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第一章

6:……あの。家族は?

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 山林の道が急に開け、左手に家がぽつんと見えてくる。
「ロッジ?」
 白壁と木の家だった。
 外装がそこそこ分かるのは、内部から光が漏れている。
 何人も滞在できそうな大きさだった。
 ジンがただの迎えで、よからぬ奴らが中に控えていたら、好き勝手に身体を弄くり回され、動画だって撮られてしまうかもしれない。最後は切り刻まれて内臓を売られるかも。
 それを回避するには、山に逃げ込むしかなさそうだが、そうすれば今度は凍死が待っている。
 着いてきてしまった時点で、いや、月額五万円の抱きまくらの募集にメッセージを送った時点で、いい運命など待っていないのだ。
 右手にあるガレージに車が入っていく。
 ライトが変なものを映した。
 銀の大きなテーブルだ。
 肉を解体する工場みたいな場所にあるあれ。
 その上の天井にはポールが渡されていて、輪っかみたいな吊り輪がある。
 あれは何に使うんだろう?
 人をあのテーブルに立たせて、輪っかを手首にくくって何かする?
 ガレージに車が入れられ、ジンが先に降りた。
「家、こっち」
 なかなか降りようとしない彼方に、ジンが助手席まで回り込んでくる。
 乱暴にドアが開けられ、そこから降ろされた。
 荷台に投げ込まれた紙袋は雪でこんもりとした小山を作って隠されてた。
 それを見ていると、「早くしろよ」と叱りつけるようにジンが言ってガレージを出ていく。
 もう逃げる場所はどこにもない。
 それでも、もたもた玄関に向かって歩いていると無言で背中を強引に押され、家の中に入れられた。
 玄関は寒いが、靴を脱いで中に入っていくと、ほんわかと温かい。ジンについて進んでいくと、急に、頭上が開けた。天井が見上げるほど高く、むき出しの太い梁が通っている。
 カウンターキッチンがあって、部屋の隅にはL字型に配置されたかなり大きめなソファー。それに、煙突が天井に向かって伸びている黒いアンティークな薪ストーブがあり、火が灯っている。
 カウンターキッチン横の柱には、白い電話機がかかっていた。
 いざとなったらあの電話を使って警察に。
 いや、その前に殴られ気絶させられるか。
「座っとけ」
 ソファーを指さしたジンは、部屋の奥へと急ぎ足で入って行き、すぐ戻ってきて、薪ストーブの扉を開けて薪を追加する。
 ずっと震えている彼方のためにらしい。
「近づきすぎると、ダウンが焼けるし髪も焦げるから注意な」
とそっけなく言って、今度はカウンターキッチンに立った。
 カチカチカチカチとガスを付ける音がして、その次は冷蔵庫を空ける音。
 ガサガサとビニールみたいなのを取り出す音。ガラスにカツンカツンとなにか入れる音。
 家に戻ってから一時も止まらずジンは動いている。
 案外、せわしない男なんだなと思いながら、彼方はソファーに座り、薪ストーブに手を翳した。
 ジン以外の奴らが部屋の奥から急に出てきてもいいように、ずっとダウンジャケットは着たままだったが、この家に他の人の気配はなさそうだ。様子を伺っているうちに、ダウンジャケットの袖は触れるとかなり熱くなっていて、仕方なく脱いだ。
 湿っていたセーターもだんだんと乾いていく。
 パチパチと薪が爆ぜる音が、不思議と心地よくて、まるで異世界にいるみたいに感じた。
 若者一人で住める家ではない気がして、彼方はジンに話しかけた。
「……あの。家族は?」
「俺、一人で住んでいる」
 当日でも会えると言ってくれたから、一人暮らしだと思ってはいたが、一軒家住まいとは。
 ジンがカウンターキッチンからトレーを持って出てきた。
 そこには、大きなガラスポットが置かれてあって、いちごやラズベリー、カットされたりんごなどがプカプカ浮いていた。よく見れば、パインや蜜柑、バナナなどもある。
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