63 / 129
第五章
63:……お二人の仲が、さらに悪くなると思って
しおりを挟む
第五章
「ウォルト。これは?」
執務室の椅子に座ったアスランが、机に肘をつき、ムスッとしている。
名前を呼ばれた青年は、背の高いがっちりとした身体つきでかなり恵まれた体格だ。
「どうも、こうも」と演技がかった仕草で天を仰いでみせ、ルルの横で首を横に振った。
「いきなり、斬りかかってきた。それだけで、取り押さえるには、十分な理由だろうが。しかも、この地域で王宮服を着ているなんて、盗んだ以外考えられない、と俺は考えた」
「斬りかかってきただと?ルルッ?」
どういうことなんだい?!というように、ジロッと睨まれてルルは首をすくめた。
逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
だが、ウォルトの魔法で、手首を後ろ手に縛られている。
ウォルトはほとんど魔法は使えないとアスランは言っていたが、「ほとんど」の度合いを甘く見ていたようだ。田舎の魔法使いより全然魔力は上。だとしたら、王都の平均的な魔法使いってどれほどのレベルなのだろう。想像するだけで恐ろしい。
「僕は、ウォルトを迎えに行くように、君に命じたはずなんだが?」
「……」
そんな最中、フーンフフフーンという脳天気な鼻歌が聞こえてくる。
鼻歌の出どころは、背後にいる青年だ。洗練された姿の美形な剣士で、ウォルトの客人。
いや、美形だからこそ、小さな赤い宝石のついた目立たないピアスを耳たぶにしていても、変哲のない武具を身体に着けていたって美しく見えるのかもしれない。
それぐらい際立って美しいのだ。
そして、自由人。
辺境の地ゴートといえど、アスランは領主。
彼の前で鼻歌を歌い、本棚に収まっている本の背表紙をくいと引っ張っては興味なさげに戻すを繰り返している。
名前はミレイ。
「ちょっと借りる」
アスランが執務机の椅子から立ち上がると、つかつかとこちらに向かってやってきた。そして、ウォルトがルルの手首にかけた魔法の縄を瞬時に断ち切って、有無も言わざす、ルルを私室に引き込んだ。
そして、「説明を」と言いながらどっかり寝台に座り込む。
「君が、いきなり斬りかかるなんてしないのは分かっている。理由があったのだろう。だが、なぜ、あの場で申し開きしない?」
「……お二人の仲が、さらに悪くなると思って」
「僕とウォルトの?」
「あの場で述べるのは、告げ口するみたいで」
「ウォルトは、何事も斜に構える性格だから、いまの状況を楽しんでいる。だが相手は王族だ。場合によっては処罰されているぞ。で、何があった?」
ルルはボソボソと話し始めた。
「最初は、ウォルト様とは全く気づかなかったんです。市場で、大柄な剣士が、細身の派手な身なりの剣士を連れているな、ぐらいで。でも、近づくに連れ、大声で文句を、というよりせせ笑っている感じで」
「ウォルト。これは?」
執務室の椅子に座ったアスランが、机に肘をつき、ムスッとしている。
名前を呼ばれた青年は、背の高いがっちりとした身体つきでかなり恵まれた体格だ。
「どうも、こうも」と演技がかった仕草で天を仰いでみせ、ルルの横で首を横に振った。
「いきなり、斬りかかってきた。それだけで、取り押さえるには、十分な理由だろうが。しかも、この地域で王宮服を着ているなんて、盗んだ以外考えられない、と俺は考えた」
「斬りかかってきただと?ルルッ?」
どういうことなんだい?!というように、ジロッと睨まれてルルは首をすくめた。
逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
だが、ウォルトの魔法で、手首を後ろ手に縛られている。
ウォルトはほとんど魔法は使えないとアスランは言っていたが、「ほとんど」の度合いを甘く見ていたようだ。田舎の魔法使いより全然魔力は上。だとしたら、王都の平均的な魔法使いってどれほどのレベルなのだろう。想像するだけで恐ろしい。
「僕は、ウォルトを迎えに行くように、君に命じたはずなんだが?」
「……」
そんな最中、フーンフフフーンという脳天気な鼻歌が聞こえてくる。
鼻歌の出どころは、背後にいる青年だ。洗練された姿の美形な剣士で、ウォルトの客人。
いや、美形だからこそ、小さな赤い宝石のついた目立たないピアスを耳たぶにしていても、変哲のない武具を身体に着けていたって美しく見えるのかもしれない。
それぐらい際立って美しいのだ。
そして、自由人。
辺境の地ゴートといえど、アスランは領主。
彼の前で鼻歌を歌い、本棚に収まっている本の背表紙をくいと引っ張っては興味なさげに戻すを繰り返している。
名前はミレイ。
「ちょっと借りる」
アスランが執務机の椅子から立ち上がると、つかつかとこちらに向かってやってきた。そして、ウォルトがルルの手首にかけた魔法の縄を瞬時に断ち切って、有無も言わざす、ルルを私室に引き込んだ。
そして、「説明を」と言いながらどっかり寝台に座り込む。
「君が、いきなり斬りかかるなんてしないのは分かっている。理由があったのだろう。だが、なぜ、あの場で申し開きしない?」
「……お二人の仲が、さらに悪くなると思って」
「僕とウォルトの?」
「あの場で述べるのは、告げ口するみたいで」
「ウォルトは、何事も斜に構える性格だから、いまの状況を楽しんでいる。だが相手は王族だ。場合によっては処罰されているぞ。で、何があった?」
ルルはボソボソと話し始めた。
「最初は、ウォルト様とは全く気づかなかったんです。市場で、大柄な剣士が、細身の派手な身なりの剣士を連れているな、ぐらいで。でも、近づくに連れ、大声で文句を、というよりせせ笑っている感じで」
0
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
完結・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に味見されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
孤狼のSubは王に愛され跪く
ゆなな
BL
旧題:あなたのものにはなりたくない
Dom/Subユニバース設定のお話です。
氷の美貌を持つ暗殺者であり情報屋でもあるシンだが実は他人に支配されることに悦びを覚える性を持つSubであった。その性衝動を抑えるために特殊な強い抑制剤を服用していたため周囲にはSubであるということをうまく隠せていたが、地下組織『アビス』のボス、レオンはDomの中でもとびきり強い力を持つ男であったためシンはSubであることがばれないよう特に慎重に行動していた。自分を拾い、育ててくれた如月の病気の治療のため金が必要なシンは、いつも高額の仕事を依頼してくるレオンとは縁を切れずにいた。ある日任務に手こずり抑制剤の効き目が切れた状態でレオンに会わなくてはならなくなったシン。以前から美しく気高いシンを狙っていたレオンにSubであるということがバレてしまった。レオンがそれを見逃す筈はなく、シンはベッドに引きずり込まれ圧倒的に支配されながら抱かれる快楽を教え込まれてしまう───
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる