上 下
141 / 169
第七章

141:ラブマ神らしいよなあ、ああいうとこ

しおりを挟む
「返事は?」
「……はい」
「ふてくされない。これから、尚に神様名を与えるから。本当は代々的にやってあげたいけれど、今は僕がこんな調子だから。簡易的な命名の儀で悪いね」
 時雨が、急に尚の手を取った。
 優しい接触にどきりとする。
 額にふっと息が吹きかけられた。
「神様名は疎雨(そう)」
「疎雨……ですか?」
「まばらにポツポツ降る雨という意味」
 時雨が付けてくれた名前だ。
 嬉しい。
 雨の一文字も入っているし。
 でもやっぱり、競馬場や甘味処へ行ったり、一緒の布団で寝た時雨とは別人みたいに感じてしまう。
「気に入らない?そのうち慣れるよ。名前が決まれば、住民票が作れる。銀行口座も、クレジットカードも携帯の契約も。それの同行は翠雨に頼んで。神様学校関連は氷雨に」
「時雨さんは?」
「救世教団が壊滅したわけじゃないから、しばらくはその調査に駆り出される。上だってこんな大事になるとは思ってなかっただろうし。教祖がどうやって尚の、あ、いや、疎雨の再来を知ったのか調べなきゃならない。人間時代の疎雨にすでに神様ノートを破く力があって、おまけに再生、読解もできていた理由もね」
「俺も、そっちを手伝いたい……です。だって、俺の問題だし」
「見習いに何ができる?一丁前になりたければ免状を取って」
 時雨はつれない。
 どこで自分は嫌われてたのだろう、と尚は思った。
 いや、時雨は後悔していて、それがこういった態度に現れているのだろうか。
 それとも立場が邪魔をしている?
「これから、注意事項を言う。よく聞いて。免状を貰って、晴れて本物の神様って名乗れる。だから、見習い期間中は、きちんと見習いと名乗ること。時間がかかってもいいから打ち込める仕事を探すこと。神様学校では積極的に友好関係を築くこと。君はその手のスキルが陥没している。返事」
「はい」
「僕から伝えたいことは以上。当面の住まいは氷雨のところで」
「はあ?」
 するとすかさず時雨が尚の頬を指で押さえてくる。
「ケジメ」
「……」
 これじゃあ、まるで犬の躾だ。
 こんな人、時雨ではない。
 時雨の姿をした他人だ。
 尚は、時雨の手を振り払って、無言で立ち上がる。
 数歩、廊下を歩くと、「忘れ物っ」と時雨が神様学校の入った封筒を床に滑らせてきた。

 清澄通りと永代通りが交差する辺りは、門前仲町の一番の繁華街だ。
 尚は、老舗の天丼屋で遅めのお昼を食べていた。
 周りの客が食べている丼は、大きなエビがはみ出して反り返っていて、れんこんやかぼちゃや茄子など具材で溢れている。秘伝のタレも甘めで美味しそうだ。
 この店に誘ってくれたのは、翠雨。そして、氷雨だ。神様として生きていくために、必要な手続きを先程まで手伝ってくれた。
「ラブマ神らしいよなあ、ああいうとこ」
 翠雨がゲラゲラ笑っている。
「過保護」
と氷雨が冷たく言う。
 疎雨の名で、門前仲町神様市役所で住民票を、神様銀行門前仲町支店で口座を、神様クレジットカードに申し込みをし、携帯電話も作った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

絶対服従執事養成所〜君に届けたいCommand〜

ひきこ
BL
少数のDomが社会を支配する世界。 Subと診断された者にはDomに仕える執事となるため英才教育が施され、衣食住が保証され幸せに暮らす……と言われているのは表向きで、その実態は特殊な措置によりDomに尽くすべき存在に作り変えられる。 Subの少年ルカも執事になるほかなかったが、当然そこには人権など存在しなかった。 やがてボロボロに使い捨てられたルカと、彼のことをずっと気にかけていた青年との初恋と溺愛とすれ違い(ハッピーエンド)。 ◆Dom/Subユニバース設定の世界観をお借りしたほぼ独自設定のため、あまり詳しくなくても雰囲気で読んでいただけるかと思います。ハードなSM的描写はありません。 ◆直接的な描写はありませんが、受け・攻め どちらも過去にメイン相手以外との関係があります。 ◆他サイト掲載作に全話加筆修正しています。 ※サブタイトルは試験的に付けており、変更の可能性があります ※表紙画像はフリー素材サイトぴよたそ様よりお借りしています

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

くっころ勇者は魔王の子供を産むことになりました

あさきりゆうた
BL
BLで「最終決戦に負けた勇者」「くっころ」、「俺、この闘いが終わったら彼女と結婚するんだ」をやってみたかった。 一話でやりたいことをやりつくした感がありますが、時間があれば続きも書きたいと考えています。 21.03.10 ついHな気分になったので、加筆修正と新作を書きました。大体R18です。 21.05.06 なぜか性欲が唐突にたぎり久々に書きました。ちなみに作者人生初の触手プレイを書きました。そして小説タイトルも変更。 21.05.19 最終話を書きました。産卵プレイ、出産表現等、初めて表現しました。色々とマニアックなR18プレイになって読者ついていけねえよな(^_^;)と思いました。  最終回になりますが、補足エピソードネタ思いつけば番外編でまた書くかもしれません。  最後に魔王と勇者の幸せを祈ってもらえたらと思います。 23.08.16 適当な表紙をつけました

絶滅危惧種の俺様王子に婚約を突きつけられた小物ですが

古森きり
BL
前世、腐男子サラリーマンである俺、ホノカ・ルトソーは”女は王族だけ”という特殊な異世界『ゼブンス・デェ・フェ』に転生した。 女と結婚し、女と子どもを残せるのは伯爵家以上の男だけ。 平民と伯爵家以下の男は、同家格の男と結婚してうなじを噛まれた側が子宮を体内で生成して子どもを産むように進化する。 そんな常識を聞いた時は「は?」と宇宙猫になった。 いや、だって、そんなことある? あぶれたモブの運命が過酷すぎん? ――言いたいことはたくさんあるが、どうせモブなので流れに身を任せようと思っていたところ王女殿下の誕生日お披露目パーティーで第二王子エルン殿下にキスされてしまい――! BLoveさん、カクヨム、アルファポリス、小説家になろうに掲載。

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

僕を抱いて下さい

秋元智也
BL
自慰行為をする青年。 いつもの行為に物足りなさを感じてある日 ネットで出会った人とホテルで会う約束をする。 しかし、どうしても見ず知らずの人を受け入れる のが怖くなってしまい、自分に目隠しをすることにする。 相手には『僕を犯して下さい』とだけメッセージを添えた。

処理中です...