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19.お話をしましょう
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「いい天気ですねー。」
王宮内の庭園をサフィールに連れられてふらふらと歩く。
いやー、ほんといい天気。
「…体調は、いかがですか?」
「あー、ご迷惑をお掛けしてしまいすみません。もう問題ないと思います。明日とかには練習再開してもらっても良いんですけど、なんかスケジュール一旦白紙になったって聞いてて…」
いやもうほんと申し訳ない。つい下を向いてしまう。
「体調に問題がないのであればよかった。座学は何か学びたい事があれば始めて貰ってもいいと思いますよ。でも、魔術の実技はもう少しお休みです。」
あーダメかー。正直、色々考えるのが嫌になって何を学びたい、とかあまりない。
体動かしてる方がまだマシだったんだけど。
あと魔術使えたら、身を守れそうだし。
この先を決めることから逃げてるから、動きが決まらない。
迷惑かけてるのも分かってるんだよなー。
いつまでも逃げてても仕方ない、か。
まずは身の振り方を決めて、どんな知識が必要か考えて、スケジュール組んでもらって…
「と、言うことで。しばらく魔術の授業がお休みになったので、今日は進路相談にのろうかと思いまして。」
「進路相談?」
学生時代ぶりの言葉に思わず瞬きを繰り返す。
「久しぶりの才能ある優秀な弟子なので、ここはひとつ気合いを入れて育てていこうかと。私の怠慢で苦しい思いをさせてしまいましたね。本当に申し訳ない。ここから先教育方針を見誤る事はありませんから、安心して」
少し座りましょうか、と庭園内のベンチへとエスコートされる。
「さて。まずは現状確認からですね。何かやりたい事はありますか?もしくは、嫌な事、とか。」
ふるふると首を横にふる。
「では、王宮は過ごしやすいですか?」
言葉の意図を掴みきれず思わずサフィール様の顔を見る。
「思っている事を仰っていただいて大丈夫ですよ。誰にも言いませんので私とミヤシロ様だけの秘密です。」
サフィール様の綺麗な深い海のような色の瞳が優しく細められる。
大丈夫だ、みんな良くしてくれている、と答えようと思ったのに、口をついて出たのは違う言葉だった。
「…少し、疲れました。腫れ物に触るような空気感も、人との距離感も…自分の異物感を感じ続けることにも」
うっかり漏れ出た本音を、仕方がない事なんですけどねと苦く笑いながら呟く事で誤魔化す。
「もっと早く、話をすべきでしたね。仕方がない、なんて事はないんです。貴方は物分りが良すぎる。」
「奏ちゃんが頑張っていることは聞いてます。未成年があんなに頑張っているのに、何も出来ない私がそんなわがまま言えるわけないし」
「周りが見えるって言うのはそれはそれで辛いですね。でもね、今あなたが1人で苦しむのはおかしいですし、その状況に追い込んでいるのに何もしない私たちに貴方は怒って良いんです。」
何もしていない、なんて事はない。
ペルルは毎日私の様子を気にしてくれるし、侍女だからと最初は断られたが最近ではお茶や食事を一緒にしてくれるようになった。
クラージュ様が来てくれる日は庭園など少し行動範囲を広く取らせて貰える。だからだろう、忙しいだろうに彼はこまめに時間を作っては護衛に来てくれる。
最近はほとんどサージュ様にはお会いしていないが、手厚い保護を受けている私に怒っている第二王子の動きを抑えてくれているのは宰相補佐である彼らしい。
目の前にいる彼だって、魔術師団長なのだ。忙しい中で魔術の授業の対応をしてくれていた。
「ちゃんと動いて頂いてることは分かっているんです。だから、私が怒る相手は第二王子だけだし、でも現状元の世界には戻れないって言われたらどうしようもないので、腹立つから二度とあの人とは会いたくないってくらいですかね。」
「うーん。そうですね。そうするとここの滞在はやめちゃいましょう。いつあの人に会うか分かりませんし。」
「は?」
「同じ建物内にあの人の部屋があるの、嫌でしょう?今は謹慎中なので出てきませんがそのうち出てくると思うと…良くないな。そうすると提案できるのは安全性の確保的にも、騎士塔か魔術師塔か、教会か。」
どこがいいかなぁとぶつぶつ呟くサフィール様に唖然とする。
「おすすめは魔術師塔ですが、一旦全部見に行ってみますか!」
あ、薬師塔とか技術者塔って手もありますね!と明るく言って立ち上がる彼に驚きっぱなしである。
「仲間を増やしましょう。貴方が息をつける場所を増やしましょう。それでも貴方がどうしてもぜーんぶ嫌になっちゃったら私と一緒に旅に出ましょうか。可愛い弟子と新しい魔術を探すっていうのもなかなかいいかなぁなんて思うんですよね。多分、ペルルも行くって言うと思うので生活の質は変わらないでしょうし。」
さ、行きますよ。と差し出した手のひらに思わず手を伸ばした。
引っ張られる勢いのまま、立ち上がる。
「まずは過ごしやすい場所、見つけましょうね。」
何となく楽しそうな雰囲気の笑顔に、思わず頷いた。
王宮内の庭園をサフィールに連れられてふらふらと歩く。
いやー、ほんといい天気。
「…体調は、いかがですか?」
「あー、ご迷惑をお掛けしてしまいすみません。もう問題ないと思います。明日とかには練習再開してもらっても良いんですけど、なんかスケジュール一旦白紙になったって聞いてて…」
いやもうほんと申し訳ない。つい下を向いてしまう。
「体調に問題がないのであればよかった。座学は何か学びたい事があれば始めて貰ってもいいと思いますよ。でも、魔術の実技はもう少しお休みです。」
あーダメかー。正直、色々考えるのが嫌になって何を学びたい、とかあまりない。
体動かしてる方がまだマシだったんだけど。
あと魔術使えたら、身を守れそうだし。
この先を決めることから逃げてるから、動きが決まらない。
迷惑かけてるのも分かってるんだよなー。
いつまでも逃げてても仕方ない、か。
まずは身の振り方を決めて、どんな知識が必要か考えて、スケジュール組んでもらって…
「と、言うことで。しばらく魔術の授業がお休みになったので、今日は進路相談にのろうかと思いまして。」
「進路相談?」
学生時代ぶりの言葉に思わず瞬きを繰り返す。
「久しぶりの才能ある優秀な弟子なので、ここはひとつ気合いを入れて育てていこうかと。私の怠慢で苦しい思いをさせてしまいましたね。本当に申し訳ない。ここから先教育方針を見誤る事はありませんから、安心して」
少し座りましょうか、と庭園内のベンチへとエスコートされる。
「さて。まずは現状確認からですね。何かやりたい事はありますか?もしくは、嫌な事、とか。」
ふるふると首を横にふる。
「では、王宮は過ごしやすいですか?」
言葉の意図を掴みきれず思わずサフィール様の顔を見る。
「思っている事を仰っていただいて大丈夫ですよ。誰にも言いませんので私とミヤシロ様だけの秘密です。」
サフィール様の綺麗な深い海のような色の瞳が優しく細められる。
大丈夫だ、みんな良くしてくれている、と答えようと思ったのに、口をついて出たのは違う言葉だった。
「…少し、疲れました。腫れ物に触るような空気感も、人との距離感も…自分の異物感を感じ続けることにも」
うっかり漏れ出た本音を、仕方がない事なんですけどねと苦く笑いながら呟く事で誤魔化す。
「もっと早く、話をすべきでしたね。仕方がない、なんて事はないんです。貴方は物分りが良すぎる。」
「奏ちゃんが頑張っていることは聞いてます。未成年があんなに頑張っているのに、何も出来ない私がそんなわがまま言えるわけないし」
「周りが見えるって言うのはそれはそれで辛いですね。でもね、今あなたが1人で苦しむのはおかしいですし、その状況に追い込んでいるのに何もしない私たちに貴方は怒って良いんです。」
何もしていない、なんて事はない。
ペルルは毎日私の様子を気にしてくれるし、侍女だからと最初は断られたが最近ではお茶や食事を一緒にしてくれるようになった。
クラージュ様が来てくれる日は庭園など少し行動範囲を広く取らせて貰える。だからだろう、忙しいだろうに彼はこまめに時間を作っては護衛に来てくれる。
最近はほとんどサージュ様にはお会いしていないが、手厚い保護を受けている私に怒っている第二王子の動きを抑えてくれているのは宰相補佐である彼らしい。
目の前にいる彼だって、魔術師団長なのだ。忙しい中で魔術の授業の対応をしてくれていた。
「ちゃんと動いて頂いてることは分かっているんです。だから、私が怒る相手は第二王子だけだし、でも現状元の世界には戻れないって言われたらどうしようもないので、腹立つから二度とあの人とは会いたくないってくらいですかね。」
「うーん。そうですね。そうするとここの滞在はやめちゃいましょう。いつあの人に会うか分かりませんし。」
「は?」
「同じ建物内にあの人の部屋があるの、嫌でしょう?今は謹慎中なので出てきませんがそのうち出てくると思うと…良くないな。そうすると提案できるのは安全性の確保的にも、騎士塔か魔術師塔か、教会か。」
どこがいいかなぁとぶつぶつ呟くサフィール様に唖然とする。
「おすすめは魔術師塔ですが、一旦全部見に行ってみますか!」
あ、薬師塔とか技術者塔って手もありますね!と明るく言って立ち上がる彼に驚きっぱなしである。
「仲間を増やしましょう。貴方が息をつける場所を増やしましょう。それでも貴方がどうしてもぜーんぶ嫌になっちゃったら私と一緒に旅に出ましょうか。可愛い弟子と新しい魔術を探すっていうのもなかなかいいかなぁなんて思うんですよね。多分、ペルルも行くって言うと思うので生活の質は変わらないでしょうし。」
さ、行きますよ。と差し出した手のひらに思わず手を伸ばした。
引っ張られる勢いのまま、立ち上がる。
「まずは過ごしやすい場所、見つけましょうね。」
何となく楽しそうな雰囲気の笑顔に、思わず頷いた。
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