Shadow★Man~変態イケメン御曹司に溺愛(ストーカー)されました～

恋の片道切符

離れた理由

「おや、何か言いたげな顔ですね」


フッ、とニヒルな笑みを私に寄越してきた彼は、その名も高い藤堂家のお騒がせお坊っちゃま。

あの雪の中、私を見付けて助け出してくれたのはこの男、藤堂千鶴なのだ。

コイツが姿を消してからと言うものの、自分は嘘みたく女々しくなって、あんなに心を掻き乱していたというのに。

実際こうして目の前に現れれば何のことは無く、以前と全く変わらないなんて。


そんなのってあんまりだ。

まるで私の独り相撲じゃないか。

土俵に立っていたのは、私独りだったって言うの？
泣きまくって大損したわよ。

私の涙を返せ。

10年分返せ。


「……そりゃ、メロンを切らずに……丸ごと皮剥きしてれば文句のひとつも言ッ……ゲホッ、う～っ」


ああ、喋るだけでも肺が痛い。


「澪！大丈夫ですか!?
じ、人口呼吸！！」


「……余計悪化する」


色んな意味でな。


「澪に逢う為に、遥々アメリカから帰国して来たんですよ？
悪化などするはずが……ああ、嬉しすぎて興奮したのですね。
幾夜も流した貴女の涙は、全て僕が飲み干しましょう」


「カッコ付けてるとこ悪いんだけど、メロンの汁で手がベットベトだよ？」


しかもそれと同じ台詞を、昨夜から少なくとも50回は聞いた。

コイツ曰く、アメリカの大手企業と長い間進めてきた事業が、この度ようやく契約に至るとのことで。

断腸の想いで日本を離れ、遠い地で泣き暮らす私を想像しては胸を痛めてたんだと。
分かってるじゃない。

つまり、私にはちんぷんかんぷんな話なんだけど、コイツは私と全く違う土俵でビジネスの勝負してたってワケ。

……だけど解せない。

胸を痛めたんなら、何故あの日私に何も告げずに渡米したの？

しかもその後ぱったり音信不通よ？
そして最後にとったあの申し訳無さそうな反応は何？

その辺の説明をはぐらかされたまま、入院生活２日目に突入よ。