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4章:ホワイトさんとの出会い
14.不思議な人
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「メイちゃん、動かないで……」
「え、どうしたんですか?」
その瞬間、茂みからガサガサっという音と同時に、巨大な熊が勢いよく飛び出してきた。
彼はすばやく片手を熊に向かって突き出して、短縮された呪文を詠唱する。
「――天の鎖、ヘブンズチェイン!」
彼の手から金色に眩しく輝く魔法の鎖が真っ直ぐに何本も伸びて、瞬時に熊を捕縛した。
――ホワイトさん、魔法が使えるんだ。しかもこんなすごい魔法を一瞬で。
「この子は本来はもっと森の奥深い場所に生息しているはずなんだけどね。エサが無くてこんなところまで来てしまったのかもしれないなぁ」
そう言って捕縛されておとなしくなった熊の顔を覗き込む。
「そうなんですか。まさか熊がでるなんて思ってなかったから、びっくりしました……」
「そうだね、僕も驚いたよ――おや」
急に彼は周囲を見渡して独り言のように言った。
「メイちゃんを迎えにきたのか。しょうがない、僕は一人でこの子を森の奥に返してくるよ」
「えっ、ホワイトさん……?」
「今日はありがとう。それじゃ、また会おうね」
彼は軽く手を振って、私に背を向けペットを散歩させるかのように、光の鎖に繋がれた巨大な熊を連れて森の奥へと戻って行く。
夕日に照らされて彼の長い銀色の髪がオレンジに染まり、キラキラと輝いていた。
「ホワイトさん。――本当に不思議な人」
森の奥へ消えた彼を見送って、私は薬草がたくさん入ったカゴを片手に森の入り口に向かって進もうとした。
「おーい、メイ!」
マントを翻して向こうから慌てた様子で師匠が走ってくる。
「あれ、師匠? どうしてここに?」
「よかった、無事だったか。森に熊が出たってギルドで聞いて慌てて来たんだ」
彼の額には汗が浮かんでいる。相当、急いで来たんだろうな。
「確かに熊は出たんですけど、ホワイトさんが捕まえてくれたんです」
「ホワイト? ……あー。あいつな」
「師匠、ホワイトさんのこと知ってるんですか?」
「まぁな。ところでシェルはどうしたんだ?」
「シェルは風邪で寝込んじゃったんですよ」
「だったら、依頼を受けずに戻ってくりゃよかったんだよ。一人で行くにはまだ早い」
確かに、一人でも大丈夫だと思って出かけたけど、結局ホワイトさんの助け無しではこんな成果はあげられなかったと思う。
それに想定外のこととはいえ、巨大な熊まで出たんだから。
もし私一人で襲われていたら大ケガをしていたかもしれない。
――うん、師匠に相談もせず一人で判断して森に行くのは良くなかったよね。
「……ごめんなさい」
私は師匠に頭を下げて謝った。
「――わかったならさっさと帰るぞ。ほら、荷物貸せ」
師匠は私の手に持っていたカゴを奪うと、私の右手をギュッと握って歩き始めた。
どうしたんだろ、普段は手なんて繋がないのに。
「しかし、ずいぶんたくさん採って来たな」
「あっ、それもホワイトさんに手伝ってもらったんですよ」
「……ふーん、そうか」
師匠はちょっと不機嫌そうに言った。繋いでいる彼の手に力がこもる。
「あの森にはもう絶対、一人で行ったりするなよ? いいか、絶対だからな?」
「えっ……あ、はい」
あきらかにムスッとした顔の師匠の端整な横顔が夕日に照らされている。
私はぼんやりとホワイトさんの“また会おうね”という言葉を思い出していた。
そしてその言葉の通り、予想以上に早く彼とまた会えることになるとはこの時はまだ知らなかったのだ。
「え、どうしたんですか?」
その瞬間、茂みからガサガサっという音と同時に、巨大な熊が勢いよく飛び出してきた。
彼はすばやく片手を熊に向かって突き出して、短縮された呪文を詠唱する。
「――天の鎖、ヘブンズチェイン!」
彼の手から金色に眩しく輝く魔法の鎖が真っ直ぐに何本も伸びて、瞬時に熊を捕縛した。
――ホワイトさん、魔法が使えるんだ。しかもこんなすごい魔法を一瞬で。
「この子は本来はもっと森の奥深い場所に生息しているはずなんだけどね。エサが無くてこんなところまで来てしまったのかもしれないなぁ」
そう言って捕縛されておとなしくなった熊の顔を覗き込む。
「そうなんですか。まさか熊がでるなんて思ってなかったから、びっくりしました……」
「そうだね、僕も驚いたよ――おや」
急に彼は周囲を見渡して独り言のように言った。
「メイちゃんを迎えにきたのか。しょうがない、僕は一人でこの子を森の奥に返してくるよ」
「えっ、ホワイトさん……?」
「今日はありがとう。それじゃ、また会おうね」
彼は軽く手を振って、私に背を向けペットを散歩させるかのように、光の鎖に繋がれた巨大な熊を連れて森の奥へと戻って行く。
夕日に照らされて彼の長い銀色の髪がオレンジに染まり、キラキラと輝いていた。
「ホワイトさん。――本当に不思議な人」
森の奥へ消えた彼を見送って、私は薬草がたくさん入ったカゴを片手に森の入り口に向かって進もうとした。
「おーい、メイ!」
マントを翻して向こうから慌てた様子で師匠が走ってくる。
「あれ、師匠? どうしてここに?」
「よかった、無事だったか。森に熊が出たってギルドで聞いて慌てて来たんだ」
彼の額には汗が浮かんでいる。相当、急いで来たんだろうな。
「確かに熊は出たんですけど、ホワイトさんが捕まえてくれたんです」
「ホワイト? ……あー。あいつな」
「師匠、ホワイトさんのこと知ってるんですか?」
「まぁな。ところでシェルはどうしたんだ?」
「シェルは風邪で寝込んじゃったんですよ」
「だったら、依頼を受けずに戻ってくりゃよかったんだよ。一人で行くにはまだ早い」
確かに、一人でも大丈夫だと思って出かけたけど、結局ホワイトさんの助け無しではこんな成果はあげられなかったと思う。
それに想定外のこととはいえ、巨大な熊まで出たんだから。
もし私一人で襲われていたら大ケガをしていたかもしれない。
――うん、師匠に相談もせず一人で判断して森に行くのは良くなかったよね。
「……ごめんなさい」
私は師匠に頭を下げて謝った。
「――わかったならさっさと帰るぞ。ほら、荷物貸せ」
師匠は私の手に持っていたカゴを奪うと、私の右手をギュッと握って歩き始めた。
どうしたんだろ、普段は手なんて繋がないのに。
「しかし、ずいぶんたくさん採って来たな」
「あっ、それもホワイトさんに手伝ってもらったんですよ」
「……ふーん、そうか」
師匠はちょっと不機嫌そうに言った。繋いでいる彼の手に力がこもる。
「あの森にはもう絶対、一人で行ったりするなよ? いいか、絶対だからな?」
「えっ……あ、はい」
あきらかにムスッとした顔の師匠の端整な横顔が夕日に照らされている。
私はぼんやりとホワイトさんの“また会おうね”という言葉を思い出していた。
そしてその言葉の通り、予想以上に早く彼とまた会えることになるとはこの時はまだ知らなかったのだ。
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