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第四章

40:彼方君はどこから来たの?東京?

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 軽トラックに猟銃が入ったケースを積んで、山道を上がっていくジンを見送ってから、彼方も風呂を済ましガレージへと向かった。
「ううう。今日も寒い」
 晴れてはいるが、空気は冷たい。
 春はまだまだ先だ。
 さっきテレビで日付を確認したのだが、今日は十ニ月三十日。
 ジンと連絡をとって八ヶ岳にやってきたのが、十二月十八日。
 二週間近くが過ぎようとしていた。
 それに、いつの間にか一年が終わろうとしている。
 飼われていたマンションを飛び出したのが、確か六月。
「半年間、なんとか生き延びた」
 彼方は、はあっと息を付いた。
 白い呼気が、曇った八ヶ岳の空に消えていく。
 飼い主がいなくたって、どんなにみっともなくたって、生き延びた。
 そして、これからもそうしていく。
 自分はピアノを弾けと命令されて、そうするだけの人形じゃない。
 人間だ。
「今はまだ、他人を……ジンを頼り切りだけどさ」
 気分が落ちそうになって、無造作にガレージの壁に積まれた鹿の角を一つ掴んで、玄関前へと持っていく。
「写真。どうしようかな」
 以前、猟師というアカウント名のジンのサイトを見せてもらったが、なかなか乱雑な写真の撮り方をしていた。逆光で写真が暗いし、ピンボケなのもある。当然、あまり売れていない。
「うーん」
 雪山を背景に撮った方が見栄えがするだろうか?
 それとも室内?
 光がちゃんと入らないと、ジンの写真みたいに暗い出来になってしまうような気がする。
 雪道をアウトドア車が登ってきて、ジンの家の玄関前の広い駐車スペースに入ってきた。
 運転席から出てきたのは、同年代ぐらいの男だ。ひょろっとした体つきをしている。
「ええっと、ここで、何してるの?」
 入ってきた車からどけようと、鹿の角を持ってうろうろしていたら、不審者がられた。
「あ、それ、ジンが獲った鹿?もしかして、ジンの知り合い?」
 彼方は頷く。
 男は携帯会社のロゴが入たつるつるっと光る丈夫そうなショッピングバックを持っていた。
「ジンは、山なんだよね?」
「巻き猟り?っていう仕事が急に入って。夕方には戻るって言ってたんだけど」
「これ、頼まれていた携帯。彼方って人に渡せってジンが。メルルンの設定とか手伝えって言われたんだけど」
「彼方は僕。鹿の角とか皮をジンのアカウントでメルルンで売ることになってて」
 すると、男は持ってきたショッピングバックから携帯の入った箱を取り出した。
「オレは美馬。ジンの同級生。中学の時、バスケ部で一緒だった」
「初耳だ」
「彼方君はどこから来たの?東京?」
 頷くと、「携帯を与えられる関係ってことは、ジンとはそれなりの仲なんだよね?男同士だからって下世話な意味で聞きたいんじゃなくて。男女交際的な話題って、あいつの地雷を踏むから、気を使うんだ。命を守るって意味での質問」と聞いてきた。
「物騒」
「うん。あいつ、前住んでた実家のあたりでは、猛獣って呼ばれてたから」
「それ、本当?」
「マジで」
 美馬と名乗った男は真顔で頷く。
「それなりの仲……なのかどうかは世話になっている身だから、はっきりとは言えないけれど」
「いつからここに?あいつ、この家によく人を入れたなあ」
「十日ほど前に来た。僕、仕事を探してるんだけど。なかなか無くて、だったら、これ、メルルンで売ればいいってジンが勧めてくれて」
 彼方は手に持っている鹿の角を美馬に見せる。
「だから、そんなの持ってたのか」
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