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第二章

20:好きでもない相手と、一足飛びに最後までするのは辛いでしょ、あんたも、俺も

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 昨日は心も身体も距離があったのに、今日は隙間なく隣り合っている。
 時間を意識してないわけではなかった。
 でも、今、この状況がとても心地よくて、別のステージに移るのが惜しかったのだ。
「するよ、今夜は。で、できる」
「彼方サン。リラックスしてたのに、夜が更けるにつれて、落ち着き無いね?」
「は、はあ?何、言って」
「別に、明日に繰り越したってかまわないんだけど?」
 参った。
 ジンは見ていないようで、見ている。
 猟師という職業柄なのか、観察眼が鋭い。
 そのうち、全部バレてしまいそうな気がする。
 その前に、ものすごく気に入って貰えたら、この冬が終わるまではここに居させて貰えるかな?
 いや、やっぱり名字も分からない自分なんか、引くだろうな。
「……お風呂、借して」
「どうぞ」
 風呂場に行くと、またスウェットが置かれてあった。昨日と同じのだが、きちんとまた洗ってくれたようだ。
 シャワーを浴びて、身体と髪を洗って湯船に浸かる。
 昨日はビリビリと痛かったが、今日は別の風呂に入っているみたいに快適だ。
 のぼせる前に上がって、ドライヤーで髪を乾かし、薪ストーブの部屋に戻る。
 昨夜と同じく余ったフルーツティーをアイスでジンが出してくれて、彼は入れ替わりに風呂に向かう。
 飲み干し空にしたコップをキッチンで軽く洗って水切り籠へと入れる。
 そして、ジンの部屋に向かった。
 朝、起きて、もうそのままこの家に戻ってくることはないだろうと思っていたので、ベットメイクもせずにいた。だが、昨夜みたいにベットは綺麗になっていて、枕元に置かれていたものだけが無かった。
 部屋はほどよく暖房が効いてて、温かい。
 布団の上に座って待っていると、ジンが部屋にやってきた。
 彼が隣に座ると、湯上がりのいい匂いがする。
「寝る?」
 携帯を充電器に差し込みながら、ジンが聞いてくる。
「寝るよ。寝るさ!けど、ジン、やる気ないだろ?」
「何、怒ってんの?」
「だって、き、昨日は、ここにゴムとかちゃんと用意してた」
 すると、堪えきれないというように、ジンが彼方から顔を背けてぷっと笑った。
「彼方サン、かなりのやる気じゃん。でも、まだ無理だと思う。知識が何にもない状態でやられたら、俺の尻、壊されちゃう」
「壊され……」
 彼方は途中で言葉を失った。
 ジンはたまに途中から言葉が出てこなくなるようなことを言う。
「それに、好きでもない相手と、一足飛びに最後までするのは辛いでしょ、あんたも、俺も」
 否定された気がしてちょっと傷ついた。
 確かに昨夜は、ジンは好きでもない相手だった。
 でも、今は、少し違う。
 たった二十四時間で、気持ちが動いた。
 それは、命を救ってくれたから?
 食事を与えてくれたから?
 優しい言葉をくれたから?
 ……そうだね。それって、好きとはまた違うのかもしれない。
 好きという気持ちでコーティングされた、命を守るための生存本能なのかもしれない。
 それでも、ちょっと育った好意を摘み取られた気がして、ムッとしてしまうのだ。
 自分は、そんな偉そうな立場じゃないくせに。
「じゃあ、どうすればいい?昼は、ちょっとずつでもいいから成長していけって」
「電気消す」
 一瞬部屋が真っ暗になった後、ランプが付けられた。
「彼方。もっとこっち来て」
 たぶん、ジンは普通に言っているはずなのに、囁やかれた気分になる。
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