上 下
141 / 163
season2

142話:サンタがやってきた

しおりを挟む
 あ~、暇だなぁ。
 今日の俺は一人でアンティークの店「蜃気楼しんきろう」の店番をしている。
 いつもは弟のジェルマンが一緒なんだけどさ。
 ジェルのやつ、行きつけの宝飾品店のウィンターセールがあるとかで一人で出かけちまったんだ。
 たぶんまたブローチを買うんだろう。

「ハァ……俺も一緒に行きたかったなぁ」

 “アレクが一緒だとゆっくり買い物ができませんから、付いて来ないでください“

 ジェルにそっけなくそう言われたことを思い出して、自然とため息がでる。

「ジェルのやつ、幼い頃はずっと俺にくっついて離れなかったのになぁ。お兄ちゃんさびしい……」

 俺はカウンターの椅子に座って、静かな店の中をぐるりと見渡した。
 魔術書や珍しい薬品、骨董品や美術品、アンティーク家具に神話に登場するような伝説の武具。
 所狭しと物が並んでいるはずなのに、ジェルが居ないと店がやけに広く感じるから不思議だな。

「あー、早く帰ってこねぇかなぁ……」

 その時、店の入り口の方で物音がした。ジェルが帰って来たんだろうか?

「お帰り! ……あれ? えっ、えっと、誰だっけ⁉」

 そこに居たのはジェルではなく、でっぷりと太って白いヒゲを生やしたおっちゃんだった。
 オッサンと呼ぶのはちょっと違う、なんというか見ててほっこりするような、おっちゃんって呼ぶに相応しい感じの人だ。
 真っ赤な服と真っ赤な帽子が暖かそうだなぁ。

 あっ、これってもしかして――

「なるほど、サンタのコスプレか~! そういや、もうすぐクリスマスだもんな。すげぇ似合ってるな!」

「ホッホッホッ、おじゃまするぞぃ」

「おう、アンティークの店、蜃気楼にようこそ! ゆっくり見て行ってくれ!」

 この店は、うちの店の品を必要とする人しか入れないようにできている。
 だからきっと、この店の中におっちゃんの必要な物があるんだろう。
 久しぶりのお客さんに俺はうれしくなった。

 サンタにそっくりのおっちゃんは、店内を楽しそうに見て回って、棚の隅に置かれていた金色のベルを買いたいと言った。

 これはたしか、大型のペットや家畜に付けたりする用のベルだったはず。
 おっちゃんは何か飼ってるのかな?

「うーん、できれば売ってあげたいんだけど今は無理なんだ」

 この店を管理しているのは弟のジェルマンで、彼が売って良いと判断した相手で無いと売ることができない。
 そういうルールで始めた店だから、俺の判断でベルを売ることは出来なかった。

「それは困ったのう。ぜひトナカイの為に売って欲しいんじゃが……」

 おっちゃん、トナカイ飼ってるのか。まるで本物のサンタクロースみてぇだな。

「じゃあさ、ジェルが帰ってくるまで店の中で待っててくれないか? すぐ帰ってくるように言うからさ」

「ほうほう、ではそうさせてもらおうかのう」

 俺はおっちゃんを来客用の椅子に座らせて、ジェルに電話してすぐ戻ってくるように言った。

「ごめんな、すぐ戻ってくるってさ」

「構わんよ。のんびり待たせていただこう」

 俺は温かい紅茶をいれて、おっちゃんに手渡した。

「ほうほう、ありがたいのう」

「今日も寒いよなぁ。遠慮せず飲んでくれ。――そういやさ、おっちゃん普段は何やってる人なんだ?」

 一緒に紅茶を飲みながら軽く雑談をふってみると、おっちゃんは話に乗ってきた。

「そうだなぁ、最近は手紙の返事を書いたり、おもちゃを作ってるのう」

「おっちゃんは、おもちゃ工場で働いているのか。工場ってライン作業が大変なんだってな」

「ほうほう、そうかもしれんのう」

 おっちゃんはニコニコしながら相槌をうっている。

「しかし、おもちゃ工場に働いてるとか、子どもがうらやましがるだろうな。――おっちゃん、子どもは居るのか?」

「ホッホッホッ、世界中の子どもはワシの子どもじゃよ」

 ――マジか! 話の流れで何気なく聞いただけなのに、とんでもない答えが返ってきた!

「すげぇ、俺知ってる! そういうの『ゼツリン』って言うんだってジェルが言ってた!」

 俺が尊敬の眼差しで見ると、おっちゃんはホッホッホッと白いヒゲを撫でながら笑っている。

「でもさ、そんなにたくさん子どもが居たら家の中、大変だろうな~!」

 テレビで、子だくさんの大家族の日常を放送してる番組を観たことがある。
 きっとそんな感じで、おっちゃんの家も毎日大騒ぎに違いない。

「いや、トナカイと住んでいるだけじゃよ」

 ――おっちゃん! 家庭上手くいってないのかよ! 無神経なこと言っちゃってごめんなぁぁぁぁ~!!!!

 俺は心の中で土下座した。
 するとおっちゃんは俺の表情に何か察したのか、急に話題を変えてきた。

「そういえば、もうすぐクリスマスじゃが、アレクサンドル君は何が欲しいんだね?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

あやかし旅籠 ちょっぴり不思議なお宿の広報担当になりました

水縞しま
キャラ文芸
旧題:あやかし旅籠~にぎやか動画とほっこり山菜ごはん~ 第6回キャラ文芸大賞【奨励賞】作品です。 ◇◇◇◇ 廃墟系動画クリエーターとして生計を立てる私、御崎小夏(みさきこなつ)はある日、撮影で訪れた廃村でめずらしいものを見つける。つやつやとした草で編まれたそれは、強い力が宿る茅の輪だった。茅の輪に触れたことで、あやかしの姿が見えるようになってしまい……! 廃村で出会った糸引き女(おっとり美形男性)が営む旅籠屋は、どうやら経営が傾いているらしい。私は山菜料理をごちそうになったお礼も兼ねて、旅籠「紬屋」のCM制作を決意する。CMの効果はすぐにあらわれお客さんが来てくれたのだけど、客のひとりである三つ目小僧にねだられて、あやかし専門チャンネルを開設することに。 デパコスを愛するイマドキ女子の雪女、枕を返すことに執念を燃やす枕返し、お遍路さんスタイルの小豆婆。個性豊かなあやかしを撮影する日々は思いのほか楽しい。けれど、私には廃墟を撮影し続けている理由があって……。 愛が重い美形あやかし×少しクールなにんげん女子のお話。 ほっこりおいしい山菜レシピもあります。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

「お節介鬼神とタヌキ娘のほっこり喫茶店~お疲れ心にお茶を一杯~」

GOM
キャラ文芸
  ここは四国のど真ん中、お大師様の力に守られた地。  そこに住まう、お節介焼きなあやかし達と人々の物語。  GOMがお送りします地元ファンタジー物語。  アルファポリス初登場です。 イラスト:鷲羽さん  

処理中です...