上 下
68 / 129
第五章

68:七年いりゃあ、飽きただろ。ほとぼりも覚めて、戻ってきてもいい頃だ

しおりを挟む
 客人を招いての食事は、ルルも初めて使用する豪華な食堂で行われた。
 長テーブルには、糊の効いたパリッとした白い布が敷かれ、燭台が数台、等間隔に置かれキャンドルが灯っている。
 使用されてる皿も金の縁取りがされていて、青や緑で複雑な蔦の模様が描かれている。
 そこに乗る肉や魚の料理は、今まで見た中で一番豪華だ。
 村育ちのルルからすれば夢みたいな光景だが、ルルと似た境遇のミレイは、肉汁を口元に垂れ流し一心不乱にガツガツと肉を喰らっている。
 自分も食べ方には自信が無いが、あれでは獣と変わらない。だが、すぐ脇で食事をするウォルトは、甲斐甲斐しいとは言えないが、無骨な仕草で時折、肉汁で汚れたミレイの顔を拭ってやっている。
 この二人、一体どういう関係なんだ?
 なんというか、旅で拾った、拾われただけの関係ではない気がする。
「本題に入るか。回りくどいのは好きじゃない」
 食事をしながらアスランが言うと、ウォルトが「ああ、そうだな」と言った。
「些末なことを、我が従弟に伝えたい」
「さっさと言えよ」
「王が寝付いた」
「それぐらい、先月のうちに知っている」
「情報源は、お前の飼い犬のロンドか。王は、もう回復は見込めないとのことだ」
 ロンド?
 初めて聞く名前だった。
 もしかしたら、信頼できる情報筋というのが彼のことなのかもしれない。
「順当に行けば、話をしたこともない僕の長兄が時期王となるはずだが。ウォルトがわざわざここにやってきたということは、引っ掻き回す宣言しにきたってことか?」
「順当に行かないから、俺が動かざるを得ないんだ」
「どうだか。嬉々として待っていたくせに」
「それはそれ。これはこれ」
とウォルトが澄ました顔で言う。
「今から、衝撃的な事を言う。耳をかっぽじって聞け。バンガー地方の一部が、隣国に侵略された」
 すると、アスランが持っていたフォークを落としかけた。
「いつ?」
 さすがに驚いたらしい。
 声が尖っている。
 バンガー地方は、ゴート地方の真反対にある。
 王都からもさほど離れておらず、隣国との境界線間際にあり、いつも中小規模の争いが絶えないところだ。
 だが、エルバート王国は、拡大せず、侵略せずがモットーの国なので、防戦はお手の物だったはず。
「雪解けの季節のことだ」
「そんなの初耳だ」
「だろうよ。侵略は一瞬のことで、徹底的な言論統制が敷かれ、エルバート王国では無かったことにされている。バンガー地方の一部はいつも小競り合いが起きているが、今回は様子が違った。まず、お前の長兄が指揮を取った。正直、戦のセンスがない男だと思ったが、実戦ではそれが際立っていた」
「だから、負けたのか?補佐は大勢いるはず」
「まず、と言っただろ。話しを聞け。次に、剣士たちの一斉不調だ」
「何だって?」
「悪いものでも食べて皆、当たったのか。それとも、戦を放棄するよう裏で誰かが画策していたのか。食べ物だったら、兵站担当の不手際だろうし、裏で誰かが画策し、それに乗ったのなら、重大な規律違反だ。焦ったお前の長兄は、俺に助けを求めてきた。仕方ないから俺の軍を一個大隊出してやった。防衛の塚が張り巡らされているバンガー地方が侵略されたなんてよほどのことだと思ったからな。だが、あっさり勝った」
「で、手柄は長兄のものか」
「ご明察」
 ウォルトが茶化したように手をパンパンと数度打つ。
「さらには、初陣で黒星がついたのがよほど気に入らなかったのか、戦えなかった剣士を処分すると息巻いていて、長兄軍の剣士が集団で俺に直訴して来たってわけ。長年、魔法使いに虐げられていたという鬱屈も極限まで溜まっていて、暴動が起こりかねない様子だった。さすがにお前の飼い犬のロンドもここまでは知ることはできまい」
「ふむ。で?」
「で、じゃねえよ。分かってんだろ?」
「分かるはずないじゃないか。僕はしがないゴート地方の領主だ」
「七年いりゃあ、飽きただろ。ほとぼりも覚めて、戻ってきてもいい頃だ」
「冗談。また、王宮務めに復帰しろって?針のむしろはごめんだね
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

完結・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に味見されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

孤狼のSubは王に愛され跪く

ゆなな
BL
旧題:あなたのものにはなりたくない Dom/Subユニバース設定のお話です。 氷の美貌を持つ暗殺者であり情報屋でもあるシンだが実は他人に支配されることに悦びを覚える性を持つSubであった。その性衝動を抑えるために特殊な強い抑制剤を服用していたため周囲にはSubであるということをうまく隠せていたが、地下組織『アビス』のボス、レオンはDomの中でもとびきり強い力を持つ男であったためシンはSubであることがばれないよう特に慎重に行動していた。自分を拾い、育ててくれた如月の病気の治療のため金が必要なシンは、いつも高額の仕事を依頼してくるレオンとは縁を切れずにいた。ある日任務に手こずり抑制剤の効き目が切れた状態でレオンに会わなくてはならなくなったシン。以前から美しく気高いシンを狙っていたレオンにSubであるということがバレてしまった。レオンがそれを見逃す筈はなく、シンはベッドに引きずり込まれ圧倒的に支配されながら抱かれる快楽を教え込まれてしまう───

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

処理中です...