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1章:私の師匠は世界一

5.先生は大変

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 次の授業は、植物の成長を促す魔法の練習だった。

「よし、じゃあまずは俺が詠唱のお手本を見せるから――」

 師匠は、中庭に生えている草花に向けて、杖を振りかざす。

 「暖かな命の源よ、大地に根ざす生命に祝福を……アースグロウ!」

 杖から穏やかな光が広がり、魔力が植物に注がれた。

 すると、にょきにょきと草花が成長して、そして――

「アハハハハ! 先生、ありえないんだけど!」

「ジュリアス先生、ヤバイって!」

 大きく成長した草花は、大笑いしている生徒達の目の前で根っこを足にして元気に走り回っていた。

「えぇぇぇぇぇぇ!? 師匠! なにやってるんですか!!!!」

「いやぁ……ちょっと元気になりすぎちゃったかな?」

 皆と一緒に、へらへらと師匠は笑っている。
 さっきから失敗続きなんだけど。本当に大丈夫かな、この人。

 本日の最後の授業は、火の魔法の練習をすることになった。

 師匠は「火の取り扱いには十分注意するように」と生徒たちに言い聞かせているけど、その周囲をさっきの草花がバタバタと元気に走り回っているので、なんとも締まらない光景だ。

「では、詠唱するぞ……原始の炎よ我が導きに収束せよ。ファイアー!」

 杖を振りかざし、片手を前に突き出して呪文を詠唱すると、小さな炎が師匠の手の平の上で静かに燃えていた。

 よかった、今度は成功したみたいだ。生徒たちも何故かちょっと安心したような顔をしている。
 基本中の基本だし、さすがにこれくらいはできてもらわないとね……

「じゃあ、皆もやってみようか」

 師匠と同じように生徒達もそれぞれ呪文を唱えて、小さな炎を手の上や杖の先に出現させていく。
 このまま何事もなく授業が終わりそうに見えた、その時。

「うぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 一人の男の子の目の前で火柱が上がった。

「――アクアボール!」

 悲鳴が上がった瞬間、師匠が素早く彼をかばうように間に入り、瞬時に水の魔法で消化する。

 師匠の動きがあまりにも素早すぎて、私も周囲も言葉を失った。顔つきも真剣そのもので、さっきまでとはまるで別人みたいだ。

「トム、怪我は無かったか?」

「はい……ご、ごめんなさい」
 
 周囲は騒然となり、トムと呼ばれた男の子に視線が集まって彼は涙目になってしまった。

 その顔を見て、師匠は彼の背丈に合わせるようにしゃがんで、優しく語りかける。

「大丈夫だ。あんな大きな火をいきなり出せるなんてすげぇよ」

「で、でも……」

「今やってみて何か気づいたことはあるか?」

「……手に熱が集まってきて光ったから怖くて目を瞑ってしまいました。そしたら頭の中で大きな炎が浮かんできて……」

「そうか。じゃあ、次は目を開けて小さな炎をイメージして、もう一回やってみようか」

 師匠の言葉に、トムは少し困った顔をして目を伏せた。

「で、でも……失敗しちゃったし、また大きなのがでたら――」

「失敗を恐れなくていい。大事なのはそこから何を学ぶかだ。それに何度でも俺が消してやるさ」

「ジュリアス先生……」

「大人に助けてもらえるのは子どもの特権だ。だから今のうちにたくさん失敗して経験を積んでおけ」

 トムが顔を上げると、師匠は悪戯いたずらっぽい表情でニカッと笑った。

「失敗した時の為に俺がいる。――だから皆も安心して何度でもチャレンジしろよ!」

 師匠が大きな声で杖を振りかざして生徒達に呼びかけると「はい!」と元気よく声が返ってきた。
 笑顔になったトムも、再び魔法を唱える為に手をかざして集中している。

 そして生徒達が練習を再開すると、あちこちで火柱が上がった。

「……こら、お前ら! わざとでっかい火出して先生を困らせてるだろ!」

「アハハハハ!」

「先生、こっちも来てー!」

「先生、僕の炎も見てよ~!」

「――おい、優秀な生徒が多くてうれしいが、先生は大変なんだからな!」

 そう言いながらも素早く火柱を消化して回る師匠の表情は、なんだか楽しそうだなぁって思った。
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