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第四章

39:愛撫してもらう気持ちよさを知った

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 キスを覚えた。
 互いが互いを求め合うキスを。
 愛撫してもらう気持ちよさを知った。
 だが、逆はまだだ。
 彼方が攻めていたはずなのに、ジンが我慢できなくなって、いつの間にか形勢逆転している。
 攻めたいし、攻められたい。
 同時に体感できないのがもどかしい。
 行為はクリスマスの夜に始まって、何度かのまどろみを挟んで翌朝になっても終わらなくて、薪ストーブの前に用意した食べ残しのクリスマスの食べ物をベットに持ってきて、とても行儀の悪い食べ方をした。唐揚げもポテトもケーキも。食べさせあいをして、その延長で相手の指まで舐めた。
 外は大雪で、ジンは出かける用事は無く、配達の人が何度か来てその度にぶつくさいいながら布団から抜け出し、戻ってきた。一回だけ、戻って来るのがすごく遅くて、だから、離れていた分を惜しむようにキスを求めた。
 その流れで一緒に風呂に入り、また、肌をこすりつけあった。
 ジンは、彼方の性器を口に含んで存分に舐め回すくせに、逆のことはさせてくれない。それを不公平だと感じるが、「それやられちゃうと、興奮しすぎて、絶対に彼方サンの尻を壊しちゃうんで」と断られてしまった。
 すんなり出来るようになるには、本当に大変で無理に入れようとして尻が切れて大出血なんてこともあるようなので、ジンはかなり我慢してくれているらしい。
 初めて知った快楽に夢中になった彼方だったが、やがて身体の方に、限界がやってきた。
 ジンの腕の中で気絶するように眠ってしまっていた。
 初めて会った夜はこんな甘い感じなんて想像できなかったが、ジンは上手に彼方の凍っていた心を溶かしていく。
 ---今日は、一体、何日なんだ?年は明けたのか?
 彼方はそれすら分からなくなりつつあった。
 まあ、いいやと思う反面、未来に向けて何も問題が解決していないことが心に引っかかる。
 ジンに「大丈夫だって」と言われたら、「そうかも」と思ってしまうし、「俺が何とかしてやる」と言われたら、あっさり頼ってしまいそうだ。いけない。いけない。こんなんじゃいけない。
「むう」
 唇を押し付けられた感触があって、少し息苦しく、それで目覚めた。
 ジンの携帯電話が鳴っていて、彼方から唇を離すとめんどくさそうにディスプレイを眺めはじめる。
 佐一さんと名前が出ていた。
「出たくねえ」
「何で?昔、遊んでこじれた相手?」
「彼方サンはもしかして、俺の過去に焼いたりする?じゃあ、話せねえなあ」
「焼かないし、僕に気にせず出たら?」
 ジンの過去を、彼方はそこまで知らない。
 猟の先生でなおかつ、好きな人を亡くしたこと。
 ゲイの出会い系サイトを使っていたこと。
 それぐらいだ。
 でも、乱暴そうに見えて、彼方の身体を優しく扱ってくれるし、キスも上手だ。
 そこそこ経験を重ねていれば、誰かしらから連絡はあるはず。
「ちょっと会ってくるわ」とふらっと居なくなられても、文句は言えない。
 ジンが彼方の頰を突いた。
「この人、猟師仲間ね。かなりの年配。年末のこの時期に電話があるってことは、素人漁師に付き合って巻き猟りに出るから手伝えっていう仕事の依頼だと思う」
「じゃあ、行かないと」
「今日は、人がくる」
「誰?」
 配達の人以外がこの家にやって来たことはこれまでない。
「携帯屋と、イ・シャタマ」
 携帯屋は分かる。でも、 イ・シャタマって誰?外国人??
「一人でいられる?今回の巻き狩りは、素人も交じるから。獣の解体も教えるだろうし、時間がかかりそう。帰りは夕方近くだと思う」
「来客は、対応できそうなら、僕がしとくよ」
「あらあ。片時も離れたくないから、行くなって、彼方サン言ってくれないのね」
「働けるありがたみを嫌というほど知ったから。それに、新しい携帯が届くなら、メルルンも始動させないと」
「携帯屋に聞けば、たぶん色々教えてくれるはず。じゃあ、俺の帰り待ってて。どこにも行かないよな?」
「行くとこないもの」
「でも、脱走の前科ありだろ。さて、からかいすぎると、怒られるから、俺は風呂に入るか」
「僕もいい?」
 すると、髪を撫でられた。
「猟の日は駄目。精神統一ってのは言いすぎだけど、今の風呂は身を清める作業だから。帰ってからも、俺は少し気が立っていると思う。けど、機嫌が悪い訳じゃない。先に伝えておく」
 もう一緒に風呂に入るのが当たり前になりつつあったので、断られて寂しいが、そういう理由があるならしょうがない。
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