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第七章
158:下にっ、いるからっ
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恵風は三人に挨拶をし、「行こう。上にじいちゃんたちの部屋があるから」と尚を旧館から連れ出す。
手を繋いだまま早足で階段をどんどんと足音を立てて上がり、部屋まで来てようやく恵風が尚に声をかけた。
「お前、平気か?」
恵風が座布団を進めてくれて、尚はそこに座る。
一旦、尚の目の前に座った軽風だったが、やがてにじり寄って来た。
「あの方は止めとけ」
恵風は名前は出さないが、誰を指しているのかは明白だった。
「別に。もう関係ねえし。俺が神様学校卒業したら、上に帰るって言っているから後見神だって外れるはず」
だが、恵風は聞いてない。
「本当に止めとけ。関わった相手をボロボロにするって有名だ。思い続けたって何もいいことないぞ」
「かもな」
「疎雨」
尚の足の間に入ってきた恵風は、それ以上何も言わず、頬を押さえて少し強引に唇を重ねてくる。
キスは調理実習室以来だ。
でも、舌が入ってくるのは初。
「下にっ、いるからっ」
流石に尚は動揺する。
「いいだろ。そんなの」
唾液で互いの唇が濡れていく。恵風の息が乱れる。そして、自分も。
聞こえる距離では無いのに、キスの吐息がバレたらどうしようと尚は焦る。
尚を抱く恵風の腕にぎゅうっと力が入る。
「何でわざわざ苦しい思いをしようとすんだよ。マゾなのか」
再びぎゅっと抱擁された。
ほら、いいから早く抱き返せというように。
でも、尚の手は上がらない。
「俺でいいだろ、なあ」
「一緒にいろよ、ずっと」
「こっちを見ろよ」
それ以降もたくさんの口づけと、たぶん恵風の限界を越えた精一杯の口説き文句を貰っても、尚の手はどうしても、最後まで上がらなかった。
言えたのは、
「悪い」
という謝罪だけ。
やがて、恵風が離れた。
「謝るのはこっちだろ。強引だった」
恵風は尚の濡れた口元を拭ってきた。
ものすごく気落ちした様子だ。
盛り上がる素振りを少しでも見せてやれたら結果は違っていただろうか。
今更ながら思う。
「言ってなかったけど、俺、射精できないんだ」
どうして、今、こんな打ち明け話をしてしまったのか分らない。
「ん……?」
「冗談で言ってるわけじゃない。俺、新興宗教の二世って言ったろ?そこでオナニー禁止を破った罰ってのがあって、あそこをめちゃめちゃぶっ叩かれるわけ。大人の男に押さえつけられた上で力任せにな。だから、俺と寝てもつまんねえよ、きっと」
「分かんねえじゃねえか、そんなの」
「そうだけど。やっぱり恵風とは寝れねえ、かな。友達と恋人の境界線があったら、あんたは友達側だし」
「そうか」
「口説いてくれて、ありがとな」
「俺にしときゃあいいのに。何も気にしねえよ。疎雨は疎雨だろ」
そこで、ようやく恵風を抱き返すことができた。
その後、尚は恵風と別れ、一人で帰った。
同じ門前仲町住まいなのだから、一緒に帰ればいいのに、恵風は電車で尚は徒歩を選んだ。
恵風は別れ際、尚に箱を渡してきた。
「皿の修理、終わった。金粉は俺が縫っておいた」
道を歩きながら、箱から出してみた。
激しく叩き壊された皿の下部は細かい金継ぎがされ、サンタクロースのソリを引くトナカイが金の雪を蹴散らしているように見えた。
尚がしばらく持っていた昔の時雨の依代部分も上部にきちんとはまり、金の線がいいアクセントになっている。
「別物だ。生まれ変わったんだ」
夜中近くになって尚は門前仲町にたどり着く。
時雨の家に寄って、箱ごと金継ぎされて生まれ変わった皿をポストに押し込んだ。
ポストはチラシや封書が溜まっていて、マメにチェックをしていないようだが、引っ越す前には気づくだろう。
手を繋いだまま早足で階段をどんどんと足音を立てて上がり、部屋まで来てようやく恵風が尚に声をかけた。
「お前、平気か?」
恵風が座布団を進めてくれて、尚はそこに座る。
一旦、尚の目の前に座った軽風だったが、やがてにじり寄って来た。
「あの方は止めとけ」
恵風は名前は出さないが、誰を指しているのかは明白だった。
「別に。もう関係ねえし。俺が神様学校卒業したら、上に帰るって言っているから後見神だって外れるはず」
だが、恵風は聞いてない。
「本当に止めとけ。関わった相手をボロボロにするって有名だ。思い続けたって何もいいことないぞ」
「かもな」
「疎雨」
尚の足の間に入ってきた恵風は、それ以上何も言わず、頬を押さえて少し強引に唇を重ねてくる。
キスは調理実習室以来だ。
でも、舌が入ってくるのは初。
「下にっ、いるからっ」
流石に尚は動揺する。
「いいだろ。そんなの」
唾液で互いの唇が濡れていく。恵風の息が乱れる。そして、自分も。
聞こえる距離では無いのに、キスの吐息がバレたらどうしようと尚は焦る。
尚を抱く恵風の腕にぎゅうっと力が入る。
「何でわざわざ苦しい思いをしようとすんだよ。マゾなのか」
再びぎゅっと抱擁された。
ほら、いいから早く抱き返せというように。
でも、尚の手は上がらない。
「俺でいいだろ、なあ」
「一緒にいろよ、ずっと」
「こっちを見ろよ」
それ以降もたくさんの口づけと、たぶん恵風の限界を越えた精一杯の口説き文句を貰っても、尚の手はどうしても、最後まで上がらなかった。
言えたのは、
「悪い」
という謝罪だけ。
やがて、恵風が離れた。
「謝るのはこっちだろ。強引だった」
恵風は尚の濡れた口元を拭ってきた。
ものすごく気落ちした様子だ。
盛り上がる素振りを少しでも見せてやれたら結果は違っていただろうか。
今更ながら思う。
「言ってなかったけど、俺、射精できないんだ」
どうして、今、こんな打ち明け話をしてしまったのか分らない。
「ん……?」
「冗談で言ってるわけじゃない。俺、新興宗教の二世って言ったろ?そこでオナニー禁止を破った罰ってのがあって、あそこをめちゃめちゃぶっ叩かれるわけ。大人の男に押さえつけられた上で力任せにな。だから、俺と寝てもつまんねえよ、きっと」
「分かんねえじゃねえか、そんなの」
「そうだけど。やっぱり恵風とは寝れねえ、かな。友達と恋人の境界線があったら、あんたは友達側だし」
「そうか」
「口説いてくれて、ありがとな」
「俺にしときゃあいいのに。何も気にしねえよ。疎雨は疎雨だろ」
そこで、ようやく恵風を抱き返すことができた。
その後、尚は恵風と別れ、一人で帰った。
同じ門前仲町住まいなのだから、一緒に帰ればいいのに、恵風は電車で尚は徒歩を選んだ。
恵風は別れ際、尚に箱を渡してきた。
「皿の修理、終わった。金粉は俺が縫っておいた」
道を歩きながら、箱から出してみた。
激しく叩き壊された皿の下部は細かい金継ぎがされ、サンタクロースのソリを引くトナカイが金の雪を蹴散らしているように見えた。
尚がしばらく持っていた昔の時雨の依代部分も上部にきちんとはまり、金の線がいいアクセントになっている。
「別物だ。生まれ変わったんだ」
夜中近くになって尚は門前仲町にたどり着く。
時雨の家に寄って、箱ごと金継ぎされて生まれ変わった皿をポストに押し込んだ。
ポストはチラシや封書が溜まっていて、マメにチェックをしていないようだが、引っ越す前には気づくだろう。
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