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第五章

62:彼方サンのなんとなくって言葉、なにげに深いからな

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第五章

「猟について来たいだなんて、急にどうした?」
「なんとなくって今朝、言った」
 ジンの家、いや、元内木の家といったらいいのか、そこは八ヶ岳でも少し山奥にあるのだが、ジンの狩り場としている山はさらに三十分ほど行った場所にあった。
 ほとんど雪に覆われた沢の草木が生い茂る目立たない場所に、ワンタッチで設営できるテントを張って、水を飲みにくる獣を仕留めるために数時間待っていた。
 ジン一人のときは、テントなんて張らず、山の中を移動しながら獲物を待つらしい。
 きっと今日の捕れ高は少ないだろうし、余計な手間もかけさせてしまった。
「彼方サンのなんとなくって言葉、なにげに深いからな」
 こちらとしても、うまく説明できないのだ。
 今朝、初めて、家の掃除を任せて貰った。
 薪ストーブのある部屋や、ジンの寝室だけでなく、風呂場や廊下。それに、サンルームと呼ばれるずっとシェードの掛かっていた部屋。加えて、民泊用に増室した部屋など。
 使わない部屋は三日に一度ぐらいしかしないとジンが言っていたので、これまでジンより遅く起きていた彼方はその姿を見ることは無かったのだが、大分、八ヶ岳の寒さにも慣れてきて、今朝は早起きだった。そうしたら、サンルームを掃除しているジンを見かけ、掃除をやらせてほしいと申し出たのだ。
 玄関を入って逆側に進んだ先にある民泊用として増室しされた部屋は四部屋。
 ベットが一部屋に各二つ。あとは、廊下に簡易シャワー室と洗濯機置場がある。
 素泊まりなら一泊五千九百円。夜と次の日の朝の食事付きなら八千九百円。
 もし、このホテルが再稼働したのなら、駅から離れているので迎えが必要だし、食事もジビエ料理を出すらしいので食事付きプランにする人が多いはずだ。掃除もきっちり行き届いてなければならないだろうし、楽な仕事ではなさそうだ。
 ざっと掃除をしただけでも、息が弾む。
 サンルームの方の掃除は楽しかった。
 板張りの床で、物は無く、大きなガラスから光がいっぱいに差し込んでくるのだ。
 シェードを上げておけば冬でもそこそこ光が入ってくるのに、ジンはいつもきっちり閉めたまま。内木との忘れられない思い出があるのかもしれないと思って、深く聞くのは止めておいた。
 彼の写真はこの家には一枚もない。
 携帯の中に入ってるのかもしれないが、亡くなった人の顔写真を見せてとは言い辛かった。
 いや、きっと素敵な大人だろうから、見ると比べてしまって自信を無くしそうというのが大部分の理由だ。本当に、自分は矮小な人間だ。嫌になる。
 八ヶ岳中の年末年始の浮ついた雰囲気も、三が日が終わるころには綺麗さっぱり消えていた。十日も過ぎればあの喧騒は何だったのかと不思議な気持ちになる。
 忙しくなるのは年明けからと言っていたジンは、予告通り、ちょこちょこ猟に出るようになった。
 猪や鹿を多く獲ってくる。時には、ウサギも。
 今、彼方は折りたたみ式の椅子に座らせてもらっているが、そこに敷かれたクッションは以前、ジンが仕留めたウサギの毛を這いで鞣したもので、ふかふかで暖かい。
 家で待っているときに、鹿の首から頭部分を持ち帰ってきたことがあって仰天したこともある。
 それを溶液につけておくと肉や皮が剥がれ落ち、脳みそも溶け出す。
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