上 下
164 / 169
第八章

164:もうすぐ祭りも終わりの時間だね

しおりを挟む
 なぜか時雨が後ろにいて、肩を掴んでいた手が、尚の手まで移動してきてしっかり繋がれる。
「この人混みを抜けるまで。いい?」
 尚は声を出さずに頷く。
 緊張と蒸し暑さでベタつく互いの手が、そこに心情まで現れている気がしてドキドキした。
「こういうことした?」
 時雨が聞いてくる。
「恵風と手を繋いだかってこと?一回だけ」
 すると、握られる手が強まった。
 なぜ、時雨がそうしたのか、最初はわからなかった。
 でも、緩まない力にすぐに気づく。
 嫉妬か。
 思い出した。時雨という男はそういう男だった。
 かつて、救世教団にいたときに尚が受けたオナニー禁止を破った罰に対しても、「僕以外の奴に射精管理されてた」と腹を立てたことがある。
「他のことは?」
「無いよ」
 尚は嘘をつく。
 時雨が怖かったわけではない。
 人のいない場所で、真実を打ち明けたら、時雨は素直な気持ちを尚の身体を使ってどう表現するだろうかと想像してしまったからだ。
 だから、真実を打ち明けるのは今じゃない。
 人波に流されるように歩いていくと、やがて時間も過ぎていく。
「もうすぐ祭りも終わりの時間だね」
と時雨が言った。
 この後は、ホテルに帰るだけだ。
「ちょっと待ってて。喉が渇いたからジュースを買ってくる。そこいてよ。動かないでよ」
 何度も念押しして、時雨が店じまいを始めている屋台へと走っていく。
 尚はその間、時雨に握られていた方の手を撫でながら、とあることを考えていた。
 持たされた荷物のこと。
 氷雨と翠雨が尚を山奥の神社に行かされた理由。
 しかも、野っ原で見つけた社と同じ本殿。
「あそこの神社の名前、何だっけ?」
 人間が使うサイトではほとんど情報が無かったので、神様データベースの方で調べてみる。
「縁結びの神社??本殿横にある水を張った鉢に半紙を溶かすと、結ばれる相手の名前が分かる。ただし、縁結び神社の神様のお眼鏡に叶う者のみしかそこにはたどり着けない---え?」 
「時雨さんはあの神社で、鉢を覗き込んでいた。でも、半紙に現れた名前は時雨。自分と縁を結ぶのはおかしいよな。じゃあ、他の相手のことを調べていた?もしかして、もしかしてたけど」
 一瞬、言葉を失った。
「俺の相手は誰ってあの神社の神様に占ってもらったってこと??」
 尚はその場で叫び出したい気分になった。
 絶対、時雨は尚の相手は恵風だと思っていたはずだ。
 なのに、占ってもらったら自分の名前が出た。
「だから、固まってた。で、その後、泊まって行けって。よく考えたら、京都で宿がとれなかったら、大阪あたりまで足を伸ばせばいい話だ」
 時雨がジュースを二つ持って戻ってくる。
 まだ、早い。まだ早いって!
 尚は慌てる。
「はい。冷たいお茶。お酒の方がよかった?」
「こういう場で潰れたら、さすがに迷惑だろ」
「部屋で飲む?」
「ううん」
「どうしたの、急に黙り込んで。疲れた?もういい時間だし、ホテルに帰ろうか?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕を抱いて下さい

秋元智也
BL
自慰行為をする青年。 いつもの行為に物足りなさを感じてある日 ネットで出会った人とホテルで会う約束をする。 しかし、どうしても見ず知らずの人を受け入れる のが怖くなってしまい、自分に目隠しをすることにする。 相手には『僕を犯して下さい』とだけメッセージを添えた。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

【完結】泥中の蓮

七咲陸
BL
柳月人は前世で暴行をされ、引きこもりの末に家族と不和となり自殺をする。 もう終わった人生のはずが、目が覚めると小さい手…転生していた。 魔法と剣のファンタジーのような世界で双子の弟として転生したが、今度こそ家族を大切にしようと生き足掻いていく。 まだ幼い自分が出会った青年に初恋をするが、その青年は双子の兄の婚約者だった。 R規制は※つけています。 他サイトにも掲載しています 毎日12、21時更新

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

処理中です...