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最終話
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カイルの背に隠された私を覗き込むようにして体をずらしてきたガーランドの視線が突き刺さる。
生まれ落ちた性格の根本は変わる訳もなく。
向けられた悪意ある視線に、負けそうになる。
優しい世界だったんだ。一人で立てている訳じゃなかった。
目が笑っている。守られるだけの情けない私を笑っている。
情けない自分が嫌なのか、それをカイルに知られるのが怖いのか。思考が固まり、ガーランドの発する言葉が右から左へと流れていく。
「結局そうやって怯えるしか能のない女だ。自分では何も出来ないくせに、偉そうに。その女は君を踏み台にして図々しくも宰相補佐の座に収まろうとしているんだよ。その女に守る価値なんてないんだ、君の力があれば騎士団でもすぐに成果が出せるだろう。良ければ私が口聞きしてあげよう。その女を殺し、契約紋の所有者を私に書き換えて、在るべき形に戻そうじゃないか。君は道具じゃないんだ、そんな女守る必要などないんだよ。」
突き刺すような視線に体をより縮こまらせる。
もういつものように無表情で流すことなんて出来なくなっていた。
と、再度ガーランドの視線を遮るように大きな背中が割り込んできた。
ついでとばかりに手を引かれ背中に抱きつくような距離になる。
私の視界は彼の背中だけ。
「はっ!馬鹿馬鹿しい。こいつは別に俺の事を道具なんざ思ってねぇよ。所有者云々にこだわってるお前の方が余程道具と思ってるんじゃないか?
こいつには才能がある。環境さえ整えば幾らでも輝けるんだ。人を道具と思ってるお前じゃ一生分からないだろうけどな!
…それに、こいつは俺の主なんだから俺のものだ、俺のものを俺が守って何が悪い。
守る必要があるかないかとかそんな話じゃねーんだよ、俺のものに手を出されるのは腹が立つ」
カチャと剣が構えられる音がする。
「交渉決裂か。残念だよ。」
魔力が魔法発動に向けて揺れ動くのを感じる。
ガーランドは魔法が強かったっけとか、魔法発動のキャンセルってどうするんだっけとか、私がくっついていたら動きにくいんじゃないかとか、そんなの考える暇もなく勝負は呆気なくついていて。
「なんだよ、口程にもねぇ。」
カイルはぶつくさと言いながら気絶したガーランドを縛り上げていた。
魔法を発動させる暇も与えなかったのか。
私の命を脅かしていたあの男は一瞬で沈められた。
カイルが私を殺そうとしたら、1秒も要らないのかしら。なんてくだらない事を考える。
騎士団にいたらあっという間に団長レベルかしらね。
なぜ、こんなに強い彼が護衛をするって言い出したのか分からなかったが…
「…下僕だろうと主だろうと関係なく、結局私はあなたのものである事に変わりはないってことなのね。」
「あぁ。そうだな。不満か?」
「いえ。守ってくれてありがとう。今も、昔も。あなたのもので良かったと思ってるわ。」
「…おう。」
目も合わせない彼の耳が少しだけ赤いのを見て、
なんだか自分の頬にも熱が集まってきているように感じた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
それから2年後、新国王の誕生と共に初の女性宰相補佐が任に着いた。女性が初めて国の中枢業務の役職に着いたのだ。
カイルは騎士団に入団。最速で近衛騎士へと昇進。
地頭の良さと冒険者としての経験から王太子殿下の侍従としていつの間にやらあっさりと自らの立場を確立した。
王太子殿下は、側近達の協力のもと彼の代で奴隷制度は廃止する事に成功。奴隷解放が行われた。
国王となってからも精力的に活動し安定した国を維持。後に賢王と称される事となる。
更に魔術の進歩により、安全に契約紋を消すことができるようになった。しかし、一部ではこれを意図的に消さずに残している人もいる。
黒髪碧目の彼のもその1人で、彼の紋は消されることなく今もその胸元に刻まれているらしい。
「この紋は消さない。俺がお前のものであり、お前が俺のものである証だから」と言う言葉は
女性の社会進出物語と並ぶ売上トップの恋物語の台詞だが、その主人公がどちらも同じ女性を元にしている事を知っているのは果たしてどれくらい居るのだろうか。
~完~
生まれ落ちた性格の根本は変わる訳もなく。
向けられた悪意ある視線に、負けそうになる。
優しい世界だったんだ。一人で立てている訳じゃなかった。
目が笑っている。守られるだけの情けない私を笑っている。
情けない自分が嫌なのか、それをカイルに知られるのが怖いのか。思考が固まり、ガーランドの発する言葉が右から左へと流れていく。
「結局そうやって怯えるしか能のない女だ。自分では何も出来ないくせに、偉そうに。その女は君を踏み台にして図々しくも宰相補佐の座に収まろうとしているんだよ。その女に守る価値なんてないんだ、君の力があれば騎士団でもすぐに成果が出せるだろう。良ければ私が口聞きしてあげよう。その女を殺し、契約紋の所有者を私に書き換えて、在るべき形に戻そうじゃないか。君は道具じゃないんだ、そんな女守る必要などないんだよ。」
突き刺すような視線に体をより縮こまらせる。
もういつものように無表情で流すことなんて出来なくなっていた。
と、再度ガーランドの視線を遮るように大きな背中が割り込んできた。
ついでとばかりに手を引かれ背中に抱きつくような距離になる。
私の視界は彼の背中だけ。
「はっ!馬鹿馬鹿しい。こいつは別に俺の事を道具なんざ思ってねぇよ。所有者云々にこだわってるお前の方が余程道具と思ってるんじゃないか?
こいつには才能がある。環境さえ整えば幾らでも輝けるんだ。人を道具と思ってるお前じゃ一生分からないだろうけどな!
…それに、こいつは俺の主なんだから俺のものだ、俺のものを俺が守って何が悪い。
守る必要があるかないかとかそんな話じゃねーんだよ、俺のものに手を出されるのは腹が立つ」
カチャと剣が構えられる音がする。
「交渉決裂か。残念だよ。」
魔力が魔法発動に向けて揺れ動くのを感じる。
ガーランドは魔法が強かったっけとか、魔法発動のキャンセルってどうするんだっけとか、私がくっついていたら動きにくいんじゃないかとか、そんなの考える暇もなく勝負は呆気なくついていて。
「なんだよ、口程にもねぇ。」
カイルはぶつくさと言いながら気絶したガーランドを縛り上げていた。
魔法を発動させる暇も与えなかったのか。
私の命を脅かしていたあの男は一瞬で沈められた。
カイルが私を殺そうとしたら、1秒も要らないのかしら。なんてくだらない事を考える。
騎士団にいたらあっという間に団長レベルかしらね。
なぜ、こんなに強い彼が護衛をするって言い出したのか分からなかったが…
「…下僕だろうと主だろうと関係なく、結局私はあなたのものである事に変わりはないってことなのね。」
「あぁ。そうだな。不満か?」
「いえ。守ってくれてありがとう。今も、昔も。あなたのもので良かったと思ってるわ。」
「…おう。」
目も合わせない彼の耳が少しだけ赤いのを見て、
なんだか自分の頬にも熱が集まってきているように感じた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
それから2年後、新国王の誕生と共に初の女性宰相補佐が任に着いた。女性が初めて国の中枢業務の役職に着いたのだ。
カイルは騎士団に入団。最速で近衛騎士へと昇進。
地頭の良さと冒険者としての経験から王太子殿下の侍従としていつの間にやらあっさりと自らの立場を確立した。
王太子殿下は、側近達の協力のもと彼の代で奴隷制度は廃止する事に成功。奴隷解放が行われた。
国王となってからも精力的に活動し安定した国を維持。後に賢王と称される事となる。
更に魔術の進歩により、安全に契約紋を消すことができるようになった。しかし、一部ではこれを意図的に消さずに残している人もいる。
黒髪碧目の彼のもその1人で、彼の紋は消されることなく今もその胸元に刻まれているらしい。
「この紋は消さない。俺がお前のものであり、お前が俺のものである証だから」と言う言葉は
女性の社会進出物語と並ぶ売上トップの恋物語の台詞だが、その主人公がどちらも同じ女性を元にしている事を知っているのは果たしてどれくらい居るのだろうか。
~完~
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