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第六章
100:何て??話が戻ったっていうか、飛んだよ
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ジンっぽく言うなら、滾る、だろうか。
「私も楽しくなってきちゃった。連弾しましょう」
澤乃井も乗ってきたのか、わざわざ連弾用の長い椅子まで出してきてくれた。
その椅子も、刺繍がびっしりとされた年代物で、少し端や座面の真ん中が擦り切れている。多くの生徒がそこに座ってきたのがよく分かった。
彼方と澤乃井が連弾を楽しんでいる合間、ジンは、玄関に積もった雪かきをしたり、廊下に出されている本や雑誌などをまとめて燃えるゴミの日用に出す作業をしている。
それが終わると、澤乃井がケーキとコーヒーを出してくれた。
子供も持たなかったのに、二人がいると孫みたい、と澤乃井は言ってくれたので、楽しんでくれたようだ。
「どうだった?」
買ったばかりのアウトドア車に乗り込み、シートベルトをしていると、ジンに聞かれた。
フロントガラスの前では、澤乃井が笑顔で手を振っているので、彼方も振り返す。
「充実した時間だったよ。ありがと、ジン」
「澤乃井さんから俺、仕事を請け負ったから、また行かないか?空き家にする手伝い」
「あの家、売りに出しちゃうんだ?雰囲気いいのに。きっと、澤乃井さんがいるからだろうけれども」
「試打がてら、来てくれたら嬉しいって」
「試打なんて、ずいぶん専門的な言葉知ってるね、ジン。でも、それ、ピアノを購入する前にする試し打ちって意味」
彼方は、はっとした。
「まさか、澤乃井さんから買うつもりじゃないよね?博物館レベルのピアノだよ?堀ノ堂が送りつけてきた金を使って購入して、高値で転売するつもり?」
すると、ジンが、喉を鳴らして笑い始めた。
「高値で転売。彼方はすっかりメルルンの人だな。それに、なんか、嬉しいわ」
「喜ばせること、僕、言った?」
「さっき、堀ノ堂って普通に呼び捨てた。今までは、飼い主って言ってたのに」
「だって、もう違うじゃないか。あれは、元だ。元飼い主」
そして、今の飼い主はジン。
精神も肉体も支配してこようとする同い年の男だ。
彼の殆どの行為が彼方には好ましく、一部だけ受け入れがたいほどムカつく。つまり、彼方と堀ノ堂との対決すら、奪おうとするところが。
「話、戻すけど」
とジンが言った。
「いつか、彼方への婚約指輪代わりのを送りたいんだけど」
「何て??話が戻ったっていうか、飛んだよ」
「こ、ん、や、く」
「……」
「でたよ。その困り顔。あー、耳、押さえんな。難聴じゃないし、聞き間違いでもない。こ、ん、や、く だ。婚約」
「誰と誰が?」
「俺と彼方。嫌なのか?」
「嫌じゃないけど」
彼方は車のハンドルを握るジンを見つめた。
「けど、なんだ?」
「いつ決めたの、と思って」
婚約とは、結婚を承諾した上で行う契約みたいなものではなかったろうか?
つまり、お互いの意思確認があってから行われるもので……。
「また、ジンの奴、勝手決めてって、じわっと怒ってるんだろ、じわっと」
「じわっと怒るって何?まあ、少し、納得できないところはあるけれど」
「結構前から考えていた」
「僕等出会ったの去年の十二月の後半だよ?今はニ月末。出会って二ヶ月ちょっとしかすぎてない」
「人と上手くやれない俺にとっては、奇跡みたいに長え時間だよ。年明けぐらいから、ぼやっと思ってた。言い合いしたり、喧嘩したりしてその度に仲直りして、どんどん絆が深まっていく気がして、気がついたら彼方に虜になっていた。先生が死んでから週末ごとに東京を徘徊して、結構な相手と出会ったけど、彼方はそいつらとは比べ物にならない。---おい。こっちは、一世一代のはずいプロポーズしてんだ。ちゃんとこっち見ろよ」
「そう言うジンは、フロントガラス見てるじゃないか」
「俺は運転中だ。屁理屈言うな」
「私も楽しくなってきちゃった。連弾しましょう」
澤乃井も乗ってきたのか、わざわざ連弾用の長い椅子まで出してきてくれた。
その椅子も、刺繍がびっしりとされた年代物で、少し端や座面の真ん中が擦り切れている。多くの生徒がそこに座ってきたのがよく分かった。
彼方と澤乃井が連弾を楽しんでいる合間、ジンは、玄関に積もった雪かきをしたり、廊下に出されている本や雑誌などをまとめて燃えるゴミの日用に出す作業をしている。
それが終わると、澤乃井がケーキとコーヒーを出してくれた。
子供も持たなかったのに、二人がいると孫みたい、と澤乃井は言ってくれたので、楽しんでくれたようだ。
「どうだった?」
買ったばかりのアウトドア車に乗り込み、シートベルトをしていると、ジンに聞かれた。
フロントガラスの前では、澤乃井が笑顔で手を振っているので、彼方も振り返す。
「充実した時間だったよ。ありがと、ジン」
「澤乃井さんから俺、仕事を請け負ったから、また行かないか?空き家にする手伝い」
「あの家、売りに出しちゃうんだ?雰囲気いいのに。きっと、澤乃井さんがいるからだろうけれども」
「試打がてら、来てくれたら嬉しいって」
「試打なんて、ずいぶん専門的な言葉知ってるね、ジン。でも、それ、ピアノを購入する前にする試し打ちって意味」
彼方は、はっとした。
「まさか、澤乃井さんから買うつもりじゃないよね?博物館レベルのピアノだよ?堀ノ堂が送りつけてきた金を使って購入して、高値で転売するつもり?」
すると、ジンが、喉を鳴らして笑い始めた。
「高値で転売。彼方はすっかりメルルンの人だな。それに、なんか、嬉しいわ」
「喜ばせること、僕、言った?」
「さっき、堀ノ堂って普通に呼び捨てた。今までは、飼い主って言ってたのに」
「だって、もう違うじゃないか。あれは、元だ。元飼い主」
そして、今の飼い主はジン。
精神も肉体も支配してこようとする同い年の男だ。
彼の殆どの行為が彼方には好ましく、一部だけ受け入れがたいほどムカつく。つまり、彼方と堀ノ堂との対決すら、奪おうとするところが。
「話、戻すけど」
とジンが言った。
「いつか、彼方への婚約指輪代わりのを送りたいんだけど」
「何て??話が戻ったっていうか、飛んだよ」
「こ、ん、や、く」
「……」
「でたよ。その困り顔。あー、耳、押さえんな。難聴じゃないし、聞き間違いでもない。こ、ん、や、く だ。婚約」
「誰と誰が?」
「俺と彼方。嫌なのか?」
「嫌じゃないけど」
彼方は車のハンドルを握るジンを見つめた。
「けど、なんだ?」
「いつ決めたの、と思って」
婚約とは、結婚を承諾した上で行う契約みたいなものではなかったろうか?
つまり、お互いの意思確認があってから行われるもので……。
「また、ジンの奴、勝手決めてって、じわっと怒ってるんだろ、じわっと」
「じわっと怒るって何?まあ、少し、納得できないところはあるけれど」
「結構前から考えていた」
「僕等出会ったの去年の十二月の後半だよ?今はニ月末。出会って二ヶ月ちょっとしかすぎてない」
「人と上手くやれない俺にとっては、奇跡みたいに長え時間だよ。年明けぐらいから、ぼやっと思ってた。言い合いしたり、喧嘩したりしてその度に仲直りして、どんどん絆が深まっていく気がして、気がついたら彼方に虜になっていた。先生が死んでから週末ごとに東京を徘徊して、結構な相手と出会ったけど、彼方はそいつらとは比べ物にならない。---おい。こっちは、一世一代のはずいプロポーズしてんだ。ちゃんとこっち見ろよ」
「そう言うジンは、フロントガラス見てるじゃないか」
「俺は運転中だ。屁理屈言うな」
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