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第111話 頼まれた仕事 3
しおりを挟む王城に呼ばれた時から、祭壇が置かれたこの場所には、黒い靄がかかっていた。
城に呼ばれた事を母は喜んでいた。だが、すぐに気がふれたようになって、俺を殺そうとした。初めて手にかけたのは産みの母だった。
父親である王は、俺は精神に異常が出ないのを見て、自分の子だと認知した。
娼館よりはましな生活だが、精神的にはここにいる方が荒む。鉱山の管理に行けと命じられ、嬉々として出向いた。肉体労働をせざるを得なかったが、城で暮らすよりも余程楽しく暮らしていた。
そこで、この黒い石を見つけた。あの霞と同じものを纏うそれを、城に送る際中、積んだ馬車が横転し、多数の犠牲が出た。
そこからだ。人生が完全に狂いだしたのは……。
見つかる度に、俺があの魔石を運んだ。
見つかる場所の特定は簡単だ。誰かが事故を起こした場所でそれは見つかる。
そして、第一位王位継承者だった兄が死んだ。
後を追うように、王と王妃も死んだ。
貴族に祭り上げられ、王の勤めとは何か、右も左もわからない中、流行病が猛威を振るった。
淀み切った城の中、まともなものは平民と俺だけだ。
そんな地獄に、こうも簡単に光が戻ると誰が知っていたというのか。
直ぐに、淀みに侵されるだろうと使い捨てる予定だった女が、真っ黒だった祭壇から淀みを全て消し去った。
そこに佇むリラ・ライラックは、あまりにも神々しく見えた。
何を犠牲にしてでも、手に入れたいと思った。
「何を望む。望むものは何でも準備するぞ! 王妃になってくれるなら、他に男を作っても咎めん。どれだけ豪華な暮らしをしても許す」
この女がいれば、国が平和になる。確信がある。俺のための女だと。
「……ではブルームバレー国へ帰してください。王妃にはなりませんが」
「なぜだ!」
「むしろ、何故二つ返事で王妃になると思われたのですか?」
「誰もがその座を求めていた」
俺が王座に就くと、貴族は手のひらを返して娘との縁談を持ってきた。最も、一週間とここに留まれた女はいなかった。
いまは、魔力が極端に少ないものしかここにはいない。
今の城は平民で回っている。
「ちょっと考えれば、その座がどれだけ面倒くさいかわかるはずです。しかも何も知らない他国……罰ゲームにもほどがあります」
「はっ……確かに、そうだな」
俺も、王になど、ならずにいたかった。それに共感してくれる相手が欲しかった。
「石の掃除は、お約束ですから手伝いますが、そのふざけた申し出を続けられるようでしたら帰ります」
リラはあまりにも簡単な事のように言う。
「……わかった。一先ず、それは置いておく。あれだけの数を浄化して、体は大丈夫なのか?」
それにリラが首を傾げた。
「問題ないです。後、あれも綺麗にしていいですか?」
リラが祭壇を指さした。
「いや、魔石はこれで終わりだ……」
言うと、リラがそちらをじっと見た。
「では、気のせいです」
あの呪われた魔石を前にすれば、魔力が濁り普通の貴族は頭に支障が出る。だが、その影響が出ないものが一部にいる。そして、あの魔石に吸い寄せられるものがいると、婆は言っていた。
「……いや、それも頼む」
既に、黒い靄が消え去り、あまりにも綺麗になっている。だが、リラが何かを感じたというのならばと頼む。
言うと、リラが祭壇へ歩いていく。
「うわ、きったな」
令嬢らしからぬ言葉遣いでぼそりと呟くと、リラが祭壇に手をついた。
「………」
既に靄は消えていたと思っていた。だが、今まで見ていた視界はまるで偽物のように色合いが変わった。
「あとは、特に汚いところはないですし、もう帰ってもよろしいですか?」
「あ……ああ」
言うと、リラが踵を返して部屋を出て行った。
生まれてこの方、ここまでキラキラと輝いている景色を見たことがない。
誰かが、光魔法で照らしたのではないかと天井を見上げる。だが、光源は変わらない。なのに、曇り空が晴天に変わったようだ。
「……リラ・ライラック」
あの女がいれば、この国はよくなる。そう感心するとともに、疑問が浮かぶ。
あれは、何だと。
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