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恋の忘れ形見②
一緒に遊ぼう
しおりを挟む葵くんがくれた青い袋を握りながら、私はこの後の行動に頭を悩ませた。
葵くんは下を向いたまま立ち去ろうともせず、ただ何かを言いたそうに瞬きをしている。
玄関に注がれた陽の光が褐色の髪をなぞるように照らし、長いまつ毛が頬に影を作っていた。
私はそれを見て綺麗だと思った。
「‥‥この前は、悪かったよ。」
短い沈黙を破ったのは、謝罪の言葉だった。
葵くんは続けて言葉を紡ごうと、一生懸命に思案している。
そんな彼にかける言葉が見当たらず、情けなくもただ黙って聞く術しか見付からなかった。
「俺さ、あんなに優しくしてもらったのとか初めてだったし‥‥。
‥‥カッとなりやすいし。」
「そ、そんなことないよ?
こっちこそ嫌な思いさせてゴメンッ。」
私は自分で何を言ったのか理解できないまま、何故か必死になって頭を下げた。
すると葵くんの白い手が私の腕を掴んできて、それを止めさせた。
その手に促されて頭を上げると、葵くんのうっすらと柔らかい表情があった。
「‥‥いや、俺‥‥大人気なかったよ。ゴメンね‥‥?」
いやいや、大人気なかったのは中学生のアナタではなく、あのいい歳こいたであろう変態なんだけどね。
苦笑いを浮かべながらそう思うと、葵くんの手を取って言った。
とりあえず明るく振る舞おう。
「今日はちゃんと鍵持ってるの?」
「うん。」
そう言った葵くんは、不器用な笑みを浮かべている。
陽がキラキラと後頭部から差していて、天使みたいだ。
何だ‥‥そんな風な顔も出来るんじゃない。
「でも‥‥お邪魔してやらないこともないよ。」
「はいはい。素直に『一緒に遊ぼう』とか言いなよ。」
からかうように私がそう言うと、葵くんは無邪気に言い返してきた。
「‥‥一緒に遊ぼう‥‥?」
可愛いなぁ~。
だけどそう口にしたら怒るだろうから、心で密かに思うだけに止めたのだった。
「はーい、よく言えました。
じゃ、どうぞお入り下さい?
何もお構い出来ませんけど。」
そうして再び葵くんを家に招き入れることになったのだ。
リビングに入ると葵くんは適当に座り、私は凪の紅茶とお菓子を勝手に出すと、その向かいに腰かけた。
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