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第一章

11:できるって言ったんだから、拒むなっ

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 ---激しいのも穏やかなのも好きだけど。
 メッセージでやり取りした文面が高速で彼方の脳内を駆け抜ける。
 この先、どうしていいのか全然分からない。
 慣れているようでも、ジンにとって彼方は初めての相手なので、体重のかけ加減がまだ分からないみたいだ。押しつぶされそうで怖い。
 再び、ランプの明かりが消えて真っ暗になった。
 闇夜とはまさにこのことだ。
 キスは熱を帯びていって、彼方の口内にジンの舌が潜り込んでくる。
 手が勝手にジンを押し返そうとしていた。
 ジンが一瞬、唇を離す。
「できるって言ったんだから、拒むなっ」
「---っ」
「手を俺の背中に回せよ。やれよ。ほら、やれって」
「やるから、……怒鳴らないで……くれよ」
「あんたが、これ以上、俺をイラつかせないならな。あと、力抜け。これじゃあ、棒切れを抱いている気分」
 再びキスが始まって、ジンが時折吐き出す息が欲望を押し込めたものに変わっていくのを感じた。
 でも、彼方の身体には興奮はやってこない。
 逆にますます身体が固まる。
 息継ぎでジンの唇が離れた瞬間、ドカッと窓が激しく鳴った。
 外はかなりの強風のようだ。家が揺れる。
「ひいっ」
 体験したことのない音に、悲鳴を上げるとジンが彼方の身体から離れた。ランプが再び灯された。
 こいつ、どうしようもなく使えねえ奴だな、というような顔をしたジンが肘枕をした状態で彼方を見ていた。
「おつかれ」
 これ以上の性的なことは何も期待していないというような態度だった。
「なんで?これからだろ?さっきのは、風の音にびっくりしただけ」
「どんなに頑張っても、この手のことは、意気込みだけじゃどうにもならない。無理なのは無理ってはっきりと身体に出る。よーく、分かった」
「無理じゃないって」
 情けなくて、泣けてくる。
「嘘つくと、窒息させるけど?」
 ジンが肘枕を止め、彼方を抱き寄せてくる。
 そして、冗談ではなく、本当に抱きしめる腕に力を込めてきた。
「うううう」と我慢していても、彼方から声が漏れる。
 それは、泣き声のようなうめき声のような、自分も判断できない。
 ただ、分かるのは、行為を止めて貰えて、心底安心したってこと。
 そして、突き放さず抱きしめて貰えて、それに安堵したっていうこと。
「なあ、彼方。俺と約束しろ。今晩は、ここにいていい。何もしないから、俺の隣で寝とけ。でも、首を吊ろうとか、他の方法で死のうとか、この家で死に方を探すのは絶対に無し。それからのことは、朝になってから考えろ。出ていきたい気持ちが強いんだったら、貸してやったダウンジャケット、やるから着てけ。ただし、必ず夜が明けてからだからな。夜中に土地勘の無いのが出歩いたら、即凍死コース。それに、あんたの服は今、乾燥中」
 それきり、ジンは喋らなくなってしまった。
 規則正しい寝息は聞こえてこないから、寝てはいないのだろうが。
 足を伸ばして寝るなんて、数十日ぶりだ。
 そこまで身体の大きくない彼方でも、漫画喫茶の狭い部屋では足は完全には伸ばせなかった。
 シーツも気持ちがいい。
 毛足の長いタイプのもので、ジンの体温も手伝って自然と身体が暖まってくる。
 綱渡りの一日のせいで、身体が疲れ切っていた。
 でも、ついさっきまで彼方を性的に扱おうとしていた男の腕に抱かれているのだから、どうしても神経が緩まない。
「寝ろよ。本当に、何もしねえし。パンクを直してまで猛吹雪の中、あんたを迎えに行ったんだから、信じろよな」
 寝かしつけようとするかのようにジンが頭をさすってくる。そして、枕につけてないほうの耳をもんだり撫でたりし始めた。
 何もしないと言われただけで保証はないというのに、とろとろと眠くなってくる。
 もうどうでもいいと思うことにした。
 さっき差し出してくれた冷たいフルーツティーに睡眠薬が入っていて、目覚めたら複数人に囲まれて撮影が始まっていたとしても、もしくは、もう目覚めない薬で、各内臓ごとに分離されてしまった後でも、もうどうでもいい。
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