上 下
3 / 30
1章:私の師匠は世界一

3.弟子の気持ち

しおりを挟む
 あれから一週間が経った。
 その間、私は授業が終わった後に毎日、師匠の家に通っていた。

 スノウホワイト魔法学校のカリキュラムはかなり自由度が高くて、一週間にどの授業を受けるかを個々で決めることができる。

 おかげで師匠のところへ通う時間は十分取れるから、いろいろ教えてもらえるはずだったんだけど。

「このままで本当に、大丈夫なのかなぁ……」

 師匠の家でやったことの大半は庭にある薬草の世話だったり、だらしない彼の代わりに掃除や洗濯をしたりと雑用ばかりだった気がする。

 そんな状況だから、まだ世界一の魔法使いの弟子になったという実感がいまいちわかない。

 おかしいなぁ。落ちこぼれの私だけど実はすごい能力があって、その力をさらに高める為にわざわざ弟子入りしたはずなのに。
 この一週間で高まったのは家事能力だけな気がする。

 「インフィニティ」という謎の能力についても「またその内話すから」と、うやむやにされてしまって結局教えてもらえずにいるし。

 目の前の師匠はそんな弟子の気持ちも知らずに、だらしない表情で大あくびして、頭に手を当てている。

「ふぁぁぁ~。くそ、昨日酒飲むんじゃなかったな。頭いてぇ……」
 
 整った顔をしているから、ちゃんとしていたらきっとカッコイイはずなんだけどなぁ。
 
「――さて。今日は、スノウホワイト魔法学校の初等科に行くから、助手としてメイも付いて来い」

「初等科ですか?」

「あぁ、今日は子ども達に魔法を教えに行く」

 スノウホワイト魔法学校の初等科は、魔法の才能がある子どもを集めた英才教育の場として注目を集めているらしい。

 私が生まれ育った地方には魔法を専門に教えてくれる学校なんてなくて、子どもが魔法を勉強したいなら個別で教えてくれる魔法使いを探すしかなかった。
 
 ――ふと、幼い頃に出会った、魔法使いのお爺さんとその弟子だという少年のことを思い出した。
 
 私の住んでいた村に突然二人はやってきて、村に現れた巨大な魔物を退治してくれたのだ。
 目の前で魔物に襲われそうになった私の元へ、風のような速さで駆け寄って、杖を振りかざした頼もしい魔法使い。

 幼い頃の話なので顔は思いだせないけど、魔物から私を庇うように立っていた少年の小さな背中は、今でもはっきりと思い出せる。

 あの時、私もあの人達みたいな魔法使いになりたいって思ったんだ。

「……おい、メイ。どうした。急にぼーっとして」

「――あ、すみません。えっと、初等科に何しに行くんでしたっけ」

「魔法を教えに行くって言ったろ。あの校長に頼まれててな。特別講師として定期的に教鞭をとってるんだよ」

「へぇ。師匠って実はすごいんですね!」

「実はって。メイは俺のことなんだと思ってるんだ……」

 師匠は呆れた表情をしながらも、正装に着替えて仕度をしている。
 髪を整えてマントを羽織って銀色の杖を腰に差せば、前に校長室で出会った凛々しい世界一の魔法使い「ジュリアス・フェンサー」の姿が出来上がった。

 うん、やっぱりちゃんとしていたら師匠は格好良い。

 ――もしかして、これは最強の彼の魔法を間近で見られるチャンスなのでは。だとしたらすごく勉強になる気がする。

 そうか、だから師匠は私を授業に連れて行ってくれるんだ。
 私は期待に胸を膨らませた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

処理中です...