352 / 399
少女の恋③
口ずさむ曲を聞きながら
しおりを挟む「お前もこんな風にしてやるよ。
そしたらあの男は何を思うだろうか。ああー痛い、くそっ……傷が……痛いんだよ……ああ、もう楽しみで仕方ない。あの男の打ちのめされた顔、きっとこの傷痕より醜いに違いないそうだそうに違いないお前らが母を殺したのと同じ位そうに違いない」
泣き叫ぶ力すら残っていないのか、澪は喪失し切った顔で少年を見つめた。
涙の痕が乾いている。
少年に送る眼差しすらも。
「何だその目は何だそれは」
ガリガリ。
地面の石に押し付けられた刃がこぼれていく。
「誤解してるよ、お兄ちゃん。
私はおばさんを殺してないよ」
「何を言う。お前が殺したんだ。
お前が変な事を吹き込んだから、母は生きる目標を失った」
「違うよ。おばさんは、最初からお兄ちゃんを嫌ってなかったもの」
「……お前に何が分かる。
あの人は毎晩のように泣き、幼い僕に言い聞かせたんだ。
無惨な傷を負わせられた可哀想な僕を抱き締めて言ったんだ。
私が殺してあげると。
お前に似たその目で言い続けた。
その目で」
透明な滴が赤黒い肌を滑った。
その時澪は、皐月が見せてくれた家族写真を脳裏に浮かべた。
「その目で、言った。
その声で、僕を呼んで、くれたのに……っ」
涙の粒が、土を点々と染めていく。
「ど、して……あいつが君を、どうして何もかも僕より先に……手に入れる……妹だって僕より先にあいつに懐いた……それなのに僕のペットを殺したり僕の使用人を奪ったり僕の顔面を汚したり……
何でも手に入れる癖に」
――ガッ!
「いっ……!」
少年は——火傷の少年は、澪の頭部をジャングルジムに殴り付け、そして小さな背中にゆっくりとナイフの刃を立てた。
「さような、ら、」
ブツ、ブチブチ……
衣服と共に皮膚が裂かれる音を鮮明に聞きながら、澪の意識は飛んでいった。
背中に激痛が走る間も無く、遠い空へ昇っていく気がした。
最後に瞳の奥に映し出されたのは、涙に濡れた少年の綺麗な顔だった。
そして。
最後に耳に残ったのは、火傷の少年が口ずさんだ曲だった。
さざ波を想い歌うその声は、火傷のように脳裏に焼き付いた。
『愛するあの人はもういない
立ち尽くした僕』
0
お気に入りに追加
269
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる