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9章:宣戦布告

23.ポルタ王子

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 その日、私は師匠と一緒にホワイティ王子の暮らす城へ来ていた。
 緊急の話があるから来て欲しいと要請があったのだ。

 私と師匠は、爺やさんに案内されて城の奥にある一室に通された。
 気のせいか爺やさんの表情が硬い。前に会った時はもっとニコニコしてたのに。何かあったんだろうか。

「やぁ、二人とも。急に呼び出してすまなかったね」

 ソファーに腰掛けていたホワイティ王子が、立ち上がる。
 そして同じく隣に座っていた、男性も立ち上がった。

「ジュリアス! お久しぶりです!」

 ホワイティ王子と同じ、銀色の髪に青い瞳。でも彼に比べるとずいぶん若い。
 それにあの愛らしいお顔とふわふわの銀髪はどこかで見た事があるような……

「ポルタ! 大きくなったなぁ……」

 あぁ、そうだポルタ王子だ! 三人の王子の末っ子で農業王国と呼ばれるくらいに農業で国を豊かにした才溢れる若き領主。
 故郷の式典で遠くから見た事があるから知ってたんだ。
 でもどうして、ここにポルタ王子が……?

「ジュリアスも相変わらずですね。そちらは弟子のメイさんですね。お噂は聞いていますよ」

「あ、はい。メイ・マリネールと申します!」

「僕はアトラスト王家の三兄弟の末弟、ポルタです。メイさんも今日は来てくださりありがとうございます」

 ポルタ王子はホワイティ王子によく似た穏やかな笑顔を見せた。やっぱり兄弟だなぁと実感する。

「しかし、急にホワイティのところに来るなんてどうしたんだ? 観光にでも来たのか?」

 師匠の質問に対して、ポルタ王子に代わってホワイティ王子が珍しく慌てた様子で答えた。

「ジュリィ、そんなのんきな話じゃないんだよ! 兄上が……アバンティ兄上が、謀反を起こしたんだ!」

「アバンティが⁉」

 アバンティってこの国の三人の王子の長男だっけ。この間、歴史の授業で子ども達に教えたばかりだ。
 たしか国営カジノがあって経済の発展がめざましい国を治めているって話だった気がする。

「兄上の通告によれば、三日後にはこの国は戦場になる。まずはホワイティ領から攻め込まれるそうだ」

「あのアバンティが……信じられないな。交渉の余地は無かったのか?」

 師匠の言葉に、ホワイティ王子は顔をしかめた。

「あるわけが無い。僕とポルタ、そしてポルタ領で隠居している父上と母上の身柄を差し出すこと。要するに全面降伏しろってさ」

「アバンティ兄上がそんなことを言うなんて僕も信じられません……僕どうしたら……」

 ポルタ王子の顔から笑顔が消え、青い瞳に涙が浮かぶ。
 そんな彼に師匠は優しく語りかけた。

「ポルタ、大丈夫だ。――俺がアバンティに会いに行ってくる。真意を確かめて、もし本気で攻め込むつもりなら止めてやるよ」

「ジュリアス……」

「ジュリィ。キミにはいつも大変な役回りばかり押し付けてすまない……」

 ホワイティ王子がその光景を見て、目を伏せた。

「なんだよ、いつものオマエらしくない。世界最強の魔法使いであるこの俺がついてるんだ。安心しろ」

 師匠がニヤリと笑うと王子達に笑顔が戻った。

「ふふ、そうだったね……頼むよ、ジュリアス・フェンサー」

「おう、任せろ」

 師匠が私に視線を向けた。

「メイはどうする?」

「師匠……私も連れて行ってください。平和なこの国が戦争になるなんて、絶対ダメです」

 私にできることがあるかどうかわからないけど、自分の国の危機を知って、おとなしく師匠の帰りを待つなんてできそうになかった。

「わかった。一緒に行こう」


 こうして私と師匠はアバンティ王子に会いに行くことにした。
 アバンティ領へは師匠の転送魔法で移動できるらしい。

「なるべく王宮に近くて、でも見つかりにくいところがいいよなぁ……上手く転送できるといいが」

 師匠は私の手をとって、少し考え込むような顔をしながら銀色の杖を振りかざし、転送の呪文を唱えた。

 魔力の渦が私達を包むと、風が髪を揺らしたのを感じる。
 そして、急に足元に何も無くなって落下する感覚がして、私はしりもちをついた。

 バシャン!

「つめたっ……! えっ、水⁉」

「うわっ! いてて……」

 私達は腰まで水に浸かっている。
 私と師匠が落っこちたのはどうやら、どこかの庭園の噴水らしい。
 目の前には綺麗に整備された芝生と真っ赤なの薔薇の花がある。

「師匠……」

 私は彼を横目でにらんだ。

「すまん、細かいところまで把握してなくて曖昧にしか転送できなかった」

 もう。本当、大丈夫かなぁ。

「――そこにいらっしゃるのはもしかして、ジュリアス様ですか?」

 声のした方に顔を向けると、そこには鎧をまとった若い女性が立っていた。
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