上 下
157 / 163
season3

158話:大宴会

しおりを挟む
 ワタクシはカメラの前で少々もったいぶった言い回しをしながら、ジンとアレクを部屋に招き入れました。

「これがジェル子ちゃんのお部屋なのねぇ♪ 素敵だわ~!」

 そう言いながら、ジンは興味深そうにフラスコや鉱石標本などを撮影していきます。
 カメラが小さな薬品棚を映したところで、ワタクシはおもむろにフラスコを手に取ってポーズを作りました。

「錬金術の極意。それは物質の変化にあります。稀代の天才錬金術師であるワタクシは――」

「ジェル子ちゃん、これも錬金術の極意なの?」

 ジンのカメラは壁にかけられた地名の入った提灯やキーホルダーを映していました。

「あ、俺が買ってきたやつだ」

「あらまぁ。ジェル子ちゃんったら、アレクちゃんにもらったお土産を大事に飾ってるのねぇ」

「あぁぁぁぁ!!!! 片付けるの忘れてた!!!!」

 ワタクシが慌ててお土産を隠そうとすると、ジンはあごヒゲを撫でて考え込みました。

「ちょーっと地味なのよねぇ。もっとこう映える感じのシーンが欲しいわぁ。ジェル子ちゃんお得意の召喚魔術とか撮らせてもらえないかしら?」

「それなら魔法陣を描く必要があるから、リビングで撮影した方がいいんじゃねぇか?」

 アレクの提案でワタクシ達はリビングへと移動しました。

 ――錬金術の極意を見せるつもりが、恥をかいただけに終わってしまうとは。
 ここは召喚魔術を見せて一気に名誉挽回したいところです。

「あらぁ、可愛いクマちゃんねぇ!」

 ジンはリビングに入るなり、ソファーに座ってアニメを観ていたテディベアーのキリトを抱き上げました。

「誰でありますか⁉」

「あらあらまぁまぁ! おしゃべりもしちゃうの? 可愛いわぁ~!」

「やめるであります! オッサンに抱っこされる趣味は無いであります!」

「んまぁ、お口の悪いクマちゃん! でも可愛いから許しちゃう♪ アタシは魔人のジンちゃんよ~。こう見えてもランプの魔人なのよ。あなた、お名前は?」

 ジンがキリトをソファーに降ろすと、彼は仕方無さそうに自己紹介しました。

「小生はキリトであります。この家で居候させてもらってるでありますよ」

「あらぁ、そうなの。アタシはジェル子ちゃん達のお友達なの。あなたともお友達になりたいわぁ♪」

「お友達以上にはならないであります」

「うふふ、私もダーリンが居るからそれは無理ねぇ」

 ジンはクスクス笑って、撮影を再開しました。
 ワタクシはカメラを意識しながらリビングの床に魔法陣を描き、芝居がかった口調で語りました。

「さぁさぁご覧ください! 今から召喚するのは、なんとワタクシが契約している恐ろしい骸骨《スケルトン》です! 剣の達人なので何でも瞬時に切り裂いてしまうことでしょう!」

 頼みましたよ宮本さん……!
 しかし、魔法陣から出てきたのは正座してズズーッとお茶を飲んでいる宮本さんの姿でした。

「ジェル殿。何か御用でござるか?」

「あぁぁぁぁ! そんな気はしてました!」

 首をかしげる宮本さんを魔界に送り返して、次に何を召喚しようかと考えている間にアレクが「俺も召喚使えるぞ!」とカメラに向かって言い始めました。

「ちょっと、アレク! 主役はワタクシですから! それにアレクは召喚なんてできないでしょう?」

「できるぞ。まぁ見てろ」

 アレクはポケットからスマホを取り出して、どこかへ電話し始めました。

「もしもし? 今、時間ある? ――うん。そうなんだよ、今すぐ来たらたぶん面白いと思うぞ」

 瞬時に目の前の空間がぐにゃりと歪んで、黒いマントにギラギラパンツ一丁のフォラスの姿が現れました。
 彼は見た目こそ変態マッチョですが、ワタクシ達兄弟の後見人であり、魔界でも有力な悪魔の一人です。

「愛し子達よ! この父が来たからには安心であるぞ!」

「あらまぁ、マッチョなおじさま♪ ダンディだわぁ~!」

「ヌゥ……そなたもなかなか立派な大胸筋ではないか!」

 フォラスとジンがそんなことを言っている間に、店の方から声がして氏神のシロまでやってきました。

「アレク兄ちゃん! 用事って何? ……勝手に入るよ~。えっ、何この状況⁉」

 ――こっちが聞きたいです。

「どうだ、お兄ちゃんの召喚魔術は!」

「単に電話で呼んだだけじゃないですか!」

 呼び出したはいいけども、どうしたらいいんでしょう。

「アレク兄ちゃん、飲み会でもするの? お酒どこ~?」

 シロの言葉にフォラスが反応しました。

「おお、異国の神よ! 酒が好きであるか!」

「お酒ならアタシも用意できるわよ~♪」

 ジンが魔法でテーブルの上にビールとワインを出すと、フォラスも同じようにパンツからウイスキーやブランデーを出してテーブルに並べます。

「僕、日本酒がいい!」

 シロのリクエストで彼らが日本酒をテーブルに出現させると、シロは満足そうにソファーに座りました。

「今日はお客さんが多いでありますねぇ。小生は未成年でありますから飲み会は遠慮するでありますよ」

 人の多さにげんなりしたキリトがリビングを出て行こうとしたのを、シロが抱きかかえました。

「このクマさん面白いね、霊がついてる。よかったら僕が成仏させてあげようか?」

「やめるであります!」

「だったら君も飲もうよ」

「物理的に飲めないでありますよ」

「そっかー、残念」

 そうこうするうちに飲み会が始まって、どんちゃん騒ぎとなってしまいました。

「結局、撮影はうやむやになってしまいましたねぇ……」

 その日撮影された映像を、適当にジンが編集して映画監督に持って行ったところ「B級ギャグ作品」として監督は大いに楽しんだそうです。
 しかし、あまりにも内容がグダグダすぎて、ハリウッドどころか世に出ることもなかったのは言うまでもなかったのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

あやかし旅籠 ちょっぴり不思議なお宿の広報担当になりました

水縞しま
キャラ文芸
旧題:あやかし旅籠~にぎやか動画とほっこり山菜ごはん~ 第6回キャラ文芸大賞【奨励賞】作品です。 ◇◇◇◇ 廃墟系動画クリエーターとして生計を立てる私、御崎小夏(みさきこなつ)はある日、撮影で訪れた廃村でめずらしいものを見つける。つやつやとした草で編まれたそれは、強い力が宿る茅の輪だった。茅の輪に触れたことで、あやかしの姿が見えるようになってしまい……! 廃村で出会った糸引き女(おっとり美形男性)が営む旅籠屋は、どうやら経営が傾いているらしい。私は山菜料理をごちそうになったお礼も兼ねて、旅籠「紬屋」のCM制作を決意する。CMの効果はすぐにあらわれお客さんが来てくれたのだけど、客のひとりである三つ目小僧にねだられて、あやかし専門チャンネルを開設することに。 デパコスを愛するイマドキ女子の雪女、枕を返すことに執念を燃やす枕返し、お遍路さんスタイルの小豆婆。個性豊かなあやかしを撮影する日々は思いのほか楽しい。けれど、私には廃墟を撮影し続けている理由があって……。 愛が重い美形あやかし×少しクールなにんげん女子のお話。 ほっこりおいしい山菜レシピもあります。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

「お節介鬼神とタヌキ娘のほっこり喫茶店~お疲れ心にお茶を一杯~」

GOM
キャラ文芸
  ここは四国のど真ん中、お大師様の力に守られた地。  そこに住まう、お節介焼きなあやかし達と人々の物語。  GOMがお送りします地元ファンタジー物語。  アルファポリス初登場です。 イラスト:鷲羽さん  

処理中です...