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season2
142話:サンタがやってきた
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あ~、暇だなぁ。
今日の俺は一人でアンティークの店「蜃気楼」の店番をしている。
いつもは弟のジェルマンが一緒なんだけどさ。
ジェルのやつ、行きつけの宝飾品店のウィンターセールがあるとかで一人で出かけちまったんだ。
たぶんまたブローチを買うんだろう。
「ハァ……俺も一緒に行きたかったなぁ」
“アレクが一緒だとゆっくり買い物ができませんから、付いて来ないでください“
ジェルにそっけなくそう言われたことを思い出して、自然とため息がでる。
「ジェルのやつ、幼い頃はずっと俺にくっついて離れなかったのになぁ。お兄ちゃんさびしい……」
俺はカウンターの椅子に座って、静かな店の中をぐるりと見渡した。
魔術書や珍しい薬品、骨董品や美術品、アンティーク家具に神話に登場するような伝説の武具。
所狭しと物が並んでいるはずなのに、ジェルが居ないと店がやけに広く感じるから不思議だな。
「あー、早く帰ってこねぇかなぁ……」
その時、店の入り口の方で物音がした。ジェルが帰って来たんだろうか?
「お帰り! ……あれ? えっ、えっと、誰だっけ⁉」
そこに居たのはジェルではなく、でっぷりと太って白いヒゲを生やしたおっちゃんだった。
オッサンと呼ぶのはちょっと違う、なんというか見ててほっこりするような、おっちゃんって呼ぶに相応しい感じの人だ。
真っ赤な服と真っ赤な帽子が暖かそうだなぁ。
あっ、これってもしかして――
「なるほど、サンタのコスプレか~! そういや、もうすぐクリスマスだもんな。すげぇ似合ってるな!」
「ホッホッホッ、おじゃまするぞぃ」
「おう、アンティークの店、蜃気楼にようこそ! ゆっくり見て行ってくれ!」
この店は、うちの店の品を必要とする人しか入れないようにできている。
だからきっと、この店の中におっちゃんの必要な物があるんだろう。
久しぶりのお客さんに俺はうれしくなった。
サンタにそっくりのおっちゃんは、店内を楽しそうに見て回って、棚の隅に置かれていた金色のベルを買いたいと言った。
これはたしか、大型のペットや家畜に付けたりする用のベルだったはず。
おっちゃんは何か飼ってるのかな?
「うーん、できれば売ってあげたいんだけど今は無理なんだ」
この店を管理しているのは弟のジェルマンで、彼が売って良いと判断した相手で無いと売ることができない。
そういうルールで始めた店だから、俺の判断でベルを売ることは出来なかった。
「それは困ったのう。ぜひトナカイの為に売って欲しいんじゃが……」
おっちゃん、トナカイ飼ってるのか。まるで本物のサンタクロースみてぇだな。
「じゃあさ、ジェルが帰ってくるまで店の中で待っててくれないか? すぐ帰ってくるように言うからさ」
「ほうほう、ではそうさせてもらおうかのう」
俺はおっちゃんを来客用の椅子に座らせて、ジェルに電話してすぐ戻ってくるように言った。
「ごめんな、すぐ戻ってくるってさ」
「構わんよ。のんびり待たせていただこう」
俺は温かい紅茶をいれて、おっちゃんに手渡した。
「ほうほう、ありがたいのう」
「今日も寒いよなぁ。遠慮せず飲んでくれ。――そういやさ、おっちゃん普段は何やってる人なんだ?」
一緒に紅茶を飲みながら軽く雑談をふってみると、おっちゃんは話に乗ってきた。
「そうだなぁ、最近は手紙の返事を書いたり、おもちゃを作ってるのう」
「おっちゃんは、おもちゃ工場で働いているのか。工場ってライン作業が大変なんだってな」
「ほうほう、そうかもしれんのう」
おっちゃんはニコニコしながら相槌をうっている。
「しかし、おもちゃ工場に働いてるとか、子どもがうらやましがるだろうな。――おっちゃん、子どもは居るのか?」
「ホッホッホッ、世界中の子どもはワシの子どもじゃよ」
――マジか! 話の流れで何気なく聞いただけなのに、とんでもない答えが返ってきた!
「すげぇ、俺知ってる! そういうの『ゼツリン』って言うんだってジェルが言ってた!」
俺が尊敬の眼差しで見ると、おっちゃんはホッホッホッと白いヒゲを撫でながら笑っている。
「でもさ、そんなにたくさん子どもが居たら家の中、大変だろうな~!」
テレビで、子だくさんの大家族の日常を放送してる番組を観たことがある。
きっとそんな感じで、おっちゃんの家も毎日大騒ぎに違いない。
「いや、トナカイと住んでいるだけじゃよ」
――おっちゃん! 家庭上手くいってないのかよ! 無神経なこと言っちゃってごめんなぁぁぁぁ~!!!!
俺は心の中で土下座した。
するとおっちゃんは俺の表情に何か察したのか、急に話題を変えてきた。
「そういえば、もうすぐクリスマスじゃが、アレクサンドル君は何が欲しいんだね?」
今日の俺は一人でアンティークの店「蜃気楼」の店番をしている。
いつもは弟のジェルマンが一緒なんだけどさ。
ジェルのやつ、行きつけの宝飾品店のウィンターセールがあるとかで一人で出かけちまったんだ。
たぶんまたブローチを買うんだろう。
「ハァ……俺も一緒に行きたかったなぁ」
“アレクが一緒だとゆっくり買い物ができませんから、付いて来ないでください“
ジェルにそっけなくそう言われたことを思い出して、自然とため息がでる。
「ジェルのやつ、幼い頃はずっと俺にくっついて離れなかったのになぁ。お兄ちゃんさびしい……」
俺はカウンターの椅子に座って、静かな店の中をぐるりと見渡した。
魔術書や珍しい薬品、骨董品や美術品、アンティーク家具に神話に登場するような伝説の武具。
所狭しと物が並んでいるはずなのに、ジェルが居ないと店がやけに広く感じるから不思議だな。
「あー、早く帰ってこねぇかなぁ……」
その時、店の入り口の方で物音がした。ジェルが帰って来たんだろうか?
「お帰り! ……あれ? えっ、えっと、誰だっけ⁉」
そこに居たのはジェルではなく、でっぷりと太って白いヒゲを生やしたおっちゃんだった。
オッサンと呼ぶのはちょっと違う、なんというか見ててほっこりするような、おっちゃんって呼ぶに相応しい感じの人だ。
真っ赤な服と真っ赤な帽子が暖かそうだなぁ。
あっ、これってもしかして――
「なるほど、サンタのコスプレか~! そういや、もうすぐクリスマスだもんな。すげぇ似合ってるな!」
「ホッホッホッ、おじゃまするぞぃ」
「おう、アンティークの店、蜃気楼にようこそ! ゆっくり見て行ってくれ!」
この店は、うちの店の品を必要とする人しか入れないようにできている。
だからきっと、この店の中におっちゃんの必要な物があるんだろう。
久しぶりのお客さんに俺はうれしくなった。
サンタにそっくりのおっちゃんは、店内を楽しそうに見て回って、棚の隅に置かれていた金色のベルを買いたいと言った。
これはたしか、大型のペットや家畜に付けたりする用のベルだったはず。
おっちゃんは何か飼ってるのかな?
「うーん、できれば売ってあげたいんだけど今は無理なんだ」
この店を管理しているのは弟のジェルマンで、彼が売って良いと判断した相手で無いと売ることができない。
そういうルールで始めた店だから、俺の判断でベルを売ることは出来なかった。
「それは困ったのう。ぜひトナカイの為に売って欲しいんじゃが……」
おっちゃん、トナカイ飼ってるのか。まるで本物のサンタクロースみてぇだな。
「じゃあさ、ジェルが帰ってくるまで店の中で待っててくれないか? すぐ帰ってくるように言うからさ」
「ほうほう、ではそうさせてもらおうかのう」
俺はおっちゃんを来客用の椅子に座らせて、ジェルに電話してすぐ戻ってくるように言った。
「ごめんな、すぐ戻ってくるってさ」
「構わんよ。のんびり待たせていただこう」
俺は温かい紅茶をいれて、おっちゃんに手渡した。
「ほうほう、ありがたいのう」
「今日も寒いよなぁ。遠慮せず飲んでくれ。――そういやさ、おっちゃん普段は何やってる人なんだ?」
一緒に紅茶を飲みながら軽く雑談をふってみると、おっちゃんは話に乗ってきた。
「そうだなぁ、最近は手紙の返事を書いたり、おもちゃを作ってるのう」
「おっちゃんは、おもちゃ工場で働いているのか。工場ってライン作業が大変なんだってな」
「ほうほう、そうかもしれんのう」
おっちゃんはニコニコしながら相槌をうっている。
「しかし、おもちゃ工場に働いてるとか、子どもがうらやましがるだろうな。――おっちゃん、子どもは居るのか?」
「ホッホッホッ、世界中の子どもはワシの子どもじゃよ」
――マジか! 話の流れで何気なく聞いただけなのに、とんでもない答えが返ってきた!
「すげぇ、俺知ってる! そういうの『ゼツリン』って言うんだってジェルが言ってた!」
俺が尊敬の眼差しで見ると、おっちゃんはホッホッホッと白いヒゲを撫でながら笑っている。
「でもさ、そんなにたくさん子どもが居たら家の中、大変だろうな~!」
テレビで、子だくさんの大家族の日常を放送してる番組を観たことがある。
きっとそんな感じで、おっちゃんの家も毎日大騒ぎに違いない。
「いや、トナカイと住んでいるだけじゃよ」
――おっちゃん! 家庭上手くいってないのかよ! 無神経なこと言っちゃってごめんなぁぁぁぁ~!!!!
俺は心の中で土下座した。
するとおっちゃんは俺の表情に何か察したのか、急に話題を変えてきた。
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