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第二章
17:糸みたいに細いものを必死に手繰り寄せて、そうしたらジンにたどり着いた
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「ピアノを弾いていた。偉い人たちの前で。レストランや個人的なパーティーみたいな場所。上手に弾けたらくれた。でも、使い道がなくて、溜まってた。でも、僕に与えられた部屋を飛び出して、ホテルを転々とするうちににどんどんお金が無くなっていって、ビジネスホテルとか漫画喫茶とか泊まる場所のランクを下げて、最後、金が無くなってゲイサイトに」
ピアノを披露すると、必ず幾人かの男が寄ってきた。
彼方のワイシャツのボタンを外させ、ズボンを下げるように言ってくる。
ピアノの演奏のチップ。さらに、脱いだことへのチップ。
そして、もっと卑猥なことを許してくれるなら、さらなるチップをあげるよと、たいていの男が言った。
でも、それは、してはならないことだと、子供心に感じていた。
さらなるチップというものを受け取ってしまえば、飼い主は彼方を捨てる。
だから、許すのはその手前まで。
いやらしい目で身体をさんざん視姦されて、当時はもやもやとした変な気分になったが、今、思えばそうやって飼い主に性欲すらコントロールされていたのかもしれない。
「彼方」
過去に飛びそうになる自分を、ジンに名前を呼ばれたことで引き戻された。
「バイトとかは?東京だったら、若い男なら選ばなければ宿無しになるなんてこと」
「ジンの言う選ばなければって何?僕だって選り好みするつもりなかったよ。でも、犯罪がらみじゃなさそうな、いいや、グレーな仕事だってなんらかの証明書を求められた。僕、本当にそういうの持ってなくて」
喉が詰まって、ツバを飲み込むのも辛かった。
「か、か、飼い主に」
ジンに打ち明けようとすると、ボタボタと涙がこぼれだす。
「ずっと飼われてて、僕は、自分の名字ってものを知らない。学歴ってものもない。小学校すら通ってない。ずっとピアノを頑張ってきた。全国のいろんなバーやホテルみたいな場所で、飼い主に命令されて弾くのが僕の仕事、いや飼育されるのと引き換えの義務だった。だけど、耳がおかしくなってしまって、これじゃあ、使い物にならないって言われて、もういらないって」
ジンの手が離された。
引いてしまったのかもしれない。
こんな重い、訳有りの奴、関わらないほうがマシだと思ったのかもしれない。
でも、その手は彼方の背中に回って、優しく上下した。
大きな身体に抱きしめられ、魂ごとすがりつきたくなる。
彼方は、迷子になった子供が親にようやく会えたみたいにジンにしがみついた。
本音が溢れ出す。
「ゲイサイトで待ち合わせして、遠距離移動してちゃんと会えるなんて、奇跡みたいだった。糸みたいに細いものを必死に手繰り寄せて、そうしたらジンにたどり着いた」
「彼方サン、さっき脱走しようとして、失敗しちゃったしな。ここにいる運命なんだ。相手は、めんどくせーリバだけど。うわあ、臭いこと言ったな、俺」
彼方は濡れた目の下を拭いながら、ジンの腕から逃れる。
「何だ、もう、離れちゃうのか?残念だな」
「泣いた僕の方が、恥ずかしいし」
すると、ジンが彼方の頭を一撫でした。
「飲めよ、フルーツティー。ちょと冷めたかもしんねえけど」
と勧めてくる。
「美味しい」
身体が内側から温まり、泣いて、ほんの少しでも打ち明け話ができたら、安心したのか
急速に眠くなってきた。
「寝るか?疲れが残ってんだろうから、好きなだけ部屋で寝てきていいぞ。俺は、ここで食材が新鮮なうちに色々作るから、できたら起こす」
「何、作るの?」
「卵は、台湾プリンとかカステラにしよう。ベーコンは、カリカリに焼くだけでも旨いけど、マッシュルームと一緒にオーブンで焼いてもいいな。いや、じゃがいもがあるから蒸してブロッコリーとあえて、チーズも入れて、ベーコン撒いて焼くか」
彼方はジンのレシピを目を瞑ったまま聞いていた。だが、やがてソファーの背もたれからズルズルと座面に身体が沈んでいく。
ジンが側に寄ってくるのが分かった。
「どうする、部屋行くか?運んで行くけど?」
「……ここに……いる」
「じゃあ、ちょっと移動な。ここだと、薪ストーブに焼かれて、焦げ彼方になる」
何だそれ、と思っているとふわっと身体が浮いた。
ピアノを披露すると、必ず幾人かの男が寄ってきた。
彼方のワイシャツのボタンを外させ、ズボンを下げるように言ってくる。
ピアノの演奏のチップ。さらに、脱いだことへのチップ。
そして、もっと卑猥なことを許してくれるなら、さらなるチップをあげるよと、たいていの男が言った。
でも、それは、してはならないことだと、子供心に感じていた。
さらなるチップというものを受け取ってしまえば、飼い主は彼方を捨てる。
だから、許すのはその手前まで。
いやらしい目で身体をさんざん視姦されて、当時はもやもやとした変な気分になったが、今、思えばそうやって飼い主に性欲すらコントロールされていたのかもしれない。
「彼方」
過去に飛びそうになる自分を、ジンに名前を呼ばれたことで引き戻された。
「バイトとかは?東京だったら、若い男なら選ばなければ宿無しになるなんてこと」
「ジンの言う選ばなければって何?僕だって選り好みするつもりなかったよ。でも、犯罪がらみじゃなさそうな、いいや、グレーな仕事だってなんらかの証明書を求められた。僕、本当にそういうの持ってなくて」
喉が詰まって、ツバを飲み込むのも辛かった。
「か、か、飼い主に」
ジンに打ち明けようとすると、ボタボタと涙がこぼれだす。
「ずっと飼われてて、僕は、自分の名字ってものを知らない。学歴ってものもない。小学校すら通ってない。ずっとピアノを頑張ってきた。全国のいろんなバーやホテルみたいな場所で、飼い主に命令されて弾くのが僕の仕事、いや飼育されるのと引き換えの義務だった。だけど、耳がおかしくなってしまって、これじゃあ、使い物にならないって言われて、もういらないって」
ジンの手が離された。
引いてしまったのかもしれない。
こんな重い、訳有りの奴、関わらないほうがマシだと思ったのかもしれない。
でも、その手は彼方の背中に回って、優しく上下した。
大きな身体に抱きしめられ、魂ごとすがりつきたくなる。
彼方は、迷子になった子供が親にようやく会えたみたいにジンにしがみついた。
本音が溢れ出す。
「ゲイサイトで待ち合わせして、遠距離移動してちゃんと会えるなんて、奇跡みたいだった。糸みたいに細いものを必死に手繰り寄せて、そうしたらジンにたどり着いた」
「彼方サン、さっき脱走しようとして、失敗しちゃったしな。ここにいる運命なんだ。相手は、めんどくせーリバだけど。うわあ、臭いこと言ったな、俺」
彼方は濡れた目の下を拭いながら、ジンの腕から逃れる。
「何だ、もう、離れちゃうのか?残念だな」
「泣いた僕の方が、恥ずかしいし」
すると、ジンが彼方の頭を一撫でした。
「飲めよ、フルーツティー。ちょと冷めたかもしんねえけど」
と勧めてくる。
「美味しい」
身体が内側から温まり、泣いて、ほんの少しでも打ち明け話ができたら、安心したのか
急速に眠くなってきた。
「寝るか?疲れが残ってんだろうから、好きなだけ部屋で寝てきていいぞ。俺は、ここで食材が新鮮なうちに色々作るから、できたら起こす」
「何、作るの?」
「卵は、台湾プリンとかカステラにしよう。ベーコンは、カリカリに焼くだけでも旨いけど、マッシュルームと一緒にオーブンで焼いてもいいな。いや、じゃがいもがあるから蒸してブロッコリーとあえて、チーズも入れて、ベーコン撒いて焼くか」
彼方はジンのレシピを目を瞑ったまま聞いていた。だが、やがてソファーの背もたれからズルズルと座面に身体が沈んでいく。
ジンが側に寄ってくるのが分かった。
「どうする、部屋行くか?運んで行くけど?」
「……ここに……いる」
「じゃあ、ちょっと移動な。ここだと、薪ストーブに焼かれて、焦げ彼方になる」
何だそれ、と思っているとふわっと身体が浮いた。
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