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第五章

77:ほらね、やっぱり、無自覚

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「明日の夜には来る?」
「どうかな。急ぐけど場合によってはもう少し遅れるかも」
「なら、俺も出発を遅らせて手伝おうか?」
「神様関連の仕事だから尚には無理なんだ」
「どうしても?」
「足手まとい。悪いけれど」
「……ん」
「言い過ぎた。ノートをね。確認しに行きたいんだ。神様しか見られないノートを」
「神様スタンプとは別物?」
「そうだね。僕より高位の神の管轄で僕の手には余るんだけど、神様スタンプの利用者でちょっとトラブっている人がいてね」
「誰かが困っているなら、しょうがねえな」
 偽善的な返事を尚はした。
 グランピングは二泊三日。
 時雨の仕事は伸びる可能性もあり、尚は三日目の朝から別行動となる。
 もしかしたら、時雨とニ人きりで過ごすのは今だけかもしれない。
 だったら、最後の最後に声を聞きたい。
 救世教団の扉を叩く直前に。
「ねえ、時雨さん。お願いがある」
 尚は申し出た。
「携帯の番号教えて欲しい」
「そういえば、交換していなかったね。出会ってからほぼ一緒だったし」
「仕事中、邪魔にならない程度にメッセージしてもいい?返信は全然遅くもいいからさ。許してくれるなら電話とかも少し」
「……」
「時雨さん?黙っちゃうほど嫌?」
「尚がそんなこと言い出すとは思ってもみなかったから、今、面食らっている」
「と、とも、友達だったらこういうことするだろ」
「知っていた?男同士の場合、一緒の布団に寝ないし、こういうことしない」
「あっ」
 急に襟足のあたりの髪をかきあげられ、そこに顔を埋められる。
「ね?そうでしょう?」
と囁かれたので、尚は足をバタつかせた。
 身体が淡く痺れたからだ。
「携帯、出して」
 時雨がその反応を面白がるようにまた言った。
 QRコードで読み取りをしてもらい交換が終わる。
 メッセージアプリが立ち上がり、『よろしく』と時雨の似顔絵スタンプが送られてくる。
 一体、どうやって作ったんだろう、これ。
 時雨は尚の襟足の辺りから離れたはずなのに、またそこらへんがくすぐったくなってきて尚は手で押さえた。
「俺、自分から携帯番号を交換してって言ったの初めだ」
「その不幸、買い取ろうか?」
「ううん。今、めちゃめちゃ嬉しい。だから、今まで誰とも出来なかったことは、不幸じゃない」
「尚は無自覚にくどき上手」
「くどく?」
 尚は時雨を見上げる。
「ほらね、やっぱり、無自覚」
 時雨は尚の上がった顎を人差し指で押してくる。
「キスするよ」
「は、はあ?!何、急に」
「額に。おやすみの合図。そうすれば、尚は寝るし」
「俺は、そんなに子供かよ」
 尚は身をくねらせながら時雨の胸の中に顔を埋めた。
「これだとつむじにしかできない」
「今晩は、額やつむじの気分じゃない……かも」
 すると時雨が尚の顎を掴んで顔を上げさせた。
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