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第四章

45:初めてジンの口から聞いた

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 鼓膜がパーンと張った中、叫ぶと、頭がガンガンした。
 雪の中に突っ伏して、冷たさを感じていると少し紛れる。
 肩を掴まれた感触があって、気づいたらもう抱き上げられてた。
 でも、普段のジンの感触と違う。
 こうやって抱き上げられたことは一度や二度じゃないから、いくら耳が痛くてもよく分かる。
 細胞一つ一つが張り詰めながら流れているようた。
「そこまで症状がひどいなら、さっさと病院へ」
「わざと悪化させやがって。お前に頼るんじゃなかった」
「ストレスの元を取り除かなければ、些細な事で、再発する。それに、ボクも来るんじゃなかった。六年ぶりに幼なじみに会えると感傷に浸って馬鹿みたいだ。ゲイのいちゃいつきを見せつけられただけだ」
「彼方はゲイじゃねえ。そう告げたら、お前の評価はころっと変わるのか?薄っぺらい人間性は相変わらずだな。さっさと帰れえよ。あと、美馬。約束は約束だ。ネットと電気会社の契約書は置いていけ。そっちは年明けの契約になる」
「分かった。その……ごめんな。ジン。彼方君」
 美馬は足早に、千山はゆっくりと、自分の車に向かう。
 別れの挨拶もせず、ジンは家の中へと帰っていく。
 ソファーに降ろされた。
 車のエンジン音や、タイヤが雪を踏む音が聞こえてこない。
「大丈夫か?」
 耳を押さえられると、ジンがから血の匂いを感じた。
 手もいつもの感覚とは違う。
 身体と同じで、緊張で張り詰めているようだ。
「知ってたんだね。僕の飼い主のこと」
「謝れって?」
「謝るのは僕でしょ」
「彼方は愛人になったつもりはないみたいだし、恥じた人生じゃないなら、謝らなくていいんじゃね?」
「愛人なんかじゃないよ。でも、綺麗な人生でもない。携帯だって自分じゃ契約できないし、身分証は無いし、名字だって知らない」
「知ろうとしないからだろ」
 ジンの手が離れていく。
「俺はずっと、彼方にここにいて欲しいと思っている。でも、堀ノ堂一の元に帰る可能性を彼方が残しておきたいなら、事を荒立てる必要ないもんな」
「帰らないっ。帰るわけないだろっ。耳が聞こえなくなって、捨てられたんだから」
「そのことに、腹が立っているのか?じゃあ、やり返せ」
「名字ぐらい取り返して来いって?簡単に言うなよ。僕だって、飼われていた場所を飛び出してから、まともに生活したくて何万回も考えたよ。でも、足はすくむし、耳だって」
「うん。だから、ここまで彼方は自力で来たろ?進んでないなんて言ってない。携帯だって手に入れたし、商売だって始めようとしてる。ついでに、あんたのことを好いている男が側にいて、いつだって手助けしようとスタンバイしていること、知っといて欲しい」
「好き?」
「おう」
「初めてジンの口から聞いた」
「態度では示してたつもり。フルーツティーに台湾カステラ。ケーキ。あとは、これ」
 耳が大きな手で包まれた。
「でも、俺、自分で気持ちが重いって自覚あるから。彼方のこと考えるとストーカーみたいになりそうだし、いや、犯罪者かな?きっと、この家に縛り付ける」
「僕中心になるってこと?」
「かな?自分でも気持ちが悪いぐらいだけど」
 ジンにずっと束縛されることを想像するだけで、心が震える。
 だが、彼方は首を振った。
「嬉しいけれど、だめだよ、ジン。猟の修行は?本当は、八ヶ岳を離れる予定だったんじゃないの?」
 すると、彼方の耳を覆っていたジンの手が離れた。
「美馬か。あいつ」
とふっとため息をつく。
「それは先生が亡くなる前から考えていたことだ。でも、あの人の看病や死があって、なあなあに」
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