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第八章
164:もうすぐ祭りも終わりの時間だね
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なぜか時雨が後ろにいて、肩を掴んでいた手が、尚の手まで移動してきてしっかり繋がれる。
「この人混みを抜けるまで。いい?」
尚は声を出さずに頷く。
緊張と蒸し暑さでベタつく互いの手が、そこに心情まで現れている気がしてドキドキした。
「こういうことした?」
時雨が聞いてくる。
「恵風と手を繋いだかってこと?一回だけ」
すると、握られる手が強まった。
なぜ、時雨がそうしたのか、最初はわからなかった。
でも、緩まない力にすぐに気づく。
嫉妬か。
思い出した。時雨という男はそういう男だった。
かつて、救世教団にいたときに尚が受けたオナニー禁止を破った罰に対しても、「僕以外の奴に射精管理されてた」と腹を立てたことがある。
「他のことは?」
「無いよ」
尚は嘘をつく。
時雨が怖かったわけではない。
人のいない場所で、真実を打ち明けたら、時雨は素直な気持ちを尚の身体を使ってどう表現するだろうかと想像してしまったからだ。
だから、真実を打ち明けるのは今じゃない。
人波に流されるように歩いていくと、やがて時間も過ぎていく。
「もうすぐ祭りも終わりの時間だね」
と時雨が言った。
この後は、ホテルに帰るだけだ。
「ちょっと待ってて。喉が渇いたからジュースを買ってくる。そこいてよ。動かないでよ」
何度も念押しして、時雨が店じまいを始めている屋台へと走っていく。
尚はその間、時雨に握られていた方の手を撫でながら、とあることを考えていた。
持たされた荷物のこと。
氷雨と翠雨が尚を山奥の神社に行かされた理由。
しかも、野っ原で見つけた社と同じ本殿。
「あそこの神社の名前、何だっけ?」
人間が使うサイトではほとんど情報が無かったので、神様データベースの方で調べてみる。
「縁結びの神社??本殿横にある水を張った鉢に半紙を溶かすと、結ばれる相手の名前が分かる。ただし、縁結び神社の神様のお眼鏡に叶う者のみしかそこにはたどり着けない---え?」
「時雨さんはあの神社で、鉢を覗き込んでいた。でも、半紙に現れた名前は時雨。自分と縁を結ぶのはおかしいよな。じゃあ、他の相手のことを調べていた?もしかして、もしかしてたけど」
一瞬、言葉を失った。
「俺の相手は誰ってあの神社の神様に占ってもらったってこと??」
尚はその場で叫び出したい気分になった。
絶対、時雨は尚の相手は恵風だと思っていたはずだ。
なのに、占ってもらったら自分の名前が出た。
「だから、固まってた。で、その後、泊まって行けって。よく考えたら、京都で宿がとれなかったら、大阪あたりまで足を伸ばせばいい話だ」
時雨がジュースを二つ持って戻ってくる。
まだ、早い。まだ早いって!
尚は慌てる。
「はい。冷たいお茶。お酒の方がよかった?」
「こういう場で潰れたら、さすがに迷惑だろ」
「部屋で飲む?」
「ううん」
「どうしたの、急に黙り込んで。疲れた?もういい時間だし、ホテルに帰ろうか?」
「この人混みを抜けるまで。いい?」
尚は声を出さずに頷く。
緊張と蒸し暑さでベタつく互いの手が、そこに心情まで現れている気がしてドキドキした。
「こういうことした?」
時雨が聞いてくる。
「恵風と手を繋いだかってこと?一回だけ」
すると、握られる手が強まった。
なぜ、時雨がそうしたのか、最初はわからなかった。
でも、緩まない力にすぐに気づく。
嫉妬か。
思い出した。時雨という男はそういう男だった。
かつて、救世教団にいたときに尚が受けたオナニー禁止を破った罰に対しても、「僕以外の奴に射精管理されてた」と腹を立てたことがある。
「他のことは?」
「無いよ」
尚は嘘をつく。
時雨が怖かったわけではない。
人のいない場所で、真実を打ち明けたら、時雨は素直な気持ちを尚の身体を使ってどう表現するだろうかと想像してしまったからだ。
だから、真実を打ち明けるのは今じゃない。
人波に流されるように歩いていくと、やがて時間も過ぎていく。
「もうすぐ祭りも終わりの時間だね」
と時雨が言った。
この後は、ホテルに帰るだけだ。
「ちょっと待ってて。喉が渇いたからジュースを買ってくる。そこいてよ。動かないでよ」
何度も念押しして、時雨が店じまいを始めている屋台へと走っていく。
尚はその間、時雨に握られていた方の手を撫でながら、とあることを考えていた。
持たされた荷物のこと。
氷雨と翠雨が尚を山奥の神社に行かされた理由。
しかも、野っ原で見つけた社と同じ本殿。
「あそこの神社の名前、何だっけ?」
人間が使うサイトではほとんど情報が無かったので、神様データベースの方で調べてみる。
「縁結びの神社??本殿横にある水を張った鉢に半紙を溶かすと、結ばれる相手の名前が分かる。ただし、縁結び神社の神様のお眼鏡に叶う者のみしかそこにはたどり着けない---え?」
「時雨さんはあの神社で、鉢を覗き込んでいた。でも、半紙に現れた名前は時雨。自分と縁を結ぶのはおかしいよな。じゃあ、他の相手のことを調べていた?もしかして、もしかしてたけど」
一瞬、言葉を失った。
「俺の相手は誰ってあの神社の神様に占ってもらったってこと??」
尚はその場で叫び出したい気分になった。
絶対、時雨は尚の相手は恵風だと思っていたはずだ。
なのに、占ってもらったら自分の名前が出た。
「だから、固まってた。で、その後、泊まって行けって。よく考えたら、京都で宿がとれなかったら、大阪あたりまで足を伸ばせばいい話だ」
時雨がジュースを二つ持って戻ってくる。
まだ、早い。まだ早いって!
尚は慌てる。
「はい。冷たいお茶。お酒の方がよかった?」
「こういう場で潰れたら、さすがに迷惑だろ」
「部屋で飲む?」
「ううん」
「どうしたの、急に黙り込んで。疲れた?もういい時間だし、ホテルに帰ろうか?」
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