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第193話 実験材料

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 あの黒い石に関する調査を本格的にするのは、リラ嬢が滞在できる時に実施している。それに、ルビアナ国へも研究員を派遣して調査を開始していた。

 まだ仮定の段階だが、いくつかの仮説は出ている。

 レオンは見る目のある男らしく、王宮だけでなく他国も欲しがるような女性を手に入れた。あれだけ女性を苦手だといっていたというのに、今ではでれでれである。

「例のいるだけで空気清浄作用のおかげで商売繁盛無病息災機能は、魔力だまりを掃除しているからだ……と」

 説明をした結果、リラ嬢が彼女なりに解釈した言葉に言い換えた。

 リラ嬢が掃除で使った水はまだ残っている。試しにそれを灰色になってきた例の石に垂らすと、色が薄くなり、使った水の量が増えた。その後実験に使った水を保管したが、増えた水は蒸発してしまった。

 リラの魔力自体に、どうにも可笑しな作用があるのか、そちらの解明もしなくてはならないが、レオンが一緒に来れる日しかリラ嬢は研究所には来ないので研究が遅れる。

 まあ、八割方私が悪いのだが。

「簡単に言えばそんな感じだね。場所が場所なら、それこそ聖女として扱われていただろうね」

 直接は話せていないが、ルビアナ宝国に派遣した研究員からの報告では、ルビアナの王族は代々淀みというものを見るらしい。この黒い石の周辺にも黒い霞がかかるそうだ。それが見えるという王の血筋は、今は二人しかいないらしい。ジェイド王以外、城の医官として働く老人が傍系としてその血を継いでいるとのことだ。

 ジェイド王の腹違いの兄と継母の症状から見るに、あの石を使って魔法を増幅させていたのではないかと仮説を立てている。王になろうと思えばある程度の魔法が使えなければ威厳に欠ける。魔力量が低い事を隠すために常用した結果、亡くなったのではないかと。

 ジェイド王曰く、黒い石以外にも淀みとやらは至る所にあるらしい。

 普通ならば近親での結婚を繰り返したが故の精神疾患の一つと考える。それにその話を聞いてただの童話だと思っていた話を思い出した。

「この国の建国神話はリラ嬢も知っているね」

「国全土を黒い沼に沈めようとしたのを、聖女様がばーんと救われたと聞いています」

 物凄くまとめられた。

「沼というのは、地震や噴火の可能性も考えられていたけど、地層調査でそういう結果は得られていない。けれど、沼と書かれているのが黒い霞……濃霧のようなものだったら?」

「そもそもただの神話……王族や聖女様の威厳を誇示するための物でしょう」

 レオンが微妙な顔をした。

 この国において、聖女様は国の平穏を守る。そして、唯一番えるのが王族だ。だから、王族は聖女様が認めた唯一の血の一族として国の祭りごとを取り仕切る。

 公爵家がそうである理由は万が一のスペアとしてだ。

 公爵家だけ、妙な法律が適応されていることもある。その一つに、当主は絶対に直系に通じる男子であることと記載されている。

 理由は簡単だ。公爵家の初代当主は元をたどれば王族になるのだ。王に成れなかった男兄弟が与えられる爵位だ。ちなみに姫は貴族に嫁ぐ形になる。聖女様のための王族なので、これまで女王になった者はいない。

 シダーアトラス公爵家は前当主に息子がおらず、色々とあって今の当主になった。本人も公爵家を継げる血筋だと知らなかったような男だったが、他に直系との繋がりが正式に認められた者がいなかったのだ。

 シダーアトラス家を排するか、今の当主に継がせるかの二択になった。血筋の資格はあっても資質のないものが継いだ結果、公爵家とは呼べないくらい一時期は衰退していた。

 ソレイユ家は幸いにもビオラ様が嫁入りされていい方向に軌道修正がされた。

「はっ、もしかすればビオラ様もリラ嬢と同じことができるかもしれないな」

「デージー兄さん、話が飛躍してついて行けない」

 レオンに睨まれた。

「ビオラ様が来てから、ソレイユ公爵家は一層繁栄したから。もしかしたらリラ嬢のように何か清らかな力を持っているんじゃないかと思ってね。今回のことは機密としてビオラ様やラナンキュラス様にも伝えていなかったから。王族が許可してくれれば、実験してみよう」

「確かに……ビオラ母上の魔力量はかなり多い。セラフィナ様も魔力量は多いそうだから、それが一つの理由である可能性はあるか……」

「それなら、レオン様も可能では?」

 ビオラ様でも実験をしようと意見がまとまりかけた時、リラ嬢が不思議そうに言う。

「……確かにぃ」

「リラ、俺の魔法は炎なので、何かあった時、研究棟が消し飛ぶ可能性があります」

「いや、使う場合は魔力増幅だけど、とりあえず触ったり、火であぶってみよう」

 善は急げだと準備を始める。

 手近にいい実験材料がいたではないか。
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