上 下
102 / 169
第六章

102:また尽くすことに快感を覚えているみたいだな。

しおりを挟む
「怒るなって。 間もなく生き神様がやって来るってヤツだな」
「本当に一瞬で消されてしまった呟きだけど、妙に気になって」
「解決したのか?」
「いや」
「じゃあ、佐伯美穂子のことを指してるんじゃないか?あのまま乾かせば立派なミイラになりそうだ」
と氷雨。
「ミイラは死んでいるだろ。生き神様だったら、生きた人間を神様に仕立て上げるってことじゃない?だから、ずっと僕は刺されて重体の教祖のことを指しているのかなって思っていたけれど。でも、今、思うんだ。それが尚だったらって」
「間もなく生き神様がやって来る……って、自主的にってことだろ?教祖に脱会信者が会おうとするのは、通常なら無理。高額な献金や寄付があれば別だろうが。あいつに教団に捧げられるものなんて」
「あるよ」
 時雨は自分でもゾッとするような冷たい声だなと思いながら答えた。
「右目の眼球。それを餌にして教祖との面会を尚が計画しているとしたら?教団側も、左目をすでに捧げているだから、自ら望んで両目を捧げた青年ってことでいい広告塔になると考えていたら?最強の献金マシーンの出来上がりだ。そして、それが教団側の最大の報復」
 翠雨が呻いた。
「右目も摘出されちゃあ、逃げられねえもんな。あいつ、馬鹿か。そこまでする人間、見たことねえ」
「尚はその前に教祖を刺殺するつもりでいるんだろうけれど……」
 時雨は唇を噛み締める。
「僕が教祖を殺してしまおうか。あれこれ考えず、この十日の間で教祖に僕がとどめを刺しておくべきだった」
 氷雨が言った。
「お前、とことん、人間を、いや悪尚を馬鹿にしているな。復讐はあいつだけのものだ。お前が教祖を殺したとして満足するか?ありがとうって言うと思うか?」
「でも」
「でもじゃねえ」
 氷雨が吐き捨てた。
「また尽くすことに快感を覚えているみたいだな。芙蓉の時からまるで成長していない」
「だからって見過ごせない。いいよ。もうここからは僕一人でやるから。翠雨も氷雨も関わると上に睨まれる」
 後部座席の氷雨が消えた。
 代わりにそこに座っていたのは、白銀の狐だ。
 それまで兄弟喧嘩を口を挟まずに見ていた翠雨が言う。
「オレと氷雨で潜入する」
「二人は部外者だろ。これは僕の案件だ」
「動物の姿で教団本部に入り込んだほうが何かと都合がいい。ラブマ神は十年前から動物を依代としていないから無理だろ。それに、あんたが教団本部に乗り込んでいって何するって言うんだ?悪尚を説得して門前仲町の家に連れ戻す?全力で愛して解決?それは、昨晩やったんだろ?でも、出来なかったんだろ?だから、あいつはまた教祖を刺殺に向かった。本当に好きなら、不幸のループを解いてやれよ。それとも、悪尚の本性を直視できないのか?」
「尚の本性?」
「相手が可哀想と思ってばかりいると、見えてこないのかもしれないぜ?」
「ちゃんと一人の男として、一人の人間として敬意を払っているよ」
「だったら、神様ノートを破くぐらい激しい気持ちを持った男に、やりたいだけやらせてやろうぜ。上だって、やがて、本物の神様にも影響を及ぼすようになりそうなヤバイ新興宗教組織を野放しにしているのには絶対に訳があるはずだ。悪尚に何かあったら助けに行こうぜって、昨晩、氷雨とは話し合ったんだ」
「相手は人間だけど、偽神になるぐらいだからエネルギー量は膨大だ。きっと怪我をする」
「それでも、悪尚は助ける。オレたち、苦しんでいる人間を助けるために存在している正真正銘の神様だろ?だから、ラブマ神は救世教団の東京支部がある信濃町のホールへ!そ
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヤリチンクズと誤解されがちな親友から一途に口説かれています

わさん
BL
薄羽が大学に入って知り合った小鳥は、見たこともない綺麗な顔をしていて今日もめちゃくちゃ目立っている。こんなに派手な顔をしているのに、性格はおっとりしていて目が離せない。気づけばいちばん仲のいい友人になっていたが、その頃からどうにも「こーくんに近づかないで!」と牽制されることが増えてきて……。 おっとり無口美形攻め×ふわふわ人懐っこい受け。 注意:後半にモブレ未遂描写が入ります。

お前のものになりたいから

りふる
BL
舞台はアメリカ、メリーランド州。大学で相部屋のフェルとリッキーは、真逆の二人だった。アウトドア派の健康的なフェル。インドア派、というより、セックス依存症のリッキー。けれどリッキーはフェルに恋焦がれていた。尽くすタイプのリッキーはどうしてもフェルと恋仲になりたくて……。 二人の関係の行方。謎多きリッキーの姿を描いていくBLです。

BLゲームのメンヘラオメガ令息に転生したら腹黒ドS王子に激重感情を向けられています

松原硝子
BL
小学校の給食調理員として働くアラサーの独身男、吉田有司。考案したメニューはどんな子どもの好き嫌いもなくしてしまうと評判の敏腕調理員だった。そんな彼の趣味は18禁BLのゲーム実況をすること。だがある日ユーツーブのチャンネルが垢バンされてしまい、泥酔した挙げ句に歩道橋から落下してしまう。 目が覚めた有司は死ぬ前に最後にクリアしたオメガバースの18禁BLゲーム『アルティメットラバー』の世界だという事に気がつく。 しかも、有司はゲームきっての悪役、攻略対象では一番人気の美形アルファ、ジェラルド王子の婚約者であるメンヘラオメガのユージン・ジェニングスに転生していた。 気に入らないことがあると自殺未遂を繰り返す彼は、ジェラルドにも嫌われている上に、ゲームのラストで主人公に壮絶な嫌がらせをしていたことがばれ、婚約破棄された上に島流しにされてしまうのだ。 だが転生時の年齢は14歳。断罪されるのは23歳のはず。せっかく大富豪の次男に転生したのに、断罪されるなんて絶対に嫌だ! 今度こそ好きに生ききりたい! 用意周到に婚約破棄の準備を進めるユージン。ジェラルド王子も婚約破棄に乗り気で、二人は着々と来るべき日に向けて準備を進めているはずだった。 だが、ジェラルド王子は突然、婚約破棄はしないでこのまま結婚すると言い出す。 王弟の息子であるウォルターや義弟のエドワードを巻き込んで、ユージンの人生を賭けた運命のとの戦いが始まる――!? 腹黒、執着強め美形王子(銀髪25歳)×前世は敏腕給食調理員だった恋愛至上主義のメンヘラ悪役令息(金髪23歳)のBL(の予定)です。

冬月シバの一夜の過ち

麻木香豆
BL
 離婚して宿なし職なしの元刑事だった冬月シバ。警察学校を主席で卒業、刑事時代は剣道も国内の警察署で日本一。事件解決も独自のルートで解決に導くことも多く、優秀ではあったがなかなか問題ありな破天荒な男。  この男がなぜ冒頭のように宿無し職無しになったのも説明するまでもないだろう。  かつての女癖が仇になり結婚しても子供が産まれても変わらず女遊びをしまくり。それを妻は知ってて泳がせていたが3人目の娘が生まれたあと、流石に度が超えてしまったらし捨てられたのだ。  でもそんな男、シバにはひっきりなしに女性たちが現れて彼の魅力に落ちて深い関係になるのである。とても不思議なことに。  だがこの時ばかりは過去の女性たちからは流石に愛想をつかれ誰にも相手にされず、最後は泣きついて元上司に仕事をもらうがなぜかことごとく続かない。トラブルばかりが起こり厄年並みについていない。 そんな時に元警察一の剣道の腕前を持つシバに対して、とある高校の剣道部の顧問になってを2年以内に優勝に導かせるという依頼が来たのであった。しかしもう一つ条件がたったのだ。もしできないのならその剣道部は廃部になるとのこと。  2年だなんて楽勝だ! と。そしてさらに昼はその学校の用務員の仕事をし、寝泊まりできる社員寮もあるとのこと。宿あり職ありということで飛びつくシバ。  もちろん好きな剣道もできるからと、意気揚々。    しかし今まで互角の相手と戦っていたプライド高い男シバは指導も未経験、高校生の格下相手に指導することが納得がいかない。  そんな中、その高校の剣道部の顧問の湊音という男と出会う。しかし湊音はシバにとってはかなりの難しい気質で扱いや接し方に困り果てるが出会ってすぐの夜に歓迎会をしたときにベロベロに酔った湊音と関係を持ってしまった。  この一夜の過ちをきっかけに次第に互いの過去や性格を知っていき惹かれあっていく。  高校の理事長でもあるジュリの魅力にも取り憑かれながらも  それと同時に元剣道部の顧問のひき逃げ事件の真相、そして剣道部は存続の危機から抜け出せるのか?!

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

花を愛でる獅子【本編完結】

千環
BL
父子家庭で少し貧しい暮らしだけれど普通の大学生だった花月(かづき)。唯一の肉親である父親が事故で亡くなってすぐ、多額の借金があると借金取りに詰め寄られる。 そこに突然知らない男がやってきて、借金を肩代わりすると言って連れて行かれ、一緒に暮らすことになる。 ※本編完結いたしました。 今は番外編を更新しております。 結城×花月だけでなく、鳴海×真守、山下×風見の番外編もあります。 楽しんでいただければ幸いです。

【完結・R18BL】転生したらドワーフでした

明和里苳
BL
ある日、前世の記憶を取り戻したコンラートは、今世もモテそうにない貧弱ドワーフであることに絶望する。しかし嘆いていても仕方ない。せっかくだから、なけなしの知識チートで無双でもするかな。と思っていた時代が、俺にもありました。なぜクズ野郎にばかりモテるのか。解せぬ。 ■クズ×合法ショタ ■コンラート(18)ドワーフ細工師、貧弱合法ショタ ■ディルク(24)人間族戦斧使い、ガチムチ残念イケメン ■フロル(?)小人族斥候、美ショタ ■アールト(約350)エルフ族レンジャー、腹黒麗人 ■アイヴァン(17)人間族王太子、ボンクライケメン ■バルドゥル(26)人間族神官、一見善人 (ここではネタバレは記載しておりません) ■主人公総受け。攻めは全員クズです。モラルはありません。生温かい目でお楽しみください。 ■R18シーンを含む話には※印を付けてあります。結構な割合で付いてますのでご注意ください。 ■他サイトにも掲載しています。 ■表紙絵はトリュフ先生(X: @trufflechocolat)に描いていただきました。ありがとうございます!

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

処理中です...