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第五章
68:彼方、声が変だぞ。風邪だろ?
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と彼方はジンに聞こえないように呟く。
帰宅すると、元気な子猫二匹は、ジンの部屋に。
元気のない灰色は、薪ストーブの部屋で看病することに決めた。
「ウ、ウウン。ウ、ウウン」
暖かい部屋にいても、少し寒気がするし、喉がいがらっぽい。
咳き込むのがジンが、風呂に行ってる間でよかった。
この後、交代で彼方が風呂に入ることになっている。
風邪薬、あったらちょうだいって言ったら、無理するなってジンがずっと面倒を見そうだ。
でも、自分が拾ったんだし、そのくせ、負担は全部ジンにしわ寄せがいってしまったんだから、灰色の面倒は自分で見ないと。
それに、ジンは猟に出て疲れている。
本当なら、動物病院も付き合わせるべきじゃなかった。
自分に、免許と車があれば。
診察代を支払えるだけの収入があれば。
本当に自分が不甲斐ない。
人間に捨てられた人間は、猫すら満足に救ってやれない。
「彼方、変わろう。身体が冷えてるだろ。さあ、風呂に。あっちの二匹にはミルクはやっといた」
「ありがと」
ジンが風呂から出てきたので、灰色を預け、彼方は風呂に飛び込むようにして入る。
髪は時間がないので洗わない。
そして、ほとんどあたたまることなく風呂から出た。
まだ水滴の残る身体にスウェットを羽織りながら、ソファーへと近づく。
「灰色も少しミルクを飲んだ」
「よかった」
「でも、弱っているから、急変する可能性もある。あんま、期待せずにな」
ジンは大きな手を子猫の背中あてながら言う。
「僕もそうやってジンの手に救ってもらったから大丈夫」
ジンが空いている方の手を見た。
「命を奪ったり救ったり、俺の手って忙しいな」
そして、その手も子猫の腹に当ててくれた。
看病は二日続いた。
その間も元気な二匹は、食欲が旺盛になってきて、世話が大変だった。特に糞の世話が。腹や尻のあたりをトントンと叩いて促してやらなければ糞詰まりを起こして具合を悪くしてしまうのだ。
一方、灰色は、口を開けさせてスポイトで少しずつミルクを与えてやらないと飲み込んですらくれない。
彼方は心配で心配で睡眠時間などあってないようなものだ。
動物の世話がこんなに大変だとは思わなかった。
この一ヶ月、彼方の面倒を見たジンがどんなに大変だったろうと改めて思う。
暗い気持ちの日々だったが、それでも、喜びの瞬間はやってきた。
一時は、スポイトのミルクすら受け付けなくなっていた灰色が、朝起きたら、ミルクをもっともっとと欲しがるようになり、たっぷり飲んで眠った夕方には歩き出すまでになったのだ。
「よかったあ」
彼方はソファーに突っ伏した。
「ひとまず山は超えたな」
「ウ、ウウンっ。そうだね、ウウン」
「彼方、声が変だぞ。風邪だろ?」
「……かもしれない」
ジンが彼方の額に手を当てる。
「風呂に入って温まって寝とけ。猫は美馬んちに預ける」
「美馬君?」
「あいつんちは、ずっと猫飼ってたから、扱いが得意だ。元気な猫ならこっちも預けやすい。気に入ったら、飼ってくれるかもな」
「あ……。そっか、そうだね」
保護はしたが、飼い主は決まっていない。
でも、すっかり飼った気分でいた。
すると、ジンが困った顔をした。
帰宅すると、元気な子猫二匹は、ジンの部屋に。
元気のない灰色は、薪ストーブの部屋で看病することに決めた。
「ウ、ウウン。ウ、ウウン」
暖かい部屋にいても、少し寒気がするし、喉がいがらっぽい。
咳き込むのがジンが、風呂に行ってる間でよかった。
この後、交代で彼方が風呂に入ることになっている。
風邪薬、あったらちょうだいって言ったら、無理するなってジンがずっと面倒を見そうだ。
でも、自分が拾ったんだし、そのくせ、負担は全部ジンにしわ寄せがいってしまったんだから、灰色の面倒は自分で見ないと。
それに、ジンは猟に出て疲れている。
本当なら、動物病院も付き合わせるべきじゃなかった。
自分に、免許と車があれば。
診察代を支払えるだけの収入があれば。
本当に自分が不甲斐ない。
人間に捨てられた人間は、猫すら満足に救ってやれない。
「彼方、変わろう。身体が冷えてるだろ。さあ、風呂に。あっちの二匹にはミルクはやっといた」
「ありがと」
ジンが風呂から出てきたので、灰色を預け、彼方は風呂に飛び込むようにして入る。
髪は時間がないので洗わない。
そして、ほとんどあたたまることなく風呂から出た。
まだ水滴の残る身体にスウェットを羽織りながら、ソファーへと近づく。
「灰色も少しミルクを飲んだ」
「よかった」
「でも、弱っているから、急変する可能性もある。あんま、期待せずにな」
ジンは大きな手を子猫の背中あてながら言う。
「僕もそうやってジンの手に救ってもらったから大丈夫」
ジンが空いている方の手を見た。
「命を奪ったり救ったり、俺の手って忙しいな」
そして、その手も子猫の腹に当ててくれた。
看病は二日続いた。
その間も元気な二匹は、食欲が旺盛になってきて、世話が大変だった。特に糞の世話が。腹や尻のあたりをトントンと叩いて促してやらなければ糞詰まりを起こして具合を悪くしてしまうのだ。
一方、灰色は、口を開けさせてスポイトで少しずつミルクを与えてやらないと飲み込んですらくれない。
彼方は心配で心配で睡眠時間などあってないようなものだ。
動物の世話がこんなに大変だとは思わなかった。
この一ヶ月、彼方の面倒を見たジンがどんなに大変だったろうと改めて思う。
暗い気持ちの日々だったが、それでも、喜びの瞬間はやってきた。
一時は、スポイトのミルクすら受け付けなくなっていた灰色が、朝起きたら、ミルクをもっともっとと欲しがるようになり、たっぷり飲んで眠った夕方には歩き出すまでになったのだ。
「よかったあ」
彼方はソファーに突っ伏した。
「ひとまず山は超えたな」
「ウ、ウウンっ。そうだね、ウウン」
「彼方、声が変だぞ。風邪だろ?」
「……かもしれない」
ジンが彼方の額に手を当てる。
「風呂に入って温まって寝とけ。猫は美馬んちに預ける」
「美馬君?」
「あいつんちは、ずっと猫飼ってたから、扱いが得意だ。元気な猫ならこっちも預けやすい。気に入ったら、飼ってくれるかもな」
「あ……。そっか、そうだね」
保護はしたが、飼い主は決まっていない。
でも、すっかり飼った気分でいた。
すると、ジンが困った顔をした。
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