上 下
10 / 169
第一章

10:まだ苦しい?一個消すね

しおりを挟む
 表紙には、象やキリン、ペンギンなどが楽しそうに遊んでいるイラストと共に「神様スタンプ」と上部に書かれていた。
 神様。
 その単語を一目見ただけで、尚の全身に鳥肌が走る。
「やっぱり、あんた、それ系の人かっ!!」
と叫んで席を立った。
 店を飛び出す。
「待って!それ系って何?」
 時雨が追いかけてきて、すぐに尚に追いついてきた。
 顔を覗き込まれる。
「新興宗教とかカルトとかっ。困っている人間に取り入るあんたみたいなヤツのことだよっ。最初に金を貸すとか、親身になるとかはよく使う手だ」
「それ系って、偽神を語る人たちのこと?ああ、だからさっきヨガがどうのって」
と時雨がちょっと小馬鹿にしたような顔で笑う。
 尚はその笑顔を見て、初めてこの男の人間らしい部分を感じた。
 そもそも、これまでがおかしすぎたのだ。
 容姿は抜群で、優しく、献身的。酔っ払いに一晩付き合ってキスまでしてくれる。
 時雨がちょっと意地悪な笑顔を引っ込め、すまし顔になった。
「でも、僕は本物」
「ついてこないでくれ」
 尚は時雨を大きく避けて、アパートまで急ぐ。
 背後で時雨が叫んだ。
「尚!聞いてっ。このカードは人間の不幸の許容量を表している。大抵の不幸は、自己消化出来るんだけど、大きいのは心に残ってしまう。人によって違いはあって、十マス、二十マスぐらいしかない人もいるんだ。尚の場合は四百以上あるからかなり多い。ほら、突然キレて大事件起こしちゃう人がいるでしょ?それって、全てのマスがドクロでいっぱいになっちゃったから」
 尚は無視し続ける。
 しかし、相手の心臓は鋼のようだ。勝手に喋り、そしてついてくる。
「でもさあ、人によっては『救済チャーンス!!』ってことで、僕ら神様が不幸を買い取って、神様スタンプに余白を作ってあげるって訳」
「救済?今。救済って言ったか?」
 食いしばった歯の隙間から、怨嗟の声が漏れた。
「馬鹿を騙して、その周りの人間も不幸にしやがって」 
 アパートの敷地に入って、鉄骨階段を駆け上ると、同じ音が背後からした。
 このままいけば部屋までついてくる。
 新興宗教に狂った人間のしつこさや鈍感さは嫌というほど知っている。
 尚は、階段を上がりきる直前で止まり、振り返って叫んだ。
「あんたらみたいなの、虫唾が走るっ」
「ちょっと待って。誤解している」
 言い訳に腹が立って、尚は階段を数段降り、時雨の浴衣の襟を掴んで激しく揺さぶる。
「俺から、まだ、搾り取るつもりかっ!!」
「何を?違うよ?買い取りだってば。僕は君から不幸を買い取る。そうしたら、神様スタンプに余白ができて、君はちょっと生きやすくなる。まあ、不幸を現金化して半分を渡すってのは、違法行為だから、目を瞑ってよね」
「黙れっ」
 尚は叫んだ。
 そして、再び、時雨をガクガクと揺さぶった。
「潰してやる。潰してやる。お前らの組織もっ」
 急激に頭に血が上ったものだから、クラクラする。
 階段にしゃがみ込みかけると、腕を取られた。
「部屋に入ろう。鍵、まだ直してないよね?」
 アパートの部屋の鍵は、少し前から壊れている。
 直そうとも思わなかったし、大家への連絡も面倒だった。
 でも、今は心底そのことを後悔している。
 時雨が尚の背中を抱き慎重に階段を登らせると、勝手に部屋の扉を開け玄関先に座らせた。
「まだ苦しい?一個消すね」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヤリチンクズと誤解されがちな親友から一途に口説かれています

わさん
BL
薄羽が大学に入って知り合った小鳥は、見たこともない綺麗な顔をしていて今日もめちゃくちゃ目立っている。こんなに派手な顔をしているのに、性格はおっとりしていて目が離せない。気づけばいちばん仲のいい友人になっていたが、その頃からどうにも「こーくんに近づかないで!」と牽制されることが増えてきて……。 おっとり無口美形攻め×ふわふわ人懐っこい受け。 注意:後半にモブレ未遂描写が入ります。

お前のものになりたいから

りふる
BL
舞台はアメリカ、メリーランド州。大学で相部屋のフェルとリッキーは、真逆の二人だった。アウトドア派の健康的なフェル。インドア派、というより、セックス依存症のリッキー。けれどリッキーはフェルに恋焦がれていた。尽くすタイプのリッキーはどうしてもフェルと恋仲になりたくて……。 二人の関係の行方。謎多きリッキーの姿を描いていくBLです。

BLゲームのメンヘラオメガ令息に転生したら腹黒ドS王子に激重感情を向けられています

松原硝子
BL
小学校の給食調理員として働くアラサーの独身男、吉田有司。考案したメニューはどんな子どもの好き嫌いもなくしてしまうと評判の敏腕調理員だった。そんな彼の趣味は18禁BLのゲーム実況をすること。だがある日ユーツーブのチャンネルが垢バンされてしまい、泥酔した挙げ句に歩道橋から落下してしまう。 目が覚めた有司は死ぬ前に最後にクリアしたオメガバースの18禁BLゲーム『アルティメットラバー』の世界だという事に気がつく。 しかも、有司はゲームきっての悪役、攻略対象では一番人気の美形アルファ、ジェラルド王子の婚約者であるメンヘラオメガのユージン・ジェニングスに転生していた。 気に入らないことがあると自殺未遂を繰り返す彼は、ジェラルドにも嫌われている上に、ゲームのラストで主人公に壮絶な嫌がらせをしていたことがばれ、婚約破棄された上に島流しにされてしまうのだ。 だが転生時の年齢は14歳。断罪されるのは23歳のはず。せっかく大富豪の次男に転生したのに、断罪されるなんて絶対に嫌だ! 今度こそ好きに生ききりたい! 用意周到に婚約破棄の準備を進めるユージン。ジェラルド王子も婚約破棄に乗り気で、二人は着々と来るべき日に向けて準備を進めているはずだった。 だが、ジェラルド王子は突然、婚約破棄はしないでこのまま結婚すると言い出す。 王弟の息子であるウォルターや義弟のエドワードを巻き込んで、ユージンの人生を賭けた運命のとの戦いが始まる――!? 腹黒、執着強め美形王子(銀髪25歳)×前世は敏腕給食調理員だった恋愛至上主義のメンヘラ悪役令息(金髪23歳)のBL(の予定)です。

冬月シバの一夜の過ち

麻木香豆
BL
 離婚して宿なし職なしの元刑事だった冬月シバ。警察学校を主席で卒業、刑事時代は剣道も国内の警察署で日本一。事件解決も独自のルートで解決に導くことも多く、優秀ではあったがなかなか問題ありな破天荒な男。  この男がなぜ冒頭のように宿無し職無しになったのも説明するまでもないだろう。  かつての女癖が仇になり結婚しても子供が産まれても変わらず女遊びをしまくり。それを妻は知ってて泳がせていたが3人目の娘が生まれたあと、流石に度が超えてしまったらし捨てられたのだ。  でもそんな男、シバにはひっきりなしに女性たちが現れて彼の魅力に落ちて深い関係になるのである。とても不思議なことに。  だがこの時ばかりは過去の女性たちからは流石に愛想をつかれ誰にも相手にされず、最後は泣きついて元上司に仕事をもらうがなぜかことごとく続かない。トラブルばかりが起こり厄年並みについていない。 そんな時に元警察一の剣道の腕前を持つシバに対して、とある高校の剣道部の顧問になってを2年以内に優勝に導かせるという依頼が来たのであった。しかしもう一つ条件がたったのだ。もしできないのならその剣道部は廃部になるとのこと。  2年だなんて楽勝だ! と。そしてさらに昼はその学校の用務員の仕事をし、寝泊まりできる社員寮もあるとのこと。宿あり職ありということで飛びつくシバ。  もちろん好きな剣道もできるからと、意気揚々。    しかし今まで互角の相手と戦っていたプライド高い男シバは指導も未経験、高校生の格下相手に指導することが納得がいかない。  そんな中、その高校の剣道部の顧問の湊音という男と出会う。しかし湊音はシバにとってはかなりの難しい気質で扱いや接し方に困り果てるが出会ってすぐの夜に歓迎会をしたときにベロベロに酔った湊音と関係を持ってしまった。  この一夜の過ちをきっかけに次第に互いの過去や性格を知っていき惹かれあっていく。  高校の理事長でもあるジュリの魅力にも取り憑かれながらも  それと同時に元剣道部の顧問のひき逃げ事件の真相、そして剣道部は存続の危機から抜け出せるのか?!

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

花を愛でる獅子【本編完結】

千環
BL
父子家庭で少し貧しい暮らしだけれど普通の大学生だった花月(かづき)。唯一の肉親である父親が事故で亡くなってすぐ、多額の借金があると借金取りに詰め寄られる。 そこに突然知らない男がやってきて、借金を肩代わりすると言って連れて行かれ、一緒に暮らすことになる。 ※本編完結いたしました。 今は番外編を更新しております。 結城×花月だけでなく、鳴海×真守、山下×風見の番外編もあります。 楽しんでいただければ幸いです。

【完結・R18BL】転生したらドワーフでした

明和里苳
BL
ある日、前世の記憶を取り戻したコンラートは、今世もモテそうにない貧弱ドワーフであることに絶望する。しかし嘆いていても仕方ない。せっかくだから、なけなしの知識チートで無双でもするかな。と思っていた時代が、俺にもありました。なぜクズ野郎にばかりモテるのか。解せぬ。 ■クズ×合法ショタ ■コンラート(18)ドワーフ細工師、貧弱合法ショタ ■ディルク(24)人間族戦斧使い、ガチムチ残念イケメン ■フロル(?)小人族斥候、美ショタ ■アールト(約350)エルフ族レンジャー、腹黒麗人 ■アイヴァン(17)人間族王太子、ボンクライケメン ■バルドゥル(26)人間族神官、一見善人 (ここではネタバレは記載しておりません) ■主人公総受け。攻めは全員クズです。モラルはありません。生温かい目でお楽しみください。 ■R18シーンを含む話には※印を付けてあります。結構な割合で付いてますのでご注意ください。 ■他サイトにも掲載しています。 ■表紙絵はトリュフ先生(X: @trufflechocolat)に描いていただきました。ありがとうございます!

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

処理中です...