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第142話 兵器としての魔法

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「お兄様!」

 ミモザが駆け寄ってくる。

 無事にアクアリオスが指揮する軍と合流ができた。ここで疑心暗鬼を起こし、戦いになる可能性を最も恐れていたことだが、セラフィナがいたことと俺がいた事がいい方に作用した。

 セラフィナは有力貴族の娘であっただけに社交にも積極的に参加していたので、軍を任されていた男とも面識があった。俺は妹とは兄弟とわかる風貌だ。

 ルビアナ国の軍部の男は、道中セラフィナとの話し合いの結果、反マービュリア国の感情を随分と緩和させているようで、問題なく話が進んだ。

「レオン殿。まさかこのような話になるとは」

 アクアリオスが出迎えると、ルビアナ国の者とセラフィナを紹介する。

「一方的な婚約破棄の噂は耳にしておりましたが、まさかこのような形で戻られるとは」

「お父様もきっとあっけにとられると思いますわ。先日まで敵国としていた国を味方につけて舞い戻ったのですから」

 挨拶もほどほどに、戦況の話し合いを行う。

 あくまでも、ソレイユ家としての支援は行うが、あまり大きくは動けない。距離的に、上空に上げなければブルームバレー国と連絡が取れないので、国としての見解が得られない。国として認められない戦争の介入はできないのだ。

 今わかっているのは、こちらに向かって兵が進行していること。ルビアナ国に向けて海軍が船を出して向かっていることだ。

「危険を承知で、レオン様には飛行船で海軍を撃っていただきたいのですが」

 セラフィナの申し出に、苦笑いが漏れる。

「あなたの魔法があれば、容易でしょう」

 できるかどうかで言えば、可能だ。だが、してもいいかは別になる。

「残念ながら、飛行船を利用した戦争行為は、あまりにも今後のソレイユ家の不利になります」

 飛行を許可し、定期便の提携などを結んでいる他国との関係が最悪なことになるだろう。

 海賊に襲われ、明らかな正当防衛とでは意味が違う。何よりも、海賊を相手にしても尚、俺は魔法を使わなかった。正確には使えなかったのだ。

 船を燃やすことは簡単だ。そして、それは虐殺行為に等しい。

 リラは、ザクロの機転で転覆はさせたが乗員を道連れに沈没はさせなかった。転覆は風魔法での防御の結果としている。リラの魔法とばれても、俺の魔法の様に直接殺すわけではない。

「……そうですね。無理を言いました」

「それは、ルビアナ国への侵攻を許すということですか」

 ルビアナ国の軍師が不快感を表した。関係性は最悪だったとはいえ、急に戦争を吹っかけられ、お家騒動への助力まですると言っている中では不当にも聞こえるか。

「侵略者を退けることに関しては、ジェイド様が指揮をとられるとのことでした」

「だが、多くの兵と貴族をこちらへ回してくださっている。上陸されれば、多くの死者が出るのだぞ」

 セラフィナは一部で支持されたとしても、所詮はマービュリア国の貴族とみなされる状況だ。

「足止めだけでよければ、わたくしがいたします。風魔法と連携すれば、上陸の阻止はできますから」

 そう申し出たのはリラだった。風魔法を条件に付けたのは、リラ単独だと思わせたくないからだろう。

「……そのようなことが?」

 胡散臭いと顔に書いているがリラは気にせず頷いた。

「何日もという訳にはいきませんけれど、数日であれば問題ないかと」

 そんなことをどうやってと反論しようとするのをアクアリオスが遮る。

「ありがたい申し出ですが、ブルームバレー国が正式に許可をしない限り、戦争への介入は……やはり許可できません」

 俺はミモザの血縁だが、リラはそうではないという判断と、俺が断ったことで、こちらの立場を認識してくれたのだろう。

「使えるものを使わないでどうするおつもりだ」

「ルビアナ国が私どもに手を貸すのは、それに見合った利益と理由があるからでしょう。レオン殿にとって妻は大事な兄弟。後援として手を貸すことは理解できますし心配もごもっともです。ですが、ブルームバレー国の公爵家を継ぐ方として、我々の諍いに安易に参加はしてはならぬ身なのです」

「きれいごとを言って、敗戦を期した方が問題ではありませんか」

 ルビアナ国の言い分も尤もだ。そして、アクアリオスの心配もありがたい。ミモザの逃げ場を残したいという意味もあるだろう。

「では、息子を飛行船に乗せてくださいませ、陸地を通過するのは危険ですから、海洋へ出て、少し遠回りをしてブルームバレーにお戻りください。それでしたら、ただ妹を案じただけだと言えますでしょう」

「ミモザ」

 アクアリオスが批判気味に声をかける。だが、戦地を離れる際に妹の子を預かっても不思議はない。無論、知られれば狙われる可能性はある。その火の粉を振り払うことは許されるだろう。

「のんびりと作戦会議をしている時間もないでしょう。ミモザ、乳母など子の面倒を見られる者を選び出立の準備を」

 これがブルームバレー国への侵略であれば、最前線で蹴散らす事は厭わない。だが、他国の争いに首を突っ込めば、国に火種を持ち込む事になる。

「我々は、直接戦争に介入はしませんが、海軍の船がルビアナ国に到着はしないでしょう」

 リラがその言葉に頷く。

「……信じてもよいのですね」

 軍師が口約束すら明確にしないこちらに目を細めた。


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