が来るかも」
「ジンは、千山君から聞いてないの?堀ノ堂の秘書がやってきた時、僕、熱に犯されてて、そこあった包丁の一番大きいのを振りかざしたんだ。千山君が止めてくれた。だから、ジンが思っているほど僕はひ弱じゃない。ピアノは下手くそだけど演奏度胸だけはあるって褒められた」
「澤乃井さんに?」
「うん。あと、僕がいい男になれば、ジンはどこまでもついてくるって。だから、自信を持って最初の一言を言うよ。僕は、好きなことをしてるジンが、好き。僕を最優先するジンよりも。以上。グダグダ言っても話が締まらないから、もうお終い。お風呂入る」
「え?ちょ、彼方サン?」
 いつもなら、ワーワー泣くところだ。
 でも、自信の持ち方を知った今、違う選択肢だってあるってことをジンに示したかった。
 だって、もう未来は代わりつつある。
 ほら、こうやって。
「なら、一緒入ろう?なあって?」
ってジンが後をついてくる。
 きっとお風呂で激しくされそうな予感はある。
 キスだって久しぶりにするはずだ。
 だから、「いいよ。来なよ」と言って彼方は洗面所で服を脱ぎ始める。
 彼方が勇気を出して素直な気持ちを打ちけた二日後には、ジンはさっさと和歌山に旅立ってしまった。
「熊とやってしまうかもしれない。鹿につっこんじゃうかも」
と理解しがたい脅しをかけながら。
「帰りは?」
「気が済むまでいていいって言われてるからそうする。もしくは、彼方が帰ってきてって泣きながら電話してくるまで」
「しないよ」
「つれないのね。彼方サン」
「泣きながら電話するぐらいなら、僕、和歌山まで行くけど。雪深いところだから時間かかると思うけど、なんとしてでも」
「へえ。頼もしい」
 お互い別れたくないのに、別れて、しばらく別々の場所で暮らす寂しさを素直に言えず、意地を張り合った。
 けれど、
 現金はここ。銀行口座、クレジットカードはこれ。何かあったときの緊急連絡先はここ。
 さまざまな、もしもを想定してジンは色んな準備をしてくれていた。
 料理を作ってくれる人がいなくなってしまったので、自由にキッチンを使うのを許可された。
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