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第四章
58:僕にとってのご褒美は、ジン
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まとわりついてきた視線も、もう感じない。
思い出の曲なので少し神経質になっていただけなのかもしれない。
だって、この曲以外は視線を感じなかった。
視線の主が彼方を知っているのであれば、他の曲であっても遠慮なく見てくるはずだ。
椅子から腰を上げ、ラウンジを後にした。
エレベーターで即最上階へ。
スーツのジャケットの肩や背中をパンパンと払った。
これであの嫌な視線のことはもうおしまいと自分にけりをつけた。
なんせ、これから自分は好きな男と会うのだ。
お預けされていた分、たっぷりと時間を使って、仲良くする。
会いたい、会いたい。
この不安な気持ちをなんとかして欲しい。
「ただいま」
部屋に戻ると、ジンが携帯を眺めながらソファーに座っていた。
そして、「おつかれ」と言いながら立ち上がって、ティーカップなどが収められた棚の上にあった電気ケトルをオンにする。その後、冷蔵庫からラップにかかった大きなサンドイッチを持ってきた。
ジンが腹を、くるくると鳴らしながら喋る。
「五井から。夜食にしてくれってさ。腹いっぱいなら朝食にって。あと、昨日は忙しすぎて、夜食を出し忘れてごめんって謝っていた。謝礼は寝室にある彼方のリュックの上。あとで金額確認しといて」
「全額、ジンに渡したい」
「いらねえよ。それは、彼方が自分の実力で稼いだもんだ。自分のために使え」
「でもさ」
「彼方は、腹は減ってんの、減っていないの?」
話は強引にそらされてしまった。
それが少し不服だった。
「さっきのおせちで充分。ジンは?もしかして、さっきからお腹、鳴ってない?むしろ、ジンがどうぞ。昼も全然、食べてなかったよね?」
「俺は事情があって断食してんの。だからいい」
さっきは、味見しすぎてお腹がいっぱいだと言っていたくせに。
本当に断食しているのであれば、猟に出る前は一人で風呂に入りたいとかみたいな、猟師独特の精神統一の作法?
と思っているとジンがまた冷蔵庫を開けた。
そして、そこから、フルーツがたっぷり詰まったガラスポットを出してくる。ジンの家にあるものより小ぶりだ。その中に、さきほどポットで湧かした湯を入れていく。
ふんわりとしたフルーツの香りが、花が開くようにしてふわっと部屋に広がっていく。
そして、ガラスのカップに注ぐともっといい香りがした。
「彼方サン。ほとんどの人が休む年末年始に本当に頑張った。ちゃんと自分へご褒美あげてやんないと」
「僕にとってのご褒美は、ジン」
「くるね、その言葉」
「あと、ジンが入れてくれるこれ」
一口、二口と味わって彼方はゆっくり飲んでいく。
「ポットとカップは、このホテルのでも、フルーツティー自体はジンのだろ。おせちと一緒に家から持ってきた?」
「バレたか」
「僕、ジンのフルーツティー好きだから。かなりのマニアなんだよ」
飲み干して一息を付くと、ジンがさっそく唇を重ねてきた。
「彼方サン。息がフルーツの香り。そういうのもくるね」
「これから、何する?」
「まず、風呂かな?」
一緒に入るのは久しぶりだ。
華やかな正月客たちに負けないよう身を守る鎧も兼ねていたスーツを脱いで、ありのままの姿になるのは少し恥ずかしい。
「チェックアウトは明後日の十時だ。ゆっくりできる」
湯船の中で彼方と向かい合ったジンが、大きな手で彼方の首やうなじを触りながら言う。
「気持ちがいいこと、覚えたてなのに、我慢しなくちゃならなくて辛かった」
「同じく」
ジンが彼方の胸に顔を近づけてきたので、快楽に備えた。
思い出の曲なので少し神経質になっていただけなのかもしれない。
だって、この曲以外は視線を感じなかった。
視線の主が彼方を知っているのであれば、他の曲であっても遠慮なく見てくるはずだ。
椅子から腰を上げ、ラウンジを後にした。
エレベーターで即最上階へ。
スーツのジャケットの肩や背中をパンパンと払った。
これであの嫌な視線のことはもうおしまいと自分にけりをつけた。
なんせ、これから自分は好きな男と会うのだ。
お預けされていた分、たっぷりと時間を使って、仲良くする。
会いたい、会いたい。
この不安な気持ちをなんとかして欲しい。
「ただいま」
部屋に戻ると、ジンが携帯を眺めながらソファーに座っていた。
そして、「おつかれ」と言いながら立ち上がって、ティーカップなどが収められた棚の上にあった電気ケトルをオンにする。その後、冷蔵庫からラップにかかった大きなサンドイッチを持ってきた。
ジンが腹を、くるくると鳴らしながら喋る。
「五井から。夜食にしてくれってさ。腹いっぱいなら朝食にって。あと、昨日は忙しすぎて、夜食を出し忘れてごめんって謝っていた。謝礼は寝室にある彼方のリュックの上。あとで金額確認しといて」
「全額、ジンに渡したい」
「いらねえよ。それは、彼方が自分の実力で稼いだもんだ。自分のために使え」
「でもさ」
「彼方は、腹は減ってんの、減っていないの?」
話は強引にそらされてしまった。
それが少し不服だった。
「さっきのおせちで充分。ジンは?もしかして、さっきからお腹、鳴ってない?むしろ、ジンがどうぞ。昼も全然、食べてなかったよね?」
「俺は事情があって断食してんの。だからいい」
さっきは、味見しすぎてお腹がいっぱいだと言っていたくせに。
本当に断食しているのであれば、猟に出る前は一人で風呂に入りたいとかみたいな、猟師独特の精神統一の作法?
と思っているとジンがまた冷蔵庫を開けた。
そして、そこから、フルーツがたっぷり詰まったガラスポットを出してくる。ジンの家にあるものより小ぶりだ。その中に、さきほどポットで湧かした湯を入れていく。
ふんわりとしたフルーツの香りが、花が開くようにしてふわっと部屋に広がっていく。
そして、ガラスのカップに注ぐともっといい香りがした。
「彼方サン。ほとんどの人が休む年末年始に本当に頑張った。ちゃんと自分へご褒美あげてやんないと」
「僕にとってのご褒美は、ジン」
「くるね、その言葉」
「あと、ジンが入れてくれるこれ」
一口、二口と味わって彼方はゆっくり飲んでいく。
「ポットとカップは、このホテルのでも、フルーツティー自体はジンのだろ。おせちと一緒に家から持ってきた?」
「バレたか」
「僕、ジンのフルーツティー好きだから。かなりのマニアなんだよ」
飲み干して一息を付くと、ジンがさっそく唇を重ねてきた。
「彼方サン。息がフルーツの香り。そういうのもくるね」
「これから、何する?」
「まず、風呂かな?」
一緒に入るのは久しぶりだ。
華やかな正月客たちに負けないよう身を守る鎧も兼ねていたスーツを脱いで、ありのままの姿になるのは少し恥ずかしい。
「チェックアウトは明後日の十時だ。ゆっくりできる」
湯船の中で彼方と向かい合ったジンが、大きな手で彼方の首やうなじを触りながら言う。
「気持ちがいいこと、覚えたてなのに、我慢しなくちゃならなくて辛かった」
「同じく」
ジンが彼方の胸に顔を近づけてきたので、快楽に備えた。
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