Shadow★Man~変態イケメン御曹司に溺愛(ストーカー)されました～

少女の恋②

恋人

その拳骨を落とした人物は、遥か前方を歩いていたはずの少年だった。切れ長の美しい眼には、僅かに殺意が浮かんでいる。


「ひいいぃ！！そ、そんな、何でも無いッスよ！
誰も、そんな、先輩が、ロリコンだなんて！！」


「全く、君は暇を持て余した年配の主婦ですか。
こんな餓鬼の話を聞いて、よくそこまで盛り上がれるものです」


「またガキって言った！お兄ちゃんなんてカラス！」


「これだから餓鬼は……この男に何を吹き込んだんです？」


至極面倒そうに少年は澪に尋ねる。
しかしその朴念仁の顔は、その後見事に崩されることになった。


「ああ、あのね。お兄ちゃんと私が恋人だって言ったの」


「……こ」


「ああ、先輩。何でオレに相談も無く、そんなアブノーマルな道へ……バレたらどうするんスか、お父様には何と説明するんスか」


「ふざけるな。
誰がいつ、そんなことを言いました」


「ひいっ！
い、いや、確かにこの子が……っ」


「この糞餓鬼は、僕の迷惑も考えずノコノコと着いてくるだけの人間です。
君も、勝手にそのようなことを言いふらして何が楽しいんですか」


ギッと睨まれた澪は、たじろぎもせずに言い返した。


「違うの！お兄ちゃんが好きなの！」


総大は澪の大それた告白に赤面し、黙りこくった。


「は、そうですか。
それは奇特なことですね」


「馬鹿にしないで！
お兄ちゃんだって、あの日泣きながら私にっ、もが」


澪の口は突然、少年の手に塞がれてしまった。

ジタバタと身動きするも、自分よりずっと年上の少年の力に敵うはずもない。
片手ひとつに自由を奪われてしまったが、心なしか澪の頬は紅潮していた。

ひたすらクエスチョンマークを頭に浮かべる総大に、少年は抑揚の無い口調で告げる。


「それでは」


「え、あ！さようなら！先輩、お気を付けて！」


様々な疑問を一方的に押し付けられた総大はただ独り、歩道の真ん中で座り込む。

頭のてっぺんに残った強烈な痛みを、手で労るように押さえながら。